第22話 暖かい家
朝、いつものことだが、奴隷のケリーが起きるのは遅い。外で焚火しているリリエスのところに挨拶して、クリーンの魔法で身だしなみを整える。
「ケリー、今日は安息日だから、町へは行かなくていいよ」
「それでもモンスター倒してきていい?」
「ああ、いつも通りがいいなら、そうしな」
ケリーは強くなりたかった。それに新しい場所に興味津々だ。家は壊れた3階建ての塔。何か由緒ありそうな塔だった。奥の方は行ってはいけないと言われているが、なんか怪しい雰囲気が充ちている。
アリアが出てきてくれているから、怖くない。スライムや角兔、コボルト。アリアからは気配を消して近づけと言われる。コツは呼吸だという。風下から、足音とを建てないように、静かな息を心がけながら近ずく。すぐにはうまくいかないが、でも気付かれるのは少し遅くなったと思う。
「アリアがいないと、僕はまだ何にもできない」
「それは仕方ないのよ。まだ5歳児だし」
「粘糸で拘束してもらわないと、コボルトに殺されているし」
「いつか、私を必要ないと思う日が来るわよ」
そんな日が来たら淋しいだろうなとアリアは思う。
「右目もしてもらっているし。他に僕は何してもらっている?僕の知らないことまだある?」
「あとはときどきヒールしたり、MP補充しているかな」
「MP補充もしてもらっているんだ」
「ケリーはもともとMP多い。それでも起きている間中、祈りのスキル使っているから、1日に3回くらいMPが無くなるのね。それを補充しているの」
ケリーの中で3歳の時覚醒した一真は、ずっと魔力操作をしてきた。魔力が多いのはその成果だろう。
焚火の傍に戻る。アリアはケリーの皮膚に隠れる。いつもの麦のおかゆだ。栄養ありそうだし、とにかくおいしい。それを食べながらリリエスと話すのが楽しいケリーだった。
「今日は僕たち何をするの」
「本当は安息日は何もしないで神に祈るんだけどな。でも私は神は信じていないから、いつも働いてきた」
「僕も神は信じていない。神様がいたら父さんや母さんは死はずなかった」
「私はモンスターの落とした武器なんかを、ゆっくりリペアする。その間ケリーは遊んでいていいよ。蜘蛛女も明日の朝まで自由行動。それが終わったら、モーリーと一緒に森の手入れをする。明日はあの木の洞に泊まる」
「モーリーって、リリエスの役に立っている?」
「役に立っているよ。今から木を伐って、冬の薪を作っている。それにモンスターを倒して、食べられる肉は干し肉とかソーセージにするつもりなんだ。家も冬に備えて暖かいものにしたいし」
「暖かい家なら、僕、考えるの得意かもしれない」
これをやってみたいのはケリーの中の一真だ。ケリーの中で覚醒してから、寒い家が苦手で、どうすればこの世界で暖かい家ができるか妄想した。前世の知識を検索して、土と藁でできる断熱住宅を構想していたのだ。
「まさか、5歳の子にそれは無理だろう」
「僕の中に、一真っていうのがいて、僕の前世の人なんだ。この人知識一杯持っているから」
「異世界転生か。そう言う場合、ケリーの人格は乗っ取られて無くなるんだが。たしかに難しい言葉知っていたり、読み書きできるから変だとは思っていた。他の人に言わないようにね。変な人に利用されるから」
「僕に紙ちょうだい。新しい家の絵を描くから」
「それじゃ、北の要塞の家を暖かくしてもらう。くれぐれもこの世界でできることで考えてね。それとお金がかかるのは駄目。ほとんどただで作れるように頼むよ」
ケリーはこないだゴミ捨て場で拾って来た、リリエスがリペアしてくれた本を読む。実際の本はいらない。さっと目を通したものは、映像記憶を利用して読むことができる。今夢中なのはこの世界の旅行記だ。
リリスはガラクタや武器のリペア。モンスターの落としたものは驚くほどいいものだった。30年間、このあたりでも狩りをしてきた。モンスターもたくさん倒した。しかしこんなに質の良いものは珍しい。武器はリペアすると、美しい。相当貴重なものがたくさんあった。指輪やアクセサリー類もレアだ。リリエスの鑑定では完全には分からないが、売れば相当高価であることは分かる。ケリーがプレゼントしてくれた右目という幸運のスキルのおかげだろうか。とりあえずケリーの成長促進の指輪に付与魔法を施して、すぐつけてもらう。
ゆっくりして、森へ出かける。視野に入らない所で、木を伐っている音だけ聞こえる。モーリーだ。今伐っているのは、枯れた木だ。枯れた木は乾燥しているから燃えやすい。虫にやられてぼろぼろになっている木も伐る。倒木は新たな木の芽を出す土台となるから、すべては薪にしない。でも嵐の時に川に流れ出し被害を与えるから、半分は薪にしている。他には密になりすぎた枝やひこばえ。火をつけるための焚きつけも大事なのだ。
リリエスは森で生活する基本をケリーに教える。動物やモンスターの足跡や、糞や枝の折れ方などの痕跡をケリーに教えながら、北上して今日の家に向かう。
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