百(たくさん)の目で白石瞳を見る
「白石瞳。20年にも満たないつたない人生。その全てを『見せて』あげるわ」
「貴方の父親は男が生まれなかったことを少し悲しんでいたわ。でも生まれた貴方を見てそんな気持ちも吹き飛んだ。いい父親ね。成長する貴方を温かく見守っていたわ。貴方が自殺した世界では、赤川に復讐しようとして失敗して投獄されたけど。
日に日にかさんでいく貴方の教育費を稼ぐために身を削っているわ。今日もご飯は少しだけ。お腹を空かせながら頑張っているのに娘はそんなことも知らずに人を恨んで復讐している。こんなことを知ったらどう思うかしらね?
ああ、でも聖人君子ってわけでもないわ。男だから女を抱いて気持ちよくなりたい欲求はあるわ。スマホのデータにはそう言うのもある。貴方の下着が洗濯されているのを見て、少し興奮して顔を背けてたわね」
…………。
「母親も成長する貴方を見て喜んでいたわ。でも同時に教育費には頭を抱えていた。パートで稼ぎながら、貴方がいなければ生活は楽なんだろうっていう妄想もしていたわ。可哀そうにね。
母親は貴方を子供としてしか見ていない。当然よね、子供だもん。子供だから言うことを聞かせる。子供だから言うことを聞いて当然。子供だから逆らうことは許さない。私の思うように生きて、私の思う人生を歩む。そう信じてるわ。
まさか同級生にイジメられて、見知らぬ男に脅迫されて。人生ボロボロになってるなんて想像もしない。自分の娘は何の問題も起こさないいい子だって信じれる。妄信してる。だから子供に問いかけない。問題があったら、困るから。
そうよ。貴方は放置されてた。問題が起きたら厄介だから。問題が起きたら面倒だから。貴方の母親はそんなことにかまけている余裕なんてないの。そんなことをしているぐらいなら、自分の時間が欲しいっておもってるから。だから知らない。見ない。聞かない。知らなければ見なければ聞かなければ問題は起きていないんだから」
…………。
「小学校。貴方の初恋は担任の先生。優しく算数を教えてくれた男の人。父親とは違う感じの男性に惹かれていた。クラス替えと同時に消えてしまった想い。でも知ってた? あの先生が貴方の事をそういう目で見焚いたことを。
表には出さなかったけど、あの先生は幼女趣味。成人女性には興奮しない変態なのよ。自分が異常だという分別があったから表には出さなかったけど、パソコンの中はそう言うファイルで一杯。それを見て、性欲を発散させていたわ。
貴方もその対象だったわ。こっそり写真を撮られたり声を録画されたり。貴方が淡い恋心のまま近づいてくる様を見ながら、頭の中では貴方を酷い目に合わせていたわ。幼く初心で穢れない心と体を力づくで踏みにじる妄想で興奮していたのよ。
貴方のデータはまだ彼のパソコンにある。今でも貴方は彼の頭の中で犯され続けている。幼いあなたの顔を、姿を、声を犯している。幼いころの貴方は永遠に彼の中で犯され続ける。決して表には出ることなく、ずっとずっと」
…………。
「中学校。二次性徴を終えた貴方は注目の的になっていた。その性格ではなく、大きく成長した肉体が。ふくよかな胸、奇麗な足。その制服の下に隠れた女肉を味わいたいとクラスメイトは嗤っていたわ。
暴力的な彼は貴方の服の下を想像していた。クラス委員の彼は貴方を監禁して好きにしたいと妄想していた。小太りのあの子はパソコンで画像編集して貴方の顔を裸の女性の画像と組み合わせていた。
妄想の範囲を超えていたのは貴方の幼馴染ね。ロッカーにあるあなたの私物を盗んだり、貴方の机に服越しに股間をこすり合わせてたり、女なのをいいことにべたべた触ってはその事を思い出して自慰にふけったり。
知ってた? 貴方に告白してきた部活の後輩。貴方は断ったけど、あの後付き合ったら一か月後には彼の兄に犯されてたの。後輩の愛に悩まされながら、その兄から逃れられない学園生活になっていたわ。二人に必要にされるなんて、女冥利に尽きるわね」
…………。
「高校に入ってからも同じ感じね。貴方はその胸と大人しそうな態度でいいように妄想さてたわ。まるで盛りのついたイヌが舌を出して荒い吐息出してるように。顔では平然としながら、あなたの肉体を食べたいって思ってたわ。
