第3話 学校なんて堂々と辞めればいい

かれんが亡くなって、麗奈は自宅の部屋から一歩も出なかった。


「かれん…なんで死んじゃったの?私一人で学校に行くなんて出来ないよ」


麗奈は、いじめられていた。


麗奈は黒髪のボブ、大きな目に、小さな顔、百四十七センチの小柄な体。

それは、いわばぶりっ子だった。


そんな麗奈を、かれんだけは放っておかなかった。



「麗奈!おはよ!」

いつも、元気なかれんの声を待ってかれんと一緒に教室に入る。

「あ、かれん、おはよ」

「今日数学当たる日なのに、予習してこなかったよぉ!」

「わ…私してあるけど…予習」

「あははっ。ありがと♡でも良いよ。自分で解かなきゃどんどん分からないとこ増えちゃうから」

「まじめだね。かれん…」

「何言ってんの?ちゃんと予習してきた麗奈の方がずっとまじめだよ!」



かれんは、麗奈を元気一杯にしてあげたくて、毎日アホみたいに麗奈の前で笑った。



そんなある日、三時間目が終わり、かれんとトイレに行こうと、誘おうとした、その時、

「かれんちゃん、みんなで今夜カラオケ行かない?」

「うん!行く行く!!」



(あ…かれん…行っちゃうんだ…それはそっか…私と違ってかれんはいじめられてる訳じゃないんだもんね…ていうか、好かれてるもんね、みんなに…。やっぱり私、独りぼっちなんだ…)

と湖の底に沈みそうになった時、



「麗奈!今夜カラオケだよ~!」

「え…?」

「は…?」



「ちょ、なんで野中さんまで…?」

「だって、みんな友達でしょ?」



「…」



「やっぱかれんちゃん来なくていいよ。ねぇ、じゃあ野中…じゃ友達っぽくないから、麗奈って呼んで良い?今夜、みんなでカラオケ行こう!」

「え?なんで私…」

「前から可愛いからちょっと緊張してたの。でも、かれんはあっちこっち良い顔しちゃってむかついてたんだよね。とにかく、麗奈、カラオケ行くでしょ?」

(かれん…)

そっと視線を向けると、腕を丸の形にして、“楽しんで”と口パクしてくれた。



放課後、みんなでカラオケに行った。

行ったところを麗奈は地獄だと思った。




そこに居ない子達の悪口、誹謗中傷、いじめるターゲット、そのやり方―…。歌を歌いながら、後はみんなひん曲がった鉄だ。もう、もう戻れない。



「ごめんなさい。私、帰ります」

「なーんだ。覚悟決めたんじゃないんだ?」

「え…かく…」

「私たちと卒業するか、学校辞めるか、どっちかしかあんたに権利はないから」



冷たく笑う六~七人の女子達が、悪魔に見えた。





その次の日から、麗奈は学校に行かなかった。

しかし―…、

今更、かれんの前に姿を見せる事は出来ない。

自分を犠牲にして、クラスの人気者から、いじめられっ子に滑落したかれんに、笑顔で“楽しんで”と言ってくれた、かれんに頼る事も、甘える事も、もう一回友達になるのも…。

自分から手放してしまった。





[麗奈]





(へ?幻聴?)




[こっちこっち]


「か…かれん…!?」

麗奈の部屋のドアの前でかれんが佇んでいた。

「ん…れん…かれん…かれ――ん!!!ごめん、かれん!!!ああぁぁ私のせいで…私があの日かれんを見捨てたから…あぅぅ…」



[違うよ。私はいじめが苦で自殺した訳じゃない。麗奈の苦しみを一度体験したかった。どんなに辛いか、どんなに苦しいか、どんなに寂しいか…]

「かれん…」

「ほんのちょっとだけど、解った。それと同時に、私が、ほんのちょっと味わった事が本当に辛かった。そうしたら、麗奈が思い詰めるのは、時間の問題だって」



「もう…みんなの顔色うかがって行くのしんどい。学校…行きたくない…もう嫌…もういやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



麗奈の悲鳴は、かれんの心に刺さった。



「麗奈、学校なんて、やめて良いんだよ?」

今まで麗奈が聴いたかれんの声の中でも一番、優しい声だった。

「……え…?」

「学校になんて人生縛られてたまるか!くそくらえだ!高校辞めるとか不良のする事だ、とか思ってない?」

「だって…そうでしょ?みんな学校辞めないでしょ?私…辞めちゃいけないでしょ?」



「…誰が決めるの?そんな事。学校なんて行かなくても、通信制や定時制に大検や他にも色々将来に進む道は幾らでもあるの」



「そう…なの?私…学校辞めて良いの?それでも真面目に生きてるって、人に言っても良いの?」

「良いんだよ。逃げるのだって自由なんだから」

「…本当?かれん…」

「本当だよ、麗奈。安心して、堂々と学校辞めな」

「…うん…う…ぅ…ん」






―一週間後―

麗奈は学校を辞めた。


進学は通信制のある高校へ編入す事にした。

最初は両親に説得をされたが、

『堂々と学校辞めな』

というかれんの言葉に強さをもらった。



「お父さん、お母さん、私、この選択、絶対間違ってないと思ってる。親友のかれんがそう言ってくれたから。私、頑張るね」



「そうか。頑張ってきなさい」

父親に見送られ、母親と入学式に行った。



空は、雲一つない青空。



麗奈、ありがとう…。

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