第10話 借金返し
今日もリリエスが先に起きた。ケリー本人は疲れてぐっすり寝ているつもりだろう。昨夜も、ケリーは夜中に5回悪夢にうなされた。起きている時もつらい思い出がよみがえってきているはずだ。そうならないために、必死でいつも祈りの呪文を唱えている。そんなふうにリリエスには見える。
今朝はパンとスープ。シンプルだが肉入りのスープだし、パンにはチーズをはさんである。温野菜のサラダも添えるつもり。
ケリーが慌てて起きてくる。
「すいません。毎日寝坊して。ぐっすり寝てしまって」
「いいから、クリーンして、薬草採りしておいで。帰ってきたらスープがちょうど良くなっているから」
「リリエスさん。昨日僕からプレゼントしています。命のお礼です。釣り合わないんですけれど。始めてもらったスキルプレゼントします。必ず使ってくださいね」
右目。リリエスの知らないスキルだった。説明では幸運度を上げるスキルらしい。どれほど役立つかは知らないけれど、最初のスキルを自分にくれたことがうれしかった。
ケリーが岩の間を抜けて外へ出ると、アリアが実体化した。アリアが言う。
「馬鹿ね。あんたが使えばいいのに。ほんとに人生変わるんだから。神獣のスキルはとっても貴重」
「リリエスはアリアのせいで不運な人生を送っているんだよ。リリエスが使っていいんだよ。僕はまたもらうから」
「そんなうまくいくわけないでしょ。とりあえずスケルトン15体まとめてあるから、剣の練習だと思って叩き切って」
今朝は昨日ほどスケルトンが恐ろしくなかった。手が届かないので腰、そして落ちた頭蓋骨を砕く。何故かスケルトンは全員武器を持っていた。帰りは薬草を採取20束。この薬草は完全に覚えた。もう一人でも大丈夫。
朝食はパンと肉のスープとサラダ。美味しかった。リリエスがスキルのプレゼント喜んでくれた。昨日は分からなかったが、拾ってきた家具の木片はベッドになったようだ。ただのゴミがリサイクルされるのは、ケリーにとってもうれしい。前世では環境問題は深刻になっていたから。
朝食後リリエスはスケルトンの武器をリペアしたが、全部は間に合わないので、できた分だけ持っていく。
今日は西の廃坑で泊まるという。いくつ隠れ家を持っているのだろう。
ケリーが出かけた。リリエスはスケルトンの残りの武器をリペアして新品に戻しながら考えていた。スケルトンがたくさん出るのはここが古戦場だったからかもしれない。この隠し砦は、入り口が狭くて、大型の魔物が入ってこれないのが気に入って、ソロの時のセーフハウスとして使っていた。退路は確認してあるが、すべてを把握しているわけではない。探検してみて、良ければここを本拠地にしようか。
砦の反対側の出口から外に出てみる。途中に崩れた大きな建物がある。この復元は次回にする。どうせ4カ所の隠れ家をぐるぐる回るしかないのだ。
建物の横を抜け、小高くなった場所から洞窟に入る。10分くらい洞窟の中を歩いて、外に出ると広い草原だ。そこをけっこう大きな川が流れている。歩いて渡れる川ではない。手前にスケルトンが3体出てきた。ファイアーボールで3体とも倒したが、全員武器を持っている。さらに指輪を1個ドロップした。
火魔法のレベルはいつまでたっても上がらない。何かの呪いがかけられていたかのように。今までパーティの仲間の経験値を上げるために、自分の経験値の取り分は最小にしていた。だから上がらないのは当然なのだが、パーティから離れてもスキルレベルは上がらない。
川には1カ所だけ、飛び石伝いに渡れる場所がある。小さな祠が目印だ。川沿いを歩くときは針金でわなを仕掛けておく。今度の砦での夕食は魚を焼いて食べよう。
気持ちの良い花の野原だった。薬草も豊富だ。採取しながら、はびこりすぎた草は根から抜いて焼き払う。木も同じ。幹に巻き付いた蔓は切っていく。魔法使いの杖になる。ただし野生のブドウは別。これは秋に収穫する。今の季節に熟している木の実もあるから、採取しておこう。
木の余分な枝は剣で打ち払う。森は手を入れないと暗くなって、花も咲かなくなり、魔物も発生してしまう。今までも週1回の休みは一人で森のの手入れをしていた。もちろん酒を飲みながら。これからは森の手入れが毎日できるのはリリエスの楽しみだ。何故か最近、酒を欲しいとは思わない。もう一生分飲んだからだろうか。
ケリーの行動は昨日と同じ。まず町まで走る。冒険者ギルド。エルザに品物を見せて、計算が合っているか確認して、お金は口座に入れる。
「ケリー君。酒場のおじさん、リリエスの借金返さなくていいって」
「どうしてですか。お金は僕も手伝って返します」
「30年間いっぱい飲んで儲けさせてもらったし、リリエスさんがいて、酒場が繁盛して儲かったらしいわよ」
「借金はどれくらいあったんですか」
「50万チコリくらい」
「大きいですね。少しずつでも返します」
「酒場の人は、お金払って、雇いたかったぐらいだって言ってた。お客を楽しくして、歌ったり裸で踊ったりして、お客を楽しませていたらしいわよ。30年毎日」
「それでも少しずつ返します。昔のパーティーの人とか、どうなっていますか。苦しい生活している人いたら、まずその人にお金返します。僕はまだ5歳なのでこれからの人生まだ長いですから、返しきることもできるはずです」
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