第20話 幽霊旅館にようこそ

 --私は可愛い。しかし汗まみれだ。

 まさか富士山から戻ってまた歩く羽目になるとは思わなかった。


 富士山から無事に帰還した私と凪はその足で今日泊まる旅館に向かってたんだけど……


「……凪」

「なぁに?日比谷さん」

「どうしてもっと近場にしなかった?」


 時刻は夕方18時。8月の空はまだ日が高い。そして暑い。

 私と凪が泊まる宿はバスも通ってないようなド田舎の温泉旅館。評判は分からない。というか情報がない。


「私がいっつも泊まる所なんだ。おじいちゃんがやってるの」

「ああ…それで毎年富士山登ってるんだ…」

「おじいちゃんも忙しいからたまには私から顔見せてあげないと」

「いい宿なの?」

「…………湯はいいよ。うん!」


 なんですか今の間は?



 歩き続けること1時間少々…私達は目的の宿に着いたんだけど……


「……傾いてる」

「古いからね」


 人気のない山に囲まれた温泉旅館は廃墟と見紛えるレベルの古い木造の宿で、黒くくすんだ看板はもはや宿の名前すら読めない。

 ほんとにやってるの?


「おじいちゃんただいまー」


 引き戸を開けて上がる凪の背中は実家に帰ってきた孫みたい。てかそのまんまだ。

 というかロビーも電気ついてないし受付にも誰もいないしほんとにやってるんですか?


「……誰も居ないよ?」

「おじいちゃん?来たよー。おじい--あ、死んでる」


 ボロボロの受付カウンターの向こうを覗き込む凪がおじいちゃんを見つけたようだ。死んでるらしい。


 死んでる!?


「死んでるの!?」


 私もカウンターを覗き込む。

 真っ黒な床の上に骨と皮だけの老人が倒れ込んでぴくりとも動かない。


 ……え?本当に死んでる?


「なななな、凪!?これ……これ……」

「おじいちゃん起きてー。来たよー。凪だよー」

「きゅきゅきゅきゅ救急車!え?でももう死んでるんだよね?葬儀屋?霊柩車??」

「うう……ん」


 小さく呻きながら暗闇で起き上がるおじいちゃんの死体。落ちくぼんだ瞳と私の目がバッチリ合った。


「ぎゃあああああああああああああああっ!!?」

「あ、おじいちゃん起きた。おかえり」

「……三途の川の渡し賃がなかったわい…おかえり凪」


 え?ジョークだよね?


「おじいちゃん、友達連れてきたよ。同じ学校の日比谷真紀奈さん」

「…………おー…凪、友達ができたんか」


 カクカク震える脚で立ち上がって私を見つめるおじいちゃんが嬉しそうに優しい微笑みを吹きこぼした。我が事のように嬉しそうなおじいちゃんの笑顔にさっきまでの動揺も吹き飛んだ。

 優しそうな人だ。腰が90°曲がってるけど。


 *******************


 通された松の間は1番いい部屋らしいんだけど……


 確かに広い。襖を挟んだ2部屋、ベランダからは山間の深い緑がよく見える。深い静寂に包まれた山の景色は街中では味わえない澄んだ空気を放ってる。旅館に来たって実感する。


 ……全体的に暗く淀んだ部屋の空気に目を瞑れば。

 あと部屋を区切った襖に御札がびっしり貼られてるのに目を瞑れば…


「どう?いい部屋でしょ!」

「……」


 誇らしげに笑みを湛える凪を前に何も言えないけど。


「……失礼します」


 立ち尽くしてたら後ろの部屋の扉が開いてガラガラの声が室内に飛び込んできた。

 中居さんかな?他に従業員居たんだ--


 目の前に膝をついたおかめさんが居た。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あ、おばあちゃん」


 おばあちゃん!?これが!?

 継ぎ接ぎだらけの和服に黄ばんだ白いおかめの面を被った…女将?

 本当におばあちゃんらしく凪は嬉しそうに駆け寄った。


「ただいま。元気してた?」

「……元気だよぉ」


 どうして?なんでお面付けてるの?なんで突っ込まないの?


