肉まんの味

朝。

甲賀の里、屋敷。

岩爺の前に座る、4人のくのいち。

於兎、宇迦、ネム、咲耶。


於兎:なになに?なんで私たち集められてるの?怒られるの?★

岩爺:大丈夫じゃ。今日は説教じゃない。

咲耶:新しいくのいちが、修行に来るって聞いたけど……。

岩爺:そうじゃ。もう到着して、今荷物を置いて、すぐにここに来る。

ネム:もう来てるんか!

於兎:楽しみ〜!★


ととと、と足音が聞こえる。


岩爺:来たようじゃな。


岩爺の横のふすまが、ガラリと開く。

背丈2メートルはあろうか、巨大なパンダが、のしのしと近寄り、岩爺の隣に座る。

唖然とする4人のくのいち。


岩爺:新しい仲間、パンダのリーリーじゃ!

リーリー:ぐあぁぁぁ!

於兎:やだ!パンダかわいい〜!★


顔を見合わせる3人。


宇迦:(いや、違うよね?)

ネム:(でかいパンダは予想外……)

咲耶:(くのいちが来るって聞いたけど……)

謎のくのいち:(仲良くできるか心配アル……)

宇迦:って誰!?


4人の横に、いつの間にか座っていたお団子頭のくのいち。

すくっと立ち上がる、と同時に、小さくなったリーリーが、ぴょん!と肩に乗る。


シャオラン:みんなよろしくアル!

リーリー:きゅ〜!

岩爺:というわけで、新しい仲間、シャオランとリーリーじゃ!

於兎:やだ!お団子頭かわいい〜!★

ネム:(なんなん、この流れ)


戸惑う3人。

目を輝かせる於兎。

それをにこやかに眺める岩爺。


岩爺:咲耶、於兎、屋敷を案内してやってくれ。

咲耶:は、はい。

於兎:やったー!よろしくね、シャオラン!

シャオラン:よろしくアル!

宇迦:(アルって言うんだな……)


====


屋敷を歩く、シャオラン、於兎、咲耶。


シャオラン:だいたいわかったアル!ふたりとも、謝謝!

咲耶:なにかわからないことがあったら、いつでも聞いてね。

シャオラン:オーケーアル!

於兎:ねぇねぇ、シャオラン!

シャオラン:なにアル?

咲耶:(そこにもアルがつくのね……)

於兎:一緒に口寄せの練習しよ!うちのうさちゃんたちにも、リーリー紹介したい!

シャオラン:いいね!あ、いいアルね!

咲耶:(言い直した!?)

於兎:じゃあ、レッツゴー!

シャオラン:レッツゴーアル!

咲耶:(やや無理がある、アル……)


====


朝。屋敷の食堂にて。

すっかり仲良くなった於兎とシャオラン。


於兎:シャ、オ、ラ〜ン!★

シャオラン:おはようアル!

於兎:今日の修行終わったら、一緒に買い物いこっ!★

シャオラン:いいアルね!タピッちゃうアル!?

於兎:タピろうアル!


二人のやり取りを遠巻きに見る、宇迦とネム。


宇迦:一瞬で仲良くなってる……アル。

ネム:あの2人、コミュ力おばけだな……アル。

宇迦:ダメだ、この喋り方、無理がある。

ネム:無理がある、アル。


====


5日後、屋敷の広場。

ひとりで修行をする宇迦。


宇迦:……ふぅ。


少し離れたところで、シャオランと於兎が楽しそうに口寄せの修行をしている。

宇迦に近づく咲耶。


咲耶:……於兎ちゃん、いつも宇迦ちゃんと修行してたのにね。

宇迦:そうなんだよ!ここ最近、ずっとシャオランと一緒でさぁ……。

咲耶:たしかに。修行のとき以外も、あの二人、ずっと一緒だよね。

宇迦:そうなんだよ……。

咲耶:於兎ちゃん、悪気はまったくないんだよねぇ。

宇迦:うん。まぁ、シャオランもまだ里に慣れてないだろうしね……。


於兎のほうをちらりと見て、少し悲しそうな顔をする宇迦。


咲耶:しばらく、私と一緒に修行しない?

宇迦:そ、そうだね。ありがとう。


====


朝。

屋敷の食堂にて。

相変わらず仲がいい於兎、シャオラン。


於兎:シャオラン!見てみて〜!パンダのキーホルダー!

シャオラン:やだ!かわいいアル★

於兎:ほんとかわいいアル★


於兎と話したそうな宇迦を見て、助け舟を出す咲耶。


咲耶:あ、そうだ於兎ちゃん。

於兎:なにアル?

シャオラン:うつってるアル!

於兎:いけないいけないアル★

咲耶:(ノリが強い……)

於兎:で、なにアル?

咲耶:いや、宇迦ちゃんが話したいって!

宇迦:え!?

ネム:(ざ、雑すぎるだろ咲耶……)

於兎:宇迦、なーに?

宇迦:いや……。

於兎:なによー、用があるならはっきり言って!

