第7話 受付嬢エルザ

 次の朝、先に起きていたのはリリエスだ。ケリーは挨拶してから、急いでクリーンで顔を洗って傍へ行く。リリエスはもう火を起こし、大麦と昨日の残りの兔肉、野菜を入れて煮込んでくれていた。


「ご主人様。すいません。料理代わります」


「いや、私が作った方が美味しいから。朝飯前に、ケリーはその辺で薬草取ってきな」


「はい」


「おい、装備忘れちゃ危ない。それにモンスターがいたら狩ってくることな」


 装備は夜の間、アリアに貸した。アリアには装備の必要はないのだが、使えば使うほど能力向上するので、そのために使ってくれている。

 

 リリエスは目を細めてケリーを見送る。お湯を沸かしお茶を出す。お茶はいろんな毒草のカクテルだ。ケリーを殺そうとしているわけではない。毒耐性を育てている。この世界にある様々な毒を少しづつ混ぜ合わせている。リリエスの特製茶だ。今までもそうやってパーティーメンバーを育ててきた。もちろんすぐヒールをかけるから問題はない。


 リリエスはお茶を飲みながら、昨日の夜を思い出していた。疲れて寝入ったケリーは何回も悪夢にうなされていた。叫び、泣いて、哀願し、また叫んでいた。何回も何回も。相当辛い目にあって来たんだろうな。この心の氷を解かすのは簡単ではないだろうと思う。それが自分の最後の仕事だと思うと、やる気が湧いてきた。


 ケリーがしばらく歩くとアリアが現れて、森を導いてくれる。時々足を止める。薬草がある。薬草を採る時は、株元を少し残して切断とか、根は残すことという指導が入る。


「祈り、忘れていないよね。100万回唱えるのはそんなに難しくないから。それでスキルが手に入るのは凄いことだよ」


「並列思考できるので、してます。大丈夫です」


「スライム、粘糸で縛ってまだ生かしてあるから。とどめさしな」


「ありがとうございます」


マジックバッグの魔石はけっこう増えていた。アリアが夜の間に何かしてくれていたらしい。

 薬草10束も採取してリリエスのところへ戻る。おいしそうな匂いがする。


「今日は北の森にいるから、場所は蜘蛛女が知っている」

「わかりました。まず冒険者ギルドへ行って、次に広場で痛いの取りして、道具屋さんに弓売って、ゴミ拾って帰ればいいんですね」


「冒険者ギルドでもらったお金は、そのままギルドに預けてこい。北の出口の近くにも、ゴミ捨て場あるから今日はそっちでゴミ漁ってこい」


 マジックバッグだけじゃなく、大きな革の袋も持たされて、敏捷のバフをかけてもらって、ケリーは木の洞からピュリスの街へ走る。アリアが話しかけてくる。アリアへ「祈り」攻撃開始。スキルも欲しいがスキルを使い続けるとMPが上がる。3歳で前世の記憶に目覚めてから、魔法はつかえないが魔力操作は続けて、MPを増加させようと訓練して来た。まだステータスは見られないが、MPは少しは上がっているはずだ。


「まず体づくりだね。走るのが一番」


「どこにいるの」


「私は境界に住むの。今はケリーの肌でほくろになっている」


 歩いたら1時間くらいかかる。走れば5歳児でも半分くらいの時間で到着。冒険者ギルドはまだあわただしさが収まったばかり。昨日の受付嬢の前は空いている。急いでそこへ行く。ケットシーの美人のお姉さんだ。獣耳が可愛い。前世ではファンタジー世界にしかいなかったので、興味津々。


「おはようございます。お姉さん」


「おはようケリー君。私の名前はエルザ。いつも私のところに来てね。早速痛み取りしてくれたのね。ありがとう」


「お姉さんにはいつも無料でサービスしますね」


「悪いわね。お菓子あげる」


「冒険者ギルドで出るゴミもらえたらうれしいです。武器の壊れたやつとか」


「明日から集めておくわ。今日は薬草持ってきたのかな」


「薬草と魔石です」


「ここに出してみて。けっこうあるわね」


「がんばりました」


「薬草が1束100チコリ、で12束。魔石単価はスライムが100チコリ、角兔が200チコリ、ゴブリンが400チコリで、薬草も合わせて9900チコリになるわね」


「お姉さん、もう一度やってみて。100チコリ多い」


「ほんとうだ。計算できるのってすごいわね。ケリー君天才。お金は現金で持って帰る?それとも口座に入れておく」


「リリエスは全部預けて来いって言ってました」


「ケリー君の口座も作って、半分入れとくね。リリエスにたくさん渡しちゃだめよ。お酒に変わってしまうから」


「はい。お願いします。僕の口座に1万チコリたまったら、その度にリリエスの借金返したいです。酒場の人や昔のパーティーの人たちに」


「偉いわね。でも小さい子が考えることじゃなわよ。そんなの」


「小さくても、僕は男なので」


「どうしてもっていうなら、最初にそうね、一応酒場の人に言ってみるから」

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