第13話 クルト
クルトはピュリスでは5本の指に入る権力者だ。冒険者ギルドのギルドマスターなのだから。だが彼のフットワークは軽い。異常を感知したらまずすぐ動く。権力の源泉は情報だ。
受付嬢エルザの報告を受けてすぐ、クルトはケリーを探して外に出た。まだ広場にいた。ケリーの痛み取りは一部で評判らしい。しばらく眺めてくるとは広場を横切る。ケリーはこの後道具屋に行くらしい。ならば道具屋で待ち受ける。選好していれば尾行とは思わないだろう。テッドは旧知の仲だ。世間話をして、向こうからリリエスの話題をしゃべらせる。人間は珍しいことはしゃべらずにいられない存在なのだ。
「クルト。この頃リリエスの奴隷が毎日来るんだ」
「何でも5歳の奴隷買ったと聞いたが」
「それがなかなか賢いやつで計算ができる」
「ほう。ただ物じゃないな。計算のできる5歳児は聞いたことがない」
「もうすぐ来るから見て行くか」
しばらく待つとか弱い少年がやってきた。見事な武器や陶器を売って50万チコリ以上のお金を稼いでいた。テッドが商品の解説をしている隙に外へ出て、ケリーを待ち受ける。尾行するとケリーは一旦冒険者ギルドにお金を預けて、ゴミ捨て場でゴミを漁り、西門から出た。
すぐには尾行しない。クルトは冒険者時代一流のシーフだった。気配遮断、遠視、暗視、隠密、魔力視が得意だ。魔力視は相手が別の姿になっても、魔力の質で偽装を見破る力だ。
常人の視力では見えないくらい離れてから、クルトは西門を出る。ケリーは畑の中を走っていた。凡庸な尾行者なら自分も走って相手に正体を暴かれるだろう。クルトの遠視は走る必要がない。
森へ入ったので少し距離を詰める。アラクネがケリーを導いていた。昆虫型モンスターが次々と現れたが、アラクネが粘糸で拘束し、少年がとどめを察していた。カマキリ型モンスターが従魔になる姿を遠くから目撃して、クルトは引き返した。深追いする必要はなかった。ケリーはインセクトテイマーで、アラクネはその従魔の一体なのだろう。疑問はまだたくさんあるが、リリエスとケリーは拠点を移す気配はない。急ぎすぎてはいけない。
冒険者ギルドに戻ったのは夕暮れ前だった。エルザはまだいた。呼んで二人で情報を共有する。ポイントはケリーがテイマーであり、凄腕のアラクネを従魔としていること、カマキリ型モンスターを今日従魔に加えたことである。
エルザからはリリエスがケリーを登録するときにテイマーという職業で登録しようとしていたことが報告された。
「それじゃ、リリエスはテイマーのことを隠すつもりはないんだな」
「こう言ってました、リリエスはテイマーで、その能力をケリー君に譲るとか、テイムはしているがそのモンスター一度も使ったことがないとか、ケリー君にテイムしたモンスターと一緒に働いてもらうつもりとか」
「信じられないが、全部本当だったらつじつまが合うな」
「私が対応間違えましたか?」
「いや、リリエスが規格外というだけだな」
事情はだいぶ明らかになってきた。おそらくアラクネがモンスターを倒し、ケリーがとどめを刺しているのだろう。パワーレベリングだ。5歳から鍛え始めたら将来どんなことになるか末恐ろしい。
倒したモンスターの持っていた武器や、痛み取りやゴミ捨て場で集めたガラクタは、おそらくリペアの魔法で新品にしているのだろう。そういえばリリエスがパーティにいた時は武器や防具はいつも新品同様だった。リリエスはリペアの魔法の使い手だったのだ。
クルトはギルドを出て、酒場に行った。気配を遮断して、知り合いにも分からないようにして、考え事をしながら、一人で飲んだ。なんとなく耳を澄ましていた。どうしていいか分からない時は、静かな場所より、ノイズを聞きながら考えるのがクルトのスタイルだ。
リリエスという音が耳に引っかかった。眼をさりげなくそちらに向けると、アラクネがいた。もちろんアラクネの姿で酒場に現れたら大騒ぎだ。30代くらいの女がいた。化粧で美しさを隠しているが、すっぴんなら美しいだろう。何より魔力の質で間違えるわけがない。人化して夜の街に紛れている。それだけでモンスターとしてかなりの使い手だ。自分の部下に欲しいなと、クルトは思った。
男と二人で飲んでいる。クルトの知っている男だ。奴隷商のカシム。古いなじみだ。そこまで知れたら十分だ。クルトは逃げるように店を出た。一度に大量の情報を得ようと思うと失敗する。
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