「日比谷さん、これおばあちゃん」


 これ呼ばわりかよ。


「……はじめまして…日比谷真紀奈です」

「……初めまして。凪にお友達が出来たなんてねぇ……」

「えへへ」


 そんなに友達居ないのか……


「あの…そのお面は……?」

「ああこれ?おばあちゃんずっと付けてるの。なんか家に代々伝わるお面なんだって。付けたら取れなくなるって言って…もーおばあちゃん、日比谷さんびっくりしてるから」

「……これは阿部家に伝わる厄除けの面でございます…付けたものの命を食らう代わりに家を守ってくれるありがたき面にございます」

「もー、おばあちゃんまた昔話?」


 凪、ヘラヘラ笑ってる場合じゃないけど?命奪られんの?


「この面のおかげで阿部家は安寧でございます」


 ……おばあちゃん。


「……温泉は露天と2種類ございます。どちらも24時間何時でもお入りになられます。それとそちらの襖は決して開けないようにお願いします」


 おばあちゃん!?


「あと、洗面台の鏡は2時以降朝まで覗かぬように……」


 おばあちゃん!!


「……え?開けたり覗いたりしたらどうなるんですか?」

「……夜中に声が聞こえてきても決して開けないように……」

「おばあちゃん!?」

「……えっえっえっ」


 笑い方が怖いし部屋も怖いしおばあちゃんも怖いんだけど…


「すみません部屋変えて貰えます?」

「……ではごゆっくり」

「おばあちゃん!!」


 *******************


 怖いです。

 友人の祖父母の家が幽霊旅館だとは思いませんでした。凪は怖くないのかよ。


 夕食の前に露天風呂に入ることにした。

 案の定お客さんは居ないようで露天風呂に向かうまでに誰ともすれ違わなかった。


 まぁ……色々言いましたけど、凪の言う通り温泉はとっても広くていい感じ。ちょっと古い感じがむしろ味を出てた。


「……おおー」

「ね!お風呂はいいでしょ?」

「……うん」


 早く入りたい。富士山ではお風呂に入れなかったから身体中気持ち悪い。

 湯に浸かる前に体を洗って凪と一緒に温泉に浸かる。

 体中筋肉痛だったけど温かいお湯に肩まで浸かると全身の疲れがお湯に溶けだしていく。気持ちいい。


「眺めもいいなぁ…最初来た時はどうしようと思ったけど……」

「え?そんなにかなぁ…?確かにちょっと古いとは思うけど。」


 それもだけどそうじゃない。


「凪は毎年来てるんでしょ…その、幽霊とか見たことある?」

「え?幽霊?ないよ」

「本当に?あの襖の奥はどうなってるの?」

「…………さぁ。知らないなぁ」

「何今の間」

「日比谷さん肌真っ白、羨ましい」

「話を逸らすな」

「髪もサラサラで綺麗…私も日比谷さんみたいに可愛かったらなぁ」

「まぁ私ほどの美貌を望むのは欲張りすぎってものだけど?凪も可愛いよ。普通にモテると思うけど?」


『ええなぁ。めんこい子が居って…ええなぁ。』


「そうそう、めんこいめんこ…」


 ……ん?

 誰の声?入ってきた時人なんて居なかった……


 ……声の方を向いたらいつの間にかお客さんであろうおばあちゃんが肩まで湯に浸かって気持ちよさそうに顔を緩めてた。

 ついでに体も揺らめいてた。湯気に溶けるように輪郭がぼやけてた。後ろの岩が透けてた。


『ええなぁ、ええなぁ。めんこいめんこい。いつもよりいい湯やなぁ……』

「………………」

「あ、こんばんは。また会いましたね」


 明らかにその……お亡くなりになってるみたいなおばあちゃんに凪がニコニコ挨拶する。学校では絶対見せないような向日葵のような笑顔。まるで100年の知己と再会したような笑顔。


『めんこいめんこい』

「おばあちゃん?こんばんはー」

『めんこいめんこい』

「もー、耳が遠いんだから…この人私が行く度に会うんだよ。贔屓にしてくれてるみたいなんだ。でも耳が遠いみたいで……」

『めんこいめんこい』


 いやお前の目が遠いんだよピント合ってんのか?それ贔屓にしてるって言うか地縛霊的なあれじゃないの!?


