第19話 限界突破スクロール
「とりあえず、名前を教えてくれ」
クルトは必死に立て直しをはかる。動揺は抑え込んだ。だがこの交渉は負けるとクルトは覚悟した。だが粘れるだけ粘る。
「アリア」
「きれいな名前だな。命名はリリエスか?アラクネでリリエスの従魔ということであっているか」
「従魔ではないし、命名はリリエスではないわ。アラクネというのはその通りよ」
「従魔だったら、ご主人様にそんなことできないからな。でもどういう立場なんだ」
リリエスがテイマーのスキルを持っていたことは、エルザとの話で分かっていた。でもこのアラクネは従魔じゃないのか。それはクルトの理解を越える話だ。
「同盟者。今はリリエスだけでなくて、その奴隷とも同盟している。それであんた何がお望み」
「リリエスに何かしてやりたい。それだけだな」
「男にしてもらった恩返し?」
「それと博打でリリエスから金を稼いだ。それも2回」
1回目は恋人の病気を治す薬。恋人は結局薬を飲んでも死んだが。でもクルトは高価な薬を飲ましてやれた。2回目はエルザを養子にする時だ。どちらもクルトの人生に深くかかわる出来事だった。
「事情は知っているし、クルトの人柄も知っているから、信用してもいいわ」
「何が起きているんだ。俺の直感が、何か凄いことことが起きていると言っている」
クルトは考えることは得意だ。考えなくてはこの世界を渡ってはいけない。だがそれだけではだめなのだ。直観を信じなくては生きてこれなかった。その直感が何かを告げている。
「助けてもらいたいことが2つあるのよ。一つはケリー」
「あの5歳の奴隷だな」
直感が告げていることの一つ。ケリーがこの何かに関係しているということだ。もう一つはリリエス。このふたつが絡み合っている。直観はそう告げている。
「ケリーが復讐しようとしている。それを手伝うつもりなの。私」
「なんの利益がある。あんたに」
「私くらいのレベルになると、利益も損失もないの。私、死なないから。善悪もない。ただの気まぐれかな。でも必ずやり遂げる」
「あんたが代わりに殺せば一番簡単だ」
「ケリーがね。自分で殺したいと言ってるの」
「それは無理だな」
「5年.それだけあれば、ケリーを人殺しにできる」
10歳か。真正面から立ち向かったら無理だ。暗殺者になれば大人の男、ならず者を殺せるかもしれない。
「リリエスも同意かい?」
「そうよ」
アリアはほとんどリリエスと話したことはない。でも30年一体だったリリエスのことは知っている。
「俺にできることは?」
「情報が欲しい。誰を殺せばいいのか」
クルトが恩を返したいのはリリエスでケリーではない。ただ誘拐して奴隷に売るやつらが目に余るのも事実だった。やってもいいが、さほど優先事項じゃないなとクルトは思う。
「もう一つは?」
「限界突破のスクロールが欲しい」
「スキルのレベルが10を突破しても上昇する?それが必要な奴は50年に1回現れるくらいだな。だからまず物がないし、あっても高い。俺じゃ買えないと思うが」
「10年に1回くらい宝箱で出る。そう珍しもんじゃないのよ。それを買いたいっていう人はいないから、手に入れても売れない。だから思ったほど高くないわ。1億チコリもあれば買える」
「誰が必要なんだ?」
50年に一度くらい、語り継がれる英雄が生まれる。そんな英雄なら必要になる。それとも魔王か。
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