おしっこはどこへ消えた?

丑三つ時、鬼と戦う雑賀のニンジャたち。


猫又:……くっ、数が多すぎる!

凪紗:どこから湧いて出てくるのよ!もう手裏剣がないわ!


小鬼たちがイチヤを襲う。


イチヤ:くっ!

凪紗:イチヤッ!


ピカッ!!

突然の閃光。

鬼たちが目をくらましているうちに、イチヤは離脱する。

直後、大きな爆発。

爆炎を背後に、小さな鳥の影が。


雛之丞:……おれっちの焙烙玉は最強だぜ!

凪紗:ゲホッ、ヒナ、来てくれたのね!

雛之丞:イチヤの伝令が飛んできてな!

イチヤ:やれやれ、ひどい目に遭ったな。

猫又:ヒナ!やるなお主!

雛之丞:どんなもんよ!


====


激しい戦いの翌日。

雑賀の里、凪紗の仮住まい。

朝起きると、戸板のすきまに手紙が挟まっている。


凪紗:……?え、ちょっと、なによこれ……。


====


雑賀の屋敷。


凪紗:弁天。

弁天:どうしたの?

凪紗:こんな気味が悪い手紙が入ってたんだけど……。

弁天:「おしっこ ください」って?

凪紗:……そう、そうよ!すでに報告が届いてるのね。

弁天:住民からも相談が来ているの。

凪紗:それは問題ね。何かの暗号なのかしら……。

弁天:嫌がらせ……にしては大規模だし、意味もわからないわね。

凪紗:気味が悪い……。ちょっと町に行って、現場を見てくる。

弁天:お願い。私とイチヤでも、動いてみるわね。


====


雑賀の町。町民たちが集まり、ざわついている。


凪紗:どうしたの?例の手紙の件?

町人:凪紗ちゃん。そうなんだよ。

凪紗:「おしっこ ください」ってやつ?

町人:それもあるんだけど……。

凪紗:「それも」?

町人:いや、他にも「おしっこ 買います」って……。

凪紗:……はぁ?最悪なんだけど……!

町人:俺に言われても……。

凪紗:一体なんなの!下品すぎるでしょう!

町人:なんなんだろうね……ニンジャのみんなで調べておいてくれよ。

凪紗:そ、そうね。私たちの仕事よね……。


====


雑賀の屋敷に戻る凪紗。弁天とイチヤが話をしている。


凪紗:どう?そっちは何かわかった?

弁天:それが……。

イチヤ:屋敷のはずれに、ずいぶん前に使わなくなった、昔の便所小屋があるよな。

凪紗:えぇ、なに、それがどうしたの?

弁天:ごっそり、なくなってたのよ。

凪紗:え?

イチヤ:便所小屋ごと。大穴が空いててな。

凪紗:えぇぇぇ……?

弁天:放置されてたとはいえ、この屋敷の敷地の中よ?

イチヤ:相当な手練だ。空間術の類を使ったんだと思うが……。

凪紗:ほんとうに気味が悪い!

弁天:手紙の内容から考えると、何か、共通点はあるとは思うんだけどね……。

イチヤ:空間術といえば、風魔のアトザだな。彼にも聞いてみよう。

凪紗:そ、そうね……。


イチヤが筆を取り出し、暗号めいた文字を書く。

虹色の風に乗って、風魔の里のほうへ飛んでいった。


イチヤ:明日の朝にも、空間術で返事を送ってくれるだろう。

弁天:便利なものねぇ。


====


翌日、ふたたび里の屋敷に集まる3名。


凪紗:イチヤ、どう?

イチヤ:あぁ、返事が来たよ。

弁天:それが……。

イチヤ:どうも、雛之丞が関係しているようなんだ。

凪紗:ヒナが!?

イチヤ:アトザいわく「雛之丞に空間術用の巻物を売った」そうだ。

凪紗:え!? 売るの?そういうのって、里の秘伝じゃ……。

イチヤ:どうも、風魔は財政が相当厳しいようでな……。

凪紗:まさかの金策……。

イチヤ:空間術は適性がないと習得はできないし、一回きりの道具として売ったのだろう。

弁天:雛之丞がその巻物を使って、便所小屋を回収したようなのよね。

凪紗:じゃあ、例の手紙も?

イチヤ:おそらく。

凪紗:もう、なんなのよ、ヒナ!探してくる!


====


雑賀の里、奥深い山。

鳥たちが集まる小さな集落がある。

雛之丞たちは、農作業のようなことをしている。


凪紗:雛之丞!

雛之丞:え、凪紗ちゃん、どうしたの?

凪紗:この手紙のことなんだけど。

雛之丞:あ、それ俺っち!

凪紗:やっぱり!どういうことか説明してよ!

雛之丞:え、ダメだった?おしっこを集めてるんだけど……。

凪紗:(ドン引き)

雛之丞:でも、誰も協力してくれなくてさ。買うお金もあるんだけど……。

凪紗:(ドン引き)

雛之丞:俺っちには、みんなのおしっこが必要なんだよ!

凪紗:……あそこにあるの、屋敷の古い便所小屋と、土?

雛之丞:そうそう、柴がこの間「いらねーなこれ、崩すのも面倒だなぁ」とか言ってたから、アトザに頼んでもらってきちゃった!いいっしょ?

凪紗:な、何に使うの?

雛之丞:「おしっこが浸透した土」が必要なんだよ!

凪紗:(ドン引き)

雛之丞:どうしたんだ?そんな顔して。

凪紗:よくわからないわ、一体何に、使うの?

雛之丞:へ?「焙烙玉」だよ!

凪紗:……あなたの武器の爆弾?

雛之丞:そうだよ。この間、鬼を倒したときにだいぶ使っちゃって。みんなでおしっこを集めて、また焙烙玉を作ってるんだ。

凪紗:……は、話がつながらないわ。おしっこがあると、焙烙玉ができるの?

雛之丞:え、そんなの常識じゃないの?

凪紗:そ、そんなことはないんじゃないかしら……。

雛之丞:そうなの?みんな知ってると思ってたよ。

凪紗:あなたの爆弾は、おしっこでできてる……の?

雛之丞:そういうことだね!

凪紗:(……戦いのときに、煙吸っちゃったわ……)


====


雑賀の屋敷。


凪紗:……という話だったのよ。

イチヤ:そうか、俺は「おしっこ爆弾」に救われたのか……。

弁天:なんか、嫌ね。

凪紗:弁天は知らないだろうけど……。ヒナと一緒に戦うときって、煙とか火の粉を浴びちゃうのよね……。


猫又が入ってくる。


猫又:どうしたんだ、集まって?


事情を説明する凪紗。


猫又:なんだ、お前らそんなことも知らんかったのか。火薬は尿から作られるんだぞ。

凪紗:知らなかったわ……。

猫又:うちの里の連中の尿も、ヒナが買い取ってくれてるぞ。

凪紗&イチヤ:……(ドン引き)

猫又:おいなんだ、お前らその顔は。

イチヤ:……弁天……ちょっと俺たちの記憶、2日分くらい飛ばしてくれないか?

凪紗:……そうね、お願い。

猫又:おいなんだ、失礼じゃないか。

凪紗:お願い。

イチヤ:頼む。

猫又:おい!


(弁天の歌が響き渡る、雑賀衆の屋敷のカット)


【終】

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