「……凪、もう出よう」

「え?もう?今入ったばっかり……」

「のぼせた」

「えー…早くない?」

『めんこいめんこい』


 *******************


 ……暗くなってきたからかな?“他のお客さん”が活発になってきたようです。


『おかあさぁん』


 --ガリガリガリガリガリガリガリガリ。


『…ええな、ええな……ええなぁ』

『会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった』


 --コンコンコンコンコン。


『えーん。えーん』


 ……廊下が騒がしてくてご飯が喉を通りません。


「これ全部おじいちゃんが作ってるんだ。どうかな?美味しい?」

「……ちょっと廊下がうるさいね」

「え?静かだけど……あ、虫の声聴こえるよ?」

「凪…私帰っていいかな?」

「えぇ!?口に合わない!?」


 口というか肌に合いません。怖いです。凪には何も聴こえてないの?お風呂のおばあちゃんは見えてたのに?私にだけ聴こえるあれ?


「……そっか。ごめんね?元々私が無理言って連れてきたんだもんね……その……楽しく……ないよね?」


 ……あ。


「違う違う!そうじゃないって!楽しいのは……楽しい」


『たのしいたのしいたのしい。うふふふふ』


「……ほんと?でも帰りたいって……」

「いやいや!全然!?帰りたくない!むしろ住みたい!!」


『かえらない。いっしょ。ずっと。いっしょ。いっしょ』


「あ、ごめんなさい帰ります嘘ですから」

「……日比谷さん?」


 さっきから挙動不審な私に若干引いてるけど、私はあんたに引いてる。怖くないの?


「違う違う。その…旅行とか久しぶりで、落ち着かないっていうか…浮かれてるって言うか……」

「……私も、友達と旅行なんて初めて」


 もうホントなら今すぐダッシュで山を降りたいけど凪がこんなふうに笑うからこれ以上言えない。

 私の美貌を太陽だとしたらこの子の可愛いさもジュエリーショップで9800円くらいの輝きがある。くそ……


「また来年も…一緒に来てくれる?」

「らい…ねん……」


『また来て。待ってる。ずっと。ここで』

『かえる。さみしい。ついてく。さみしい』


「……そう、だね」

「よかった。今日は寝るまでいっぱいおしゃべりしよ?」


『いっぱい……おしゃべり……』

『ねかせない。あそぶ』


「……いっぱい……おしゃべり……ね」



 --というわけで就寝!

 しかし、女子高生2人でお泊まりとなれば簡単に寝付くはずもなく……

 そう、例えば恋バナとかさ……あるじゃん?いかにも青春っぽいやつが。


 ……かく言う私も、ちょっとしたい話があったり……


『……開けて。開けて』


 したんだけどごめんなさい寝ます無理です。

 締め切った襖の向こうからなんか聴こえてくるんですけど!?


「ふふっ、なんか修学旅行みたいだね」

「ふふっじゃない凪、ねえ聴こえてるよね?声するよね?」

「しないよ?」

「凪」

「日比谷さん、ここでは変な声とか音とか聴こえても無視するのが楽しむコツだよ?」

「聴こえてるんじゃん」


 伊達に毎年来てない。隣の襖の向こうから幽霊の声がする中でまるで実家のような安心感。緩みきった表情が私の恐怖心まで削いでいく。


 …そうだよね。平気だよね。開けなきゃいいんだから…凪だって毎年ここで過ごしててなんともないんでしょ?


