第17話 今夜酒場で待つ

 ケリーが起きると、もうリリエスはベッドにいない。昨日の記憶はベッドでリリエスに抱きしめられながら、祈りのスキルを唱えていたところで途切れる。ケリーに併存している一真としては、24歳の男性として、成熟した女性に抱きしめられる感触を楽しみたいのだが、いつも短時間で意識を失ってしまう。眠ってしまうのか、魔力切れで気を失っているのかは判然としない。


 急いで起きると、リリエスが焚火の傍にいて、近くに新しい服が置いてあった。


「蜘蛛女が新しい服作ってくれたから着替えておきな」


「おはようございます。ありがとう」


 着心地の良い服だった。動きやすくて、温かい。


「着替えたら、今日は薬草と毒消し草。モンスターの魔石10個、獲っといで」


 家から離れるといつものようにアリアが出てきてくれた。


「アリア、新しい服ありがとう。すごく着やすい。格好もいいし」


「リリエスが付与魔法で自動調節してくれているから、いつまでも着られるわね。でも次の服また作ってあげるから」


 昨日仲間になったモーリーは、それっきりだ。頭の半分で周りの草を映像検索。薬草と毒消し草がないか探す。並列思考だから。頭の半分では祈りのスキルを唱えている。これは贈与と痛み耐性を統合したスキル。100万回唱えると1回くらいの確率で、他人のスキルがコピーできる。1か月に1回くらいもらえるはず。今月はアリアの右目というスキルをコピーさせてもらった。幸運のスキルで、そのスキルはリリエスに贈与した。


 森へ向って歩いて薬草や毒消し草を見つけた。映像記憶のスキルと並列思考のスキルを使うと、薬草を探したりするのにすごく便利だ。


 廃坑は不気味な入口を見せている。なんか怖い。廃坑の方からスケルトンが3体出てきた。武器はツルハシやスコップ。やはりまだ一人ではかなわない。アリアに粘糸で拘束してもらって倒す。


 朝食はいつもの具だくさんの麦がゆ。今日のには魚の残りが入っていて、美味しかった。


「ケリー、今日は南の門から出ておいで。ゴミ捨て場も忘れないようにね。それとカシムのところにもゴミあるはずだから寄ってみて。南門を出て、ずっと行くと古代遺跡がある。そこにいるから。道は蜘蛛女が知っている」


「買い物はなんかありますか」


「塩を買ってきて。あとは市場で食べたいものがあれば買ってきてもいいよ」


「わかった」


「それから、痛み取り終わったら、串焼き買って食べな。ケリーは体作らなくちゃなんなないから、これから昼も食べるようにしな」


 普通食事は2回だ。朝起きて一仕事してから食べて、日没ころ食べて、しばらくくつろいだら寝る。確かに二食では栄養不足かもしれなかった。ケリー(の中の一真)は喜んで答える。


「はい。行ってきます」


 冒険者ギルド。中に入るとすぐエルザがやってきて、袋から魔石と薬草を取り出して、別の受付嬢に渡す。訳が分からず手を引かれていくと、地下に連れていかれた。


「ケリー君、新しい服買ってもらったのね。お似合いよ」


「はい、とても動きやすいです」


「武器や防具装備しているわよね。それじゃお姉さんと一緒にダンジョン攻略するわよ」


 いきなりスライムが1体突進してくる。剣を構えて、核をめがけて剣をふるう。アリアの教え通りにできた。両断して、核を取り出す。


「やった」


「ケリー君、上手」


 この日はスライムだけ5体。30分くらいダンジョンで訓練した。終わって上へ行くと換金が終わって、ギルドで出たガラクタとお金が準備されていた。


「リリエスが今日は市場で塩買って、串焼き食べなって言っ買って」


「それじゃ千チコリ現金で。あとは口座に入れておくわね。あ、そうそう、ケリー君生まれた場所聞くの忘れていたんだけど」


「サエカ村です。もうなくなってしまったけれど」


 広場で痛み取りを始めたのはいつもよりほんのちょっと遅いくらいだ。もう待っている人がいる。袋を広げガラクタを入れてもらう。現金の人は5人、ガラクタの人は21人。少しずつ増えている。


 市場で塩を買って、お店で串焼きを買う。串焼きを食べながら、いつもの道具屋さんへ行く。今日は武器もあるが、スケルトンの落としたツルハしやスコップもある。それが何に使う物か、価格はいくらか、おじさんが教えてくれる。ケリーは映像記憶で確実に記憶しながら、同時におじさんにも祈りのスキルを使う。商人の人のスキルも欲しい。アリアは敵討ちには商人に偽装した方がいいと言っていたから、ケリーもいろいろ真剣だ。


 いったんカシムの奴隷商の店に行く。


「こんにちは。ガラクタもらいに来ました」


「お前はこないだリリエスに売った奴隷だな。リリエスはついにゴミ漁りに落ちたか。憐れだな。飯食ってるか」


「毎日おいしく食べています。なんかゴミありますか」


「死んだ奴隷の服とか、安物の指輪とかなら、ゴミ捨て場にあるから勝手に持っていきな」


「ありがとうございます」


 服は燃やさないでそのまま捨てているようだった。壊れた木の食器や、古い指輪や腕輪など、何か怨念のこもったものが大量に捨ててあった。


 そしてゴミ捨て場。南門の近くにあり、庶民の家のゴミが捨てられている。生ものが多く、使えそうなものはあまりない。それでも錆びた鉄くずや腐った木片を漁った。


 南門を出るとオリーブの畑だ。すぐ走り出す。アリアも出てきて一緒に走る。


「ケリー。新しいスキルもらっている。絵画というスキル」


「痛み取りしている時、やさしそうなおじいちゃんいた。画家だったんだね。絵が上手になるかな」


 その時、アリアだけに聞こえる声で、


「今夜、酒場で待つ」


 という声がどこからともなく聞こえた。諜報関係者だけができる特殊な伝達方法だ。立ち止まって見まわしたが、誰もいない。アリアはまたすぐ走り出した。

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