倒れた貴方を助けて保健室に運んだ人。確か紺野センパイだったかしら? あの人も貴方の体を背負いながら、胸の感触に性欲を刺激されてたわ。貴方の感触を確かに感じていたから、赤川の嫉妬もあながち的外れじゃないわね。
赤川は貴方の事をずっと恨んでた。疎ましいって思ってたわ。自分より大きい胸で奇麗な顔。クラスメイトの男達を惹きつける貴方に嫉妬していた。センパイの事がなくても、貴方はあいつにイジメられたわ。どういう形であれ、貴方が青木に脅迫されるのは運命だったの。
ハジメテの男である青木。彼に抱かれて貴方は女になれた。彼は貴方を心の底から愛してくれたわ。その肉を。嫌がる貴方を。壊れていく貴方を。そう言う性癖だから、ある意味純粋な彼の愛。貴方は愛されてたのよ、良かったわね。
そうそう。愛と言えば貴方、黒崎には小さな恋心を抱いていたわね。少し優しくされただけでコロッと言っちゃうとかどれだけ情けないのかしら。男性に優しくされたことないから仕方ないわね。ヤラしい目には見られているのに。笑っちゃうわ。
でもそんな黒崎の目的は人間としての貴方じゃなく、妖怪としての貴方。アイツも貴方のことを『普通』に愛することなんてない。人間の貴方には用がないのよ。だからよかったじゃない? 人間やめられて。もしかしたら、あいつに好かれるかもしれないわよ」
…………。
「人間て醜い? 人の心なんか見たくなかった? 知りたくなかった? 自分が普通に見られてなかった事なんて、知らないまま生きていけたらずっと良かった? 駄目、許さない。貴方は見るの。ワタシは見るの。そう言う妖怪だから。
他人を醜いだなんて罵るけど、貴方も同じ人間。自分だけ奇麗だなんて思わせない。貴方も同じぐらいに醜いのよ。なに自分だけはきれいだなんて思ってるのよ。そんなわけないなんて、自分がよく知っているくせに。
親の保護を受けているのを知りながら、それを疎ましく思う貴方。親なんていなくてもいい。お金を稼げれば親なんて見捨てる。そんな気持ちを抱いていた貴方。
先生に初恋した時、先生が結婚していたことを憎んでいた貴方。先生の妻を亡き者にしようと妄想していた貴方。探偵もののアニメを見ながら、その犯行を先生の妻に当てはめてた貴方。
後輩に告白されて、浮かれていた貴方。彼とキスして、その後抱かれて。そんな妄想をしていた貴方。知ってた? 貴方は彼の妄想よりも淫靡なことを妄想していたのを。彼がヒくぐらいにすごいことを考えていたことを。
青木に抱かれた時、貴方の肉体は確かに悦んでいたわ。自分でも自覚あるんでしょ? 必死に否定していたけど、貴方は何度も何度も彼に抱かれて悦んだ。貴方の女は震え、奮え、そして男に屈するように達した。
心では否定しながら、肉体は逆らえなかった。その肉欲に耐えきれず自分を慰めたりもしたくせに。青木を忘れようと言い訳しながら、本当は青木に抱かれた感覚が忘れられなかった。まるで理性をなくした獣。オトコに屈する哀れなオンナ。
復讐しても辛いままって叫んだけど、復讐しているときはすごく楽しかったわよね。相手を不幸にしてやったとかざまあみろとか言ってるときは過去を忘れられた。本気で嬉しくて、最高って顔で嗤ってた。あれは鬼の笑みではなく、人間の嗤いだったわ。
赤川が貴方をイジメたように。青木が貴方を弄ったように。貴方は赤川に復讐して心の虚を満たし、青木が心壊れたのを見て満足した。踏みつけ、尊厳を壊し、不幸の坂に蹴飛ばした。貴方の意思で。貴方自身の手で。
目を逸らすことなんて許さない。見なかったことになんかさせない。視線を背けることなんて認めない。全部見ろ。見逃すことなく見ろ。直視しろ。正視しろ。人間の醜さを、お前の醜さを。世界の醜さを。全部全部見ろ。
それが白石瞳。それが百々目鬼。
…………。
「――さあ、見ましょう。貴方は
ワタシが生きている間、ずっと。尽き果てることなく、永遠に」
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