「……分かった無視する」

「そうそう」


 そうだ…せっかく友達と温泉旅行に来たんだ。幽霊なんかに振り回されたら勿体ないよね。


『ねぇ…開けて……』


 聴こえない聴こえない。


「……凪、私凪に相談したいことあるんだよね」

「え?なに?」

「……恋愛相談…的な?」


 枕を抱き抱えて布団に収まる凪の顔が華やいだ。恋バナでこんなに興奮するあたりやっぱり筋金入りのぼっち。

 でも人のこと言えないか…私も多分、浮かれてる。


 だって多分……初恋。


 *******************


 私は可愛い。

 他の追随を許さない類まれな美貌。立ち姿だけで美術品。

 誰よりも美しく産まれ、美しい者としての責任と使命を常に感じながら生きてきた。


 真に美しいものは誰のものにもなっちゃいけない。だって『美』とはみんなに等しく愛でられるべきもの。等しく愛でる権利があるもの。


 その自負に溢れた16年間。私は言い寄る男達をことごとく拒絶してきた。

 私は彼氏は作らない。

 誰かに恋したことだってなかった。


 だけど……


「え?好きな人が居るとか?誰?誰?」

『だれ?』

「……うーん。いや、まだ好きかどうか分かんないし、好きだったとしても私は付き合えないし……」

「付き合えない?」

『なんで?』

「いやほら、私は美の権化だから」

「……?」

『どういうこと?どういうこと?』


 なにそのポカンとした顔。おかしいこと言った?あと恋バナに3人目が混ざってきてる。いや聴こえない。


「ほら、私はみんなの真紀奈ちゃんだし?」

「……?」

『……?』


 幽霊からも疑問符が浮かんでる気がする。なんで?世界の真理を説いてるだけよ?


「えっと、気になってる人がいるのは確かなんだね?」

「……まぁ…ほんとちょっと?うん」

「えー、誰誰?日比谷さんに気に入られるなんて幸せな男子だね!誰?」

『誰?』

「………………同じクラスの」

「うわぁ誰だろ」

『気になる』

「……空閑君」

「きゃーっ!」

『きゃー!』


 はしゃぎすぎ。やっぱり陰キャだ。陰キャが2人いる。


「いや、気になってるだけ!好きとかまだ分かんない!!」

「球技大会かっこよかったもんねー」

「……どうしたらいいかな?」

「どうしたら?」

「だから…まずこれがほんとに好きかも分かんないし、好きだったとしてさ…やっぱり私は世界中に美しさを振りまくのが使命ってか…アイドルに彼氏いたら萎えるじゃん?それと同じように私は特定の誰かと付き合う訳にはいかないし。最高の美を持って生まれた私の使命を放り投げることになるし…それは裏切りじゃん!?私を好きでいてくれる全人類、てか、この世界への!」

「………………?」

『………………?』


 何この反応。


「なんだろ…こんなムカつく恋バナは初めて」

「恋バナなんてしたことないでしょ」

「うーん…日比谷さんの自意識過剰は置いといて…まずほんとに好きなのかがそもそも分かんないと」

『はっきりしなさいよ』

「だって、今まで接点なかったし…この胸のドキドキも気のせいってことも……」

「ドキドキしちゃってるんだ!?彼のことを考えると!」

『カマトトぶってんじゃないわよ』

「ほら!勘違いは誰にでもあるから!!」

「えー?勘違いかなぁ?」

『さっさと告白しなさいよ』

「この気持ちをどう確かめたらいいかっていうか……」

「勘違いじゃないよ!それは日比谷さんのうざったいプライドが邪魔して素直になりきれてないだけだと思う」

「う、うざったい…?」

『うざい』

「そうだねぇ…でも今まで接点なかったわけだし…二学期から積極的にアプローチ仕掛けてみるとか?そしたら向こうが日比谷さんのことどう思ってるかも分かるんじゃない?」

「アプローチって…私の勘違いで向こうがそのアプローチで本気になったらどうするのよ」

「振ればいいんじゃない?得意でしょ?」


 やめてその言い方。


「とにかく相手のことよく知らないとほんとに好きかは分かんないと思う」

『青春。しろ。青春』


 ……そうかな?そうだね。あとうっさいな3人目が。


「……分かった。やってみる」

『まどろっこしい。はよ告れ』

「頑張れ!私もサポートするよ!それに球技大会で日比谷さん守ってたもんね!空閑君も絶対気があるはずだよ!!日比谷さんが本気なら告白しちゃえ!」

『はよ』

「それだよ…好きだったとして私はどうしたらいい?」

「……まだその話引っ張るの?」

『うざい』

「日比谷さん。日比谷さんにだって恋愛する権利はあるんだよ?それは相手も同じだよ?空閑君が日比谷さんのこと好きで、日比谷さんも好きだったとして、日比谷さんはそんなくだらないプライドの為に空閑君の気持ちを踏みにじるの?」


 く、くだらない…?私にとっては全てなんですけど?


「それにね?日比谷さん知ってる?女の子は恋をしたらもっっと可愛くなるんだって」

「……詳しく」


 美の化身たる私にはより美を磨く義務がある。まさか恋愛が美容効果をもたらすとは…初耳です。


「恋をしたら好きな人にもっと可愛いって思って欲しいじゃん?」

「……それで自分を磨くモチベーションになると?」

「あと恋をするとナンタラホルモンが分泌されてお肌がつやつやになるんだって」

「眉唾だ」

「髪もサラサラになる。あと目も大きくなる」


 え?凄い…なにそのホルモン美容整形じゃん。それ経口摂取とかできませんか?


「はー、いいなぁ…私も恋したい」

「凪ならいくらでも相手いるよ。凪くらいのレベルが1番近づき安いんだから」

『うん』

「…………それ、褒めてる?」

「うん」

『うん』


 なんだか不服そうじゃない。世界最高峰の美貌に褒められてなぜ?私は生きるモナ・リザよ?


「まぁ…頑張って!大丈夫!!自信もって!!日比谷さんに惚れない人なんて居ないよ!」

「まあ私に恋をして初めて人としての生が始まると言っても過言ではないし…」

「……その自意識過剰ぶりを治したらもっとモテるよ?」

「?」

『うざい』


 自意識過剰…?過剰でもなんでもなく真実なんだけど…


 *******************


『……っ、空閑君!私が…私が、この私が!付き合ってあげてもいいけど!?』

『……は?』

『え?』

『いや、いいです』




「--うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

『うるさい』


 布団を蹴飛ばして跳ね起きた。

 なんか今凄い悪夢を見たんだけど?夢の中で私フラれてるんですけど!?え?夢よね?

 いやいやありえないから。日比谷真紀奈だよ?私、世界一可愛いんですけど?


『開けて』


 天地がひっくり返るのと私がフラれるのなら私がフラれる可能性の方が低い。


『ねぇ』

「……大丈夫私は可愛い…今日も明日も死ぬまで可愛い。てか死んでも可愛い。霊魂まで可愛い」

『ねぇってば』


 スマホを見たらまだ2時。変な時間に起きちゃった。凪は寝てる。


「……顔洗ってこよ」

『もしもーし?』



 トイレを済ませてスッキリしたところで寝汗を落とそう。いや私は可愛いからトイレとか行かないけどね?あれです。美少女は全部星屑になって出てきます。


 洗面台で冷たい水を顔に打ち付けたら目が覚めた。覚めちゃった。

 顔の水気をタオルで取り鏡の向こうの自分を見つめる。そこには変わらず可愛い私が映ってる。


「大丈夫。可愛い……私は可愛い」


 我ながら惚れ惚れする美貌。神様が私を本気で作ったとしたら他の人は暇つぶしで作ったダンボール工作だ。


 それにしてもあんな夢見るなんて…やっぱり私は……



 --あと、洗面台の鏡は2時以降朝まで覗かぬように……



 ……………………あ。


 鏡、覗いちゃった……


『…………こんばんは』


 フリーズする私の真後ろ--正確には鏡に映る私の向こうからくぐもった声がした。

 そして私の髪の毛の間から顔を出すように灰色の顔をした何かが--


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」

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