第8話 幸運のスキル
冒険者ギルドを出ると、広場の昨日の場所で一人で大声を上げる。
「痛い人はいませんか。痛いの直します。1回500チコリ。壊れたものでもいいです」
さっそく3人の女の人が集まった。穴のあいた古い靴、壊れた小箱、何か書かれた羊皮紙。ガラクタにしか見えないが、リリエスは絶対断るなと言っていた。
「この袋へ入れてください。壊れたものならなんでも受け取ります」
痛みが取れるまで「祈り」と口に出して唱える。その方が効果ありそうな気がする。多分アリアも黒子になっていても、幸運を呼ぶ右目の魔法をかけてくれているはず。客が途絶えたところで仕事を終わる。今日は全部で13人。みんな喜んでくれた。2000チコリの現金といろんなガラクタ。
広場を北に抜ける。裏通りの道具屋さんの場所は、黒子のアリアが耳に移動して、小さな声で教えてくれる。アリアはステータスが見られる。珍しく興奮して、右目のスキルがコピーできたと教えてくれた。凄いことなんだと。これでケリーの人生には幸運が起きるんだよと。
道具屋さんには今日もお客は誰もいない。
「おじさんこんにちは。ケリーです」
「テッドと呼んでくれ」
「テッドさん今日もお願いします」
「あいよ。ケリー。今日は何を持ってきた」
袋から新品になった小弓を出す。ゴブリンの持っていたものだが、結構立派に見える。
「5000チコリだな」
結構高く買ってもらえた。ケリーには価値は分からないのだが、リリエスが信頼する人だから間違いはないのだろう。
「お店のもの見てもいいですか」
「ああヒマだから勝手見ていってくれ」
10分くらいいろんなものを見た。ケリーには何に使うのか分からないものもある。引っ込んだおじさんに声をかけて店を出た。
次は北門の近くのゴミ捨て場。今日は靴を履いているから楽だ。裸足でゴミの山を歩くのはきつい。こちらの世界へ転生してからずっと裸足だったから、足の裏は分厚いが、それでもゴミで怪我をしそうになった。
北の住宅街は、富裕層が住んでいる。領主の館もあるし、歩いて通り抜けただけで豊かなのが分かる。だからゴミも豪華だ。この国では生産されていない陶器のかけらもあるし、壊れた家具もある。ケリーは陶器のかけら、焼け焦げた本と、家具の一部らしき木片をいくつか拾った。あとは穴のあいた布ときれいな割れた小さな宝石。それだけで袋はいっぱいだ。
城門を出ると、アリアが話しかけてくる。
「ケリー、計算ができることに驚いた」
「前世で小さいころにソロバン塾というのに通っていたから。初段まで取ったし、理系で数学得得意だった。大学院まで行ったしね」
「難しいことは分からないけど、計算は少し訓練したら、スキルになる。スキルになると、いろんなことができる。計算できると商人になれるし。商人になったら、ケリーの復讐のために役に立つわ」
「強くなるだけじゃダメなのかな」
「ケリーができるのは、気づかれないように近づいて殺すことよ。商人の外見は隠れ蓑として役に立つ」
「でも商人なんて周りにいないし」
「道具屋のおじさんや、市場の人でいい。何かを学んで行けば、チャンスはある。今できることをすればいいのよ。まず計算練習、今夜から」
北門を出ると麦の畑だ。人目が無くなると走る。街道があってこの道をずっと行くと、海につながっているとアリアが教えてくれた。だとしたら僕の生まれた村だとケリーは思う。いつかまた行くことがあるだろうか。父さんや母さんのお墓もないあの村へ。
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