宇迦:……し、知らない!於兎のバカ!アホ!ごちそうさま!


突然罵られ、驚く於兎。

ガチャガチャと片付け、急いで食堂から出る宇迦。


咲耶:えぇ……。

ネム:どんだけコミュ障やねん……。

シャオラン:ケンカ、アルか?

咲耶:そうね。でも、よくあるから、心配しないで。

シャオラン:ケンカはよくないアル。みんな!仲直りするから準備するアル!

咲耶:な、なにをするの?

シャオラン:ワタシの故郷では、仲直りするときに、みんなで肉まんを作って食べるアル!

咲耶:ごはんをみんなで作って仲直り、ってこと?

シャオラン:そうアル!

ネム:いいんじゃない?どうせお昼作らないといけないし。

於兎:肉まん……食べたいアル!★

シャオラン:そうと決まれば、善は急げアル!

於兎:わーい!★

咲耶:(於兎ちゃん、肉まん食べたいだけだなこれ……)


====


5人のくのいちが厨房に集まり、肉まんを作る。


ネム:なるほど、本場の味付けは八角を入れるんか。

シャオラン:八角は大事アルね!

咲耶:お肉もしっかり処理されてて、本場って感じね。

宇迦:於兎、調味料混ぜておいて。

於兎:オッケー!★


シャオランが、無邪気に話しかける。


シャオラン:で、宇迦はなんで怒ってたアル?

咲耶:(い、いきなりぶっこんできた……)

宇迦:え!……いや……。

於兎:そうだ!さっきバカ!アホ!って言われた!わたし、なんかした?

宇迦:いや……なにも……。

於兎:なによ〜、はっきりしてよ。ぷんすか!

宇迦:ぐ……。

シャオラン:……寂しかったアル?

ネム:(さらにぶっこんできた)

宇迦:……そ、そうだよ!悪い!?

咲耶:(あ、認めた)

シャオラン:……いつも一緒にいた於兎が、ワタシとずっと一緒にいたから、寂しかったアル?

咲耶:(や、やめてあげて)

宇迦:……そうだよ!そのとおりだよ!


宇迦の隣で震える於兎。


宇迦:……お、於兎?

於兎:うぇーん!宇迦ぁぁぁ!寂しかったよねぇ、ごめんねぇぇぇ!


泣きながら、宇迦に強く抱きつく。

戸惑う宇迦。


宇迦:えっ、ちょ、お前それ距離感おかしくないか!?

於兎:ごめんねぇ!うぇーん!

宇迦:泣くなって!そもそもこっちが悪いんだし……。

咲耶:あっ!於兎ちゃん、間違えて料理酒飲んでない!?

ネム:ほんまや、さっきコップに用意してたのなくなってる。

於兎:……きゅぅ★

宇迦:重い!もたれかかるな!寝るな!

シャオラン:よし、次は肉まんを蒸し上げるアルよ!

ネム:(カオスだ……)


====


昼。甲賀の屋敷の庭。

5人のくのいちが肉まんを食べている。


シャオラン:どうアルか?これがワタシの故郷の味アル!

ネム:う、うまい……!

咲耶:これはすごいわね!思わず笑顔になっちゃう。

宇迦:うん、ほんとうにおいしい。な、於兎。

於兎:うん、おいしい〜。あれ〜?なんで肉まん食べてるんだっけ?★

ネム:き、記憶がないんか……。

於兎:うん。さっき起きたし、ぜんぜん覚えてないや〜★


呆れ顔の咲耶とネム。宇迦の顔を見る。

二人の視線に気づき、諦めたように、半笑いの宇迦が言う。


宇迦:……於兎、食べ終わったら、久しぶりに一緒に修行しない?

於兎:うん!いいよ〜っ!★

シャオラン:これにて、一件落着アル!

於兎:え、なにが〜?★

ネム:うん、いつもの雰囲気だな。

咲耶:シャオラン。あらためて、ようこそ甲賀の里へ!

シャオラン:ありがとう!よろしくね!


顔を見合わせる、咲耶、宇迦、ネム。


シャオラン:ん、どうしたの?

ネム:いや、え、アル……はないアル?

シャオラン:やだ、みんな、本気にしないでよ!そんな話し方するわけないから〜!

咲耶:わ、わかりにくいジョークね……。

シャオラン:なんちゃって!ジョークアルよ!

ネム:どっちが!?

シャオラン:ヨローシク、オネガイシマース!

於兎:肉まんおいしい〜!★

宇迦:(おかわりしまくってる……)


====


片付けをする5人。


ネム:しっかし、ほんとうにうまかったな……。肉が違うのかな?

咲耶:たしかに?これなんのお肉なの?

シャオラン:……それを、言って、いいのカナ?

咲耶:えぇぇ……。

ネム:何を食べさせられたんだ、わたしら……。

シャオラン:大丈夫、リーリーたちが調達してくるお肉アル!

咲耶:で、なんのお肉なの?

シャオラン:……かゆ……うま……。

ネム:やめて?


(於兎と宇迦が仲良く皿洗いをしている)


【終】

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