第4話 痴漢はやめましょう
--私は可愛い。
緩やかに流れていく車窓の景色を眺めながら、朝の憂鬱な通学時間を桜色の街並みで染め上げる。ぎゅうぎゅうの満員電車で扉と乗客に押しつぶされていなければ、実に優雅なひと時……
現在午前11時23分。
16歳、高校1年生。
大事な通学カバンを前に抱いていざ学校へ……
……ああ、行きたくないわ。
だって着く頃にはもうお昼だもの。入学早々、遅刻なんて……
電車がカーブで大きく揺れる。それに合わせて中の乗客たちも大きく揺れる。
うっ!!人の質量と硬い扉とに挟まれて苦しい!私の慎ましやかなおっぱいがさらに潰れて--いや違う、潰れてないから。
地方の田舎でこんなに電車が混むことがあるのだろうか……
この街は桜の名所らしい……花見シーズンには大勢の観光客で賑わっているのを、テレビで観た。
それにしたって平日の昼間からこんな……
私はこの街では新参者。舐めていた。真面目に早起きしてたらこんなことにはならなかった。
満員電車やだ。暑いし狭いし苦しいし臭いし誰かの鼻息がさっきからうなじあたりに当たってる。キモイ。
……まあいいや。
ぎゅうぎゅうなこの状況はひとまず忘れて、眼前に広がる桜並木でも眺めて心を落ち着かせよう?
青空には白い線のように細かな雲が浮かび、眩しい青の下には対称的な桜色の花弁が風に舞い、まるで春の粉雪……
謙虚さと賑やかさの入り交じったどこか居心地のいい街並みを、桜の木々が見下ろしてる。
……ああ、なんて美しい。まさに私の為の街。私に相応しい街。私の街。
この学校にしてよかった……
隣県から電車で1時間もかかるけど、毎日この桜並木が見られるなら--
……ん?
桜とガラスに反射する私にうっとりしてたら、下半身に違和感。
なんだろう……なんかこう……なにか臀部付近になにか……当たってるような……
後ろの人のカバンかなんか--いや違う。確かに体温を感じる。
……あれ?もしかして手が当たってる?
そう思った--否思おうとした瞬間、尻に触れた感触が明らかな意志をもって動くのを感じる。
私のこの……ミロのヴィーナス顔負けの滑らかで美しいヒップラインを沿うように、上から下へ……
僅かに肉を握るように力の籠ったなにかの感触が何度も上下に行き来する。その度指先?その物体の先端ら辺が私のおしりの肉に食い込むんだ。
右側のケツの肉を撫で回したあと、左の方のケツ肉へ--
ああ……これは。
どうやら私の色香がまた1人惑わしてしまったみたい……
*******************
ガラスに微かに反射する車内を眺める。私の後ろにはスーツ姿のおっさんが1人……
歳の頃は40代後半ってところか…白髪混じりの髪の毛に眼鏡をかけてる。目尻は下がり優しげなしわが刻まれてる。
ただの会社員って感じ……
そいつがちょうど私