第2話 器用貧乏でろくでなし
リリエスは究極の器用貧乏。努力すれば本当に万能型の冒険者になれたかもしれないが、努力する代わりに「飲む・打つ・売る」の全部そろったろくでなし女だった。すべてをごまかしてくれた美貌も50歳を前にして、衰えてきていた。無理もない。この世界では平均寿命は50年だ。
娼館に身を売ろうかと思ったが、馬鹿にされるのが目に見えている。今まで酒を奢れば寝れた女。しかも40半ばの女に誰が高い金を払うだろうか。それくらいの自覚はある。引っかかるのは田舎から出てきた若者だけだ。それも無理やり押し倒してだ。
行く場所はもう奴隷商しかなかった。知り合いの奴隷商カシム。この男の童貞も私が奪った。20年くらい前。
「ついに身売りに来たか。リリエスさん。でもうちじゃ40歳以上は買わないんだ。もうすぐ死ぬ人間を買おうという人はいないからな」
「馬鹿言うんじゃないよ、客だよ。奴隷を買いに来たんだ」
「まさかそんな金持っているわけないだろう。博打で負けてばかりいるくせに」
「そりゃ高い奴隷は買えないさ。格安のを見せておくれよ」
「まあ不良品を引き取ってくれるならそれもありがたいんだけどね」
カシムは店の裏にリリエスを案内して、今夜廃棄予定の奴隷を見せた。そこにいたのは重い病気を持つ者、回復不能な怪我をしているもの、精神に異常をきたしているもの、老齢あるいは5歳以下の幼い男子。女子は幼くても売れるが、男子は幼くては売れない。売れる年齢まで生かす価値はない。奴隷はいくらでも手に入るのだ。
数人まとめて買ったが、売れそうにないものたちは間引く。今日間引く分ががまとめられていた。どれでも500チコリで売ってくれる。リリエスが鑑定をかける。500チコリは一回の食事と同じくらいの価格だ。ろくな奴隷がいない。いまやリリエスに残されているのは5000チコリ。ここで奴隷を買えば今日は野宿になる。
鑑定スキルはきちんと使えれば商人として成功できる有用なものだ。冒険者としてもモンスターのレベルやスキルまでわかれば重宝される。しかしリリエスの鑑定は人間の場合、名前と種族は見えるが、それ以上は見えたり見えなかったりの不完全なものだ。要するに使えない。
だが運よく一人の少年のスキルが見えた。この歳で持っているスキルは生まれながらのものに違いない。リリエスは心の中で歓喜した。これがあれば私はもう少しやれる。
「この子ども買ってやるわよ」
「まともな男に相手にされなくなって、ついに子ども相手にするようになったか。落ちたもんだな」
売値は500チコリだが、奴隷契約の手数料の300チコリかかった。リリエスは男の子を外に連れ出すと、少し離れたベンチに座らせて、贈与というスキルを男の子に与えた。
このスキルは自分のスキルを文字通り相手に贈与する。ごく稀に、百万回に1回くらいお返しが来る。相手のスキルがランダムに選ばれて、一つコピーされるのだ。相手のスキルは消えないから、気がつかない事の方が多い。リリエスはこの贈与のスキルが芽生えてから一度も使ったことがない。相手に贈与したら、自分が損をするだけだから。
さっそく少年の持っている痛み耐性を贈与させる。腰痛が軽くなった。リリエスは歳と不摂生な生活で腰の痛みに悩まされていたのだ。贈与しても少年の中に痛み耐性スキルは残っていた。生まれながら持っているスキルは。贈与しても無くならない。この少年がいる限り無限に痛み耐性が使える。
これを確認してリリエスはにんまり笑う。これで自分はもう痛みから解放されるのだ。冒険者としてまだやれる。
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