第5話 蜘蛛女アリア

 ケリーは途方に暮れた。剣も胸当ても靴も装備している。しかし5歳の少年が知らない森で一人ぼっち。どんなに頑張っても一人でモンスターを倒せるはずがない。たとえ相手が最弱のスライムだったとしても。


 詰んだのか。せっかく助かった命だけど、運命は変えられなくて今日死ぬんだ。


「あがいてやる!精一杯あがいてモンスター1匹でも殺してから死ぬ」


 悔しかった。村で盗賊たちに父さんと母さんを殺されて、捕まって、奴隷に売られて、そしてここで死ぬ。


「私が見ていてあげるわよ。あんたがあがくところ」


「誰?」


 まず目に入ったのはむき出しのロケットおっぱい。おっきいのに垂れていない。前世で24歳でDTだった俺は、リアルでむき出しのおっぱいを見たのは初めて?


「根性あるかと思ったら、エロガキだったか。モンスター倒せたら、しゃぶらせてやる。そう言ったらやる気出るか」


 顔も女神のように整っている。髪と右目は透き通った水色だ。左目は赤い。下半身は巨大な蜘蛛だった。


「あの、誰ですか」


「アリア。アラクネの」


「モンスターですか」


「いやディオニソスという神様の神獣」


「僕この世界では5歳なので、理解不能です」


「いいからついておいで」


 後ろからついていく。お尻。ただの巨大な蜘蛛だ。剛毛が生えていて怖い。5分も歩かないうちにスライムが現れた。


「あがいてみな!」


 そう言って乱暴に背中を押された。サッカーボールくらいの半透明のゼリー状モンスター。ゲームはけっこうやりこんでいたので、おなじみだ。しかしリアルで会うのは初めてだ。剣を構えて向かい合う。相手も動かない。これは剣の達人同士の試合で先に動いた方が負けるというテンプレか。


「あんまりゆっくりしていると、動いちゃうぞ。早くやんな」


「チェスト!」


 剣を振り下ろすとき、どこを狙って、どう力を入れればいいのか、誰かが教えてくれている。きれいに半分に分断し、スライムが液状の物質に変わった。核がコロンと落ちた。


「うまいじゃないか。初めてとは思えないくらいだ」


「頭の中にどうすればいいかイメージが浮かんで、その通りにやってみた」


「歴代の剣の使用者の経験が浸み込んでいて、新しい使用者に伝えてくれる名剣。なんてな」


「だったらいい」


「こっち来な」

 

 アリアはケリーを引き寄せて、乳首を唇から押し込んだ。ケリーは驚いたが、吸い付いたまま目から涙をぽろぽろこぼした。そうだ生まれたばかりのころ、母さんがおっぱい飲ましてくれた。その母さんが盗賊に犯されて殺される、むごい映像がフラッシュバックしていた。


「もういいか。次行くぞ」


 ケリーの心に猛然とやる気が湧いてきた。スライムくらいいくらでも倒せる。体が熱く、足は軽かった。


「チェスト」


 殺戮の快感が気持ち良かった。次から次へスライムが湧いてきて、動かないスライムを名人の技で切り裂いていた。魔石となった核を拾う。一緒に指輪のようなものが2回ドロップした。20体以上倒した。


「もういいぞ。次は角兔だ」


 場所を変えてもケリーはまだ酔ったように高揚している。今度はアリアは粘糸を使ってくれなかった。素早く逃げる角兔を殺すために追いかける。猛々しい行動が、ケリーをハイにした。新しい靴が素早さを高めてくれているのが分かる。走ることも快感だった。


 疲れて止まった角兔の首に後ろから剣を突き刺す。血を浴びることがさらに興奮を高めてくる。そばにもう一匹を見つけて、続けざまに首を両断して仕留めた。息遣いが限界を燃えて荒くなってゼイゼイいっている。


さすがに疲れてはて心が平常に戻った。

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