第10話 『激突、トモコVS大ウツボ』
暴風雨が吹き荒れる中、対照的なモノクロの獣二匹が、木々の間を奔走する。
黒い獣が先導しているかと思えば、白い獣がそれを追い抜き、それを更に黒が追い抜き、白が痺れを切らして黒に体当たりすると、黒が間抜けな悲鳴を上げる。
その後方で、純白の巨獣と白銀の
「ワオォォォォォ───────ン」
『グロロロロロロロロロロ…………!!』
トモコの咆哮が炸裂。その直後に大地が隆起し、大ウツボの銀鱗を巨岩が切り刻む。
鱗を裂かれ、血を散らす大ウツボがトモコを締め上げようと彼女を囲い込むが、トモコは跳躍して巨躯の包囲網から逃れた。
戦う二匹の体格差は歴然だが、大ウツボは穴から上半身を出しながら戦っている状態ゆえ、アクロバティックな動きができずにトモコの動きに翻弄されている。
しかし、大ウツボにはそれを補う超大な範囲の攻撃を幾つも所持している。さっきのブレス攻撃が良い例だ。
いくら魔法を操る巨獣とて、山のようなスケールのデカブツにパワーでゴリ押しされればひとたまりも無い。
しかし、今は自分にできることが足でまといにならないよう逃げることしかなく、トウヤは自分の弱さを嘆き、唇を噛み締めた。
『グロロロロロロロロロロ……!!!』
「────!!!」
直後、後方から紅い閃光と熱風。
振り返ると、大ウツボが再び大口を開き、ブレスを放つ予備動作をしているのが見えた。
喉の奥に小さな太陽でも入っているんじゃないかとさえ思う、眩い光の輝き。
それが大ウツボの口で烈火の息吹へと変換され、吐き出されることで世界を焼く獄炎へと顕現される。
その一撃で街が10は壊滅するだろう熱線が、トモコに向かって一直線に伸びてゆく。
「アオォォォォ────ン!!!」
咆哮という名の詠唱により、熱線とトモコの間に砂色の結界が展開。
半透明の壁が真っ向から熱線を受け止めた瞬間、その境界に炎の嵐が吹き荒れる。
間髪入れずに大ウツボが頭部を結界に打ち付けるが、しかし物理的な衝撃もトモコの結界の前には意味を為さない。
更にトモコが吼え、追撃を加える。人間の顔ひとつ分の大きさの瓦礫が弾丸のような速度で飛び交い、大ウツボの皮膚を貫いてゆく。
『グロロ……ロロォォ……!!』
トモコの攻撃が効いているのか、大ウツボは痛みに苦しむように、その巨躯をよじらせる。
「オイオイオイ、ワンチャンアレ勝てんじゃねーかぁ!!?」
トモコ優勢の戦況を見て、トウヤがかすかな希望を抱く。
大ウツボに第二形態でもない限りは、このままトモコ一匹で大ウツボ討伐も現実的になってくるのだが、トモコのMPがどのくらい持つのかも不安だ。
大地と巨岩を操る魔法と、大ウツボのブレスを完全に防ぎ切る超強度の結界術。
そのどちらかでも欠ければ、火力不足or大ウツボのバ火力でトモコが敗北するのは火を見るより明らか。
長期戦は控えろ──そんなトウヤの思惑を読み取ったように、トモコは大技を放つためか、力を溜めるように身を屈めた。
すると、大気中の何かがトモコに収束されてゆくのが、肌に走る刺激でトウヤにも分かった。
「ウルォォォォォ───────ン!!!」
不可視の奔流がトモコの周囲で渦巻き、直後、彼女の大咆哮に呼応するように拡散。
「う、おおおおおお!!」
直後、トウヤ達が立っていられない程の大地震が発生。その原因は、今までの攻撃とは比にならない規模の、まさしく天変地異と呼ぶに相応しい異常現象によるものだった。
山のような体躯の大ウツボ。それを上回るサイズの岩壁が、奴の左右に二つも現れている。
否、あれは岩ではない。大ウツボの横の台地が、丸ごとせり上がっているのだ。
トウヤよりも大きい巨獣が、その巨獣よりも大きい大鱓が、その大鱓より大きい台地が──と、どんどんエスカレートしていくスケールの大きさに、トウヤは空いた口が塞がらない。
「もう、何でもアリかよ……」
トウヤが半ば呆れながら呟くのと、トモコが前脚で『合掌』のようなポーズで台地をコントロールするのが同時だった。
『グロロロッッ────』
怨嗟の声を上げる大ウツボを二つの台地がサンドし、「グチッ」という肉が潰れる音と共に、とてつもない衝撃波が森全体に駆け抜ける。
「うおおおお、踏ん張れハチロー!!」
「ガウウン!!」
ハチローを吹き飛ばされないよう案じながら、自分だけ吹き飛ばされるトウヤ。
そんな彼は飛ばされざまに大ウツボを閉じ込める岩塊を見ながら、
「勝った……のか?」
岩塊は変化を見せないまま、悠然とそこに佇んでいる。
何秒か経っても特に何も起きず、トウヤが岩塊内部の大ウツボの絶命を確信すると──、
「────っっっしゃあ──!!! 勝ったぞォ!! 勝っちまったぞ!? あんだけデカさもパワーも桁違いの相手に、俺のトモコが勝った────!!」
壮絶な戦いの結果に安堵し、両腕(両前脚)を振り上げてトモコの勝利を祝福する。
しかしトモコは未だに警戒を解かず、大ウツボを封じた岩塊を睨んでいる。
その時、トウヤの耳に音が聴こえてくる。
ゴポ、ゴポ、ゴポ──と。
(ん……? 何だ、この音……?)
マグマの表面に、赤い水泡が無数に浮かび上がるような、そんな感じの環境音だった。
トウヤのさっきまで安堵していた気分が一転し、全身が総毛立つ感覚に襲われる。
──その音の方向が、大ウツボを封じ込める岩塊からだと気づいてしまったから。
「────ッ!!」
ゴポ、ゴポ、ゴポ。ゴポ、ゴポ、ゴポ。
「──何でだよ……。死んどけよクソがあああああ!!!」
トウヤの罵倒に呼応するように、巨大な岩塊が融解する。
真っ赤な裂け目から紅い液体が垂れ、大気が歪むほどの高熱が漏れ出す。その内から白銀の鱗が覗いて──。
『────ッ!!!』
溶岩のタマゴから、灼熱の爬虫が生誕する。ウツボなので正確には魚類だという軽口も、今は笑えない。
「本当に何なんだ……、お前はよぉ!!」
最も恐れていた可能性、大ウツボ第二形態。
喉奥だけでなく、全身を高熱と炎光で彩った巨躯が嵐の中、荒ぶる。
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