第20話 30倍のレベルアップ

「リリエスのレベルが上がらないの呪いなの。リリエス自身も知らないんだけど」


 リリエスが快楽追求した生活を送ったのは、アリアのせいだが、この呪いはアリアには責任がない。


「30年、まったく上がらないよな。俺も不思議だと思っている。俺が同じパーティーにいた時、20年以上前だが、火魔法のスキルはレベル1だった。今も同じらしいな。スキル経験値パーティーの仲間にほとんど降っているからそうなるんだろうけど、それにしても」


「30年前恐ろしいリッチに会って」


 死の谷のダンジョンだった。そこで出会ったリッチは、神獣であるアリアにとってもお空しい相手だった。アリアの右目の幸運のスキルを必死に使っても、リリエスたちは全滅しそうだったのだ。


「呪われたのか。今の勇者パーティーにいたんだよな。他の連中は順調にスキルレベル上げているぞ。リリエスだけ呪われたということか」


 パーティーの他のメンバーは既に死んでいた。リリエスだけが、幸運にも生き残っていた。


「全滅しそうになった。リリエスだけ意識があった。そこでリッチのジンウエモンが言ったのよ。殺されるか、呪いを受け入れるか選べって。呪いを受け入れたら、死んだメンバーも生き返らせるって」


 ジンウエモンは怖ろしい相手だが、アリアには数年前に死んだ。怖ろしい魔力が消滅したのをアリアは感じ取っていた。


「もうリリエスの中にいたのか」


「中に封印されて3か月くらい」


「呪いを受け入れる以外の選択肢はないだろうな。自分だけじゃなくてメンバーの命までかかっていたら」


「呪いは悪いことばかりじゃなかったのよ。30年レベルアップを保留する。その代わり、30年後のスキルのアップは、本来の30倍になる。受け入れると全員蘇生し、記憶は消された。でもジンウエモンは、私に気はつかなかった。私はリリエスの右の胸の黒子になっていたからね。だからリリエスは覚えていないけれど、私だけは知っているの。もうすぐリリエスのスキルは全部カンストするってね」


「カンストじゃすまないな。レベルの限界は10だ。もしリリエスの保留されたレベルアップは1でも、今度来るレベルアップはその30倍になる」



「限界突破のスクロール必要なのはリリエスなの」


「大賢者が生まれるということか」


「限界突破のスクロール、手に入れてくれる?」


 アリアにはジンウエモンの狙いは分かっている。30年レベルアップしないで、さんざん屈辱を受けてきたこの女は、30年後急に強大な力を得たら、今まで自分をバカにした人間に、強烈な復讐をするに違いない。そう考えていたに違いない。だがアリアはリリエスが復讐するとは思えなかった。


「もしそれがなくても、賢者にはなれるだろうな。だがレベル10と、限界突破したレベル30じゃ全く違う。神に匹敵する存在になるのか」


 神に匹敵する存在になったとしたら、リリエスはどうするだろうか。リリエスをレベルカンスト以上の限界突破者にしてみたかった。


「神なのか、悪魔なのか。私は変貌したリリエスの姿を見てみたいの」


「リリエス本人はこのことを知らないんだな」


「レベルアップしないことを変だとは思っているわね。でもさほど苦にしていない。新しいスキルを覚えることはできるの。でもレベルは1からは上がらない」


「呪いのせいじゃなくて、ただ経験値を仲間に貢いでいるから上がらない。それだけじゃないのか」


「リリエスは毎日町で騒いでいたわけじゃないわ」


「どういう意味だ」


「週に1回、安息日の前の深夜、リリエスは森へ行っていた。そして1日集中して仕事をしていた。森を手入れする仕事をね」


「そう言えばそうだったかもしれない。安息日明けに、大量の魔石をギルドに持ち込んでいた。けっこう稼いでいたよな。あっという間に全部使い切ってしまっていたけど」


「酒場には兔やシカやイノシシ、オークの肉、宿には肉の他に冬の薪、薬師には薬草や毒消し草など多種類大量、みんなタダでもらっていたわよね。30年。お金にしたらいくらになるかしら」


「たしかに酒場だけじゃなく、みんなリリエスに借金返せという資格はないわけだ」


「週に1回。でも15時間。リリエスは本気で木を伐り倒し、モンスターを倒していた。あらゆるスキルを使ってね。ピュリスの美しい森、安全な森はリリエスの贈り物なのよね。1年で50日以上。30年続けたらどうなるかしら。普通の冒険者の10年分くらいの経験値はたまっている。少なくてもね。なのに1回もレベルアップしていない」


「信じよう。で、あと何カ月ある。その大爆発まで」


「約6か月」


 執務室のドアが勢いよく開いた。入ってきたのはエルザだ。


「私も協力させてください。この同盟に参加します。最初から全部聞いてしまいました」


「まあ二人ともわかっていたさ。エルザが立ち聞きしているってね」


「プロジェクトは2つあるから、手が足りないのよ」


「私主にケリー君の担当でお願いします」


「そんな都合よく行くわけないじゃない。使いぱっしりできるのあんたしかいないのよ」

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