第8話 絶望

 その日、父さんが夜遅くになっても帰ってこなかった。母さんやリンと心配しながら待っていると家のドアがノックされる。

 トントン

「お父さん、帰って来たんだ‼」

リンが嬉しそうにドアに向かって走っていく。

「やれやれ、愛しの我が旦那はやっと帰ってきたのかい。夕飯が冷めちまうじゃないか。」

そんなことを言いつつも嬉しそうに笑う母さん。

「俺もう腹ペコだよ。父さん帰ってくるの遅いんだよ。」

冗談で悪態をつく俺。そんな時だった。


 ブシャアアア


えっ、ブシャアアア?何の音?

俺は音の鳴った方を振り返る。その音はドアの方から鳴っていた。

「なんの音だい?ルカラ、ちょっと見て来ておくれ。」

「分かった。」

母さんがお願いしてきたので、俺は音の鳴ったドアに向かった。確かリンが父さんを出迎えに行ってたはずだ。

「どうしたん…だ…リ…ン」

俺は絶句する。そこには

そこには無残な姿になった妹の姿があった。胴の上にあるはずの首がそこにはなかった。

「りん?リン!!」

俺は必死に呼びかける。もう生きていることは誰もが分かるはずなのに。俺は呼びかけ続ける。

「リン!!リン!!リ「うるせぇなぁ」

そんな声が上から聞こえてきた。次の瞬間

 バキッ

腹部を思いっきり蹴られる。

「ゴハッ」

そのまま吹っ飛び、壁に叩きつけられた俺は情けない声を出してしまった。

「どうしたんだいっ。ルカラッ!!!」

母さんが驚いてキッチンから出てきた。俺の姿を見るなり悲痛な声で俺を呼ぶ。

「ど~も~。こんばんはぁ~」

そう言って家の中に入って来たのは、三人の男だった。三人供覆面を付けているが種族が違うのが分かる。一人は獣人だろう、隠す気がないのか耳が丸見えだ。もう一人は俺らと同じヒューマンだろう。他の二人より一回り体格が小さい。最後の奴はまさか、アンデッドか⁉本で読んだことのある姿のまんまだ。

「何だい、あんたら!!!家には金目の物は何もないよっ!!!入るところ間違えたんじゃないかいっ!!!」

母さんが怒声を浴びせる。そんな怒声に怯む様子も無くアンデッドが言う。

「私達は泥棒などではない。」

「じゃあ、何なんだい。」

睨みを聞かせて母さんが尋ねる。

「うへぇ、おっかない。」

ヒューマンがおどけた様子で言う。

「お前は黙ってろ」

アンデッドがヒューマンに一喝し、

「失礼した。こいつは下品な奴でね、許してもらいたい。」

丁寧な口調で謝ってきた。

「謝るくらいならサッサと出て行っておくれ。家は今から夕飯を食べなきゃいけないんだ。」

「ああ、その必要はもう無い。何故なら、今から貴方達は死ぬからだ。」

母さんの言葉に被せるようにアンデッドは言う。

「どういうことだい?」

「このくらいで質問は終わりにしよう。では、さようなら。」

次の瞬間だった。


 ザシュッ


母さんの首が宙をまう。そして、


 ドサッ


俺の目の前に落ちてきた。

「う、うわああああああ」

俺は叫んだ。ビビッて腰が抜けて立てない。出来ることと言えば、ただ這うように後ろに後ずさるだけだった。

「このガキはどうします?」

獣人が初めて言葉を口にする。

「勿論、殺すさ。」

そう言って俺に近ずいてくるアンデッド

「く、来るな、来るなっ」

泣きながらそう叫ぶ。だが、そんな叫びも空しくアンデッドは俺の目の前まで来た。ああ、もう駄目だ。そう思った時

「んっ?こいつは…。フフッ、そうか、こいつがか…」

そう不敵に笑うと、俺に

「君は選ばれたんだ。とても幸運なことだよ。誇るといい。」

そう言って

「生きてたらまた会うことになるだろう。それじゃあ、お休み」

俺に剣を振り下ろした。


痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い 

トラックにに轢かれたときの感情が蘇る。

体から出るおびただしい量の血液、かすむ視界、空気が入って来ない肺、全てがあの時と一緒だった。

 しばらくすると、煙の臭いがしてくる。どうやら家に火も点けられたらしい。

 俺は煙の中で更にもがき苦しむ。ああ、早く、早く殺してくれ。そう思っている時だった。母さんの目と視線が合う。視線が合ってその目はひどく悲しんでいるように見えた。当然だよな、夫は帰ってこず、娘は目の前で殺されたのだ。悲しいに決まっている。悲しいよな、つらいよな、泣きたくなるだろうな。

 そう思うと自然に体に力が湧いてくる。せめて、せめて俺だけでも生き残らなければ。生きて家族の仇を取れなければ!!!

“そうだ、それでいい。復讐だ、復讐の為にお前は生きろ。恨め、憎しめ、怒れ。その感情がお前の、いや、俺達の生きる目的だ。”

 頭の中で転生させてくれた奴の声が聞こえた気がした。そうだ、家族をこんな姿にした奴らに復讐してやる!!!そのどす黒い感情に突き動かされるように俺は立ち上がる。フラフラと歩きながら出口を目指す。もう少しで外だ、そう思った時、家が崩壊した。

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