第14話 薬

 アリアが上半身裸で出てくるとケリーはうれしい。ケリーの中には5歳児のケリーだけでなく、24歳だった一真の人格も併存している。ケリーの方は頼れるお姉さんが来て安心している。併存している一真の方は成人男子として見事な上半身を目で楽しんでしまうのはしょうがない。


 廃坑の周辺に出てくるのは、昆虫系モンスターとスケルトン。昆虫系は多彩だ。アリ型のブラックアント。蜂型のキラービー。カマキリ型・蝶型・クワガタ型も出る。ケリーはできるだけ気配を消して、1体でいるのを探して、近づいて剣で一撃を狙発見う。だが成功するのは3回に1回。気づかれて逆襲されたら、アリアの粘糸に助けてもらう。


 毒消し草もアリアに教えてもらう。ケリーには映像記憶があるので、教えてもらったものは忘れない。並列思考もあるので、観察して探すのは得意だ。最初なのに5本発見。薬草も8本発見。新鮮な肉は手に入らなかったが、収穫は十分だ。ドロップも各種ある。


 今日の家に帰ると、リリエスが外で焚火をして待っていてくれる。今日は30センチもある魚が、もういい匂いをさせている。ゴミからリペアされたものもいくつか置いてある。目を引くのはきれいな布だ。


「蜘蛛女。これでケリーにいい服作ってやんな。女神に勝ったお前なら、世界一の服を作れるはずだから。できたの置いとけば私が付与魔法をかける。今後ずっとケリーの衣類はまかす」


 夕食は魚だけでなく、森で採れた木の実や、昨日の肉もあって、豪華だった。確かにこれじゃお金使わなくても生きていけるとケリーは思った。もしかしたら10年あれば借金全部返せるのかもしれないと。


「あの、リリエス。僕、カマキリのモーリーに指輪あげてしまった。ことわらなくて悪かったけど。自分が奴隷だということ忘れていて」


「それじゃ今度また成長促進の指輪、出たらケリーにやるよ。代わりにこれ持っていな。幸運の首飾りだ」


 リリエスの不安定な鑑定では、どのくらい幸運値が上がるのかは分からなかったが、とりあえずいつもの付与魔法はかけていたから、なにがしかの効果はあるはずだ。本来は濃い青の宝石で作られた首飾り。もちろんみすぼらしくなる付与魔法で汚くなっている。


 リペアで復元された品物の中に、2冊の本があった。ケリーが手に取ってみると1冊は旅行記、もう一冊は薬の作り方についての本だった。どちらも面白そうだったが、特にケリーが興味を持ったのは薬の製法についての本だ。ケリーの中にいる一真は、前世の大学院で発酵についての勉強をしていた。製薬ではないが、生物と化学の間の勉強なので、もともとその分野には関心がある。それだけでなく、魔法のある世界での薬、例えばファンタジーの中に出てくるポーションやエリクサーはぜひ作ってみたいと思っていたからだ。


「ケリーは字が読めるんだ。小さいのに感心だな。本は売らないで置いておくからいつでも読んで勉強しな」


「字も読めるし、計算もできるんだよ。冒険者ギルドのエルザに天才だって言われた」


「将来は薬師か商人になるかもしれないな」


「うん、でも僕はまず強くなりたい。強くならなきゃダメなんだ」


「今から鍛えれば、強くなれるが、私みたいに冒険者になってもあんまりいいことないぞ。危険だし」


「僕は父さんと母さんの敵討ちをする。それをやんないと、どこへも行けないと思うんだ」


「ケリーが奴隷に売られたのは、なんか事情があるのか」


「村が盗賊団に襲われて、父さんも母さんも殺された」


「その盗賊団に奴隷として売られたのか」


「そう。僕は盗賊団の顔をはっきり覚えているし、多分忘れない。あいつらを自分で殺さないとならないんだ」


「復讐は薬だから、ケリーの心の傷を治すのはそれしかないかもしれないな。ただ薬ってやつは、いいこともあるが、悪いことも起こすんだ、それだけは気をつつけな」


「リリエスは僕に協力してくれる?」


「強くはしてやれる。ただ私の命はそう長くないから、手伝ってやれるかどうかは分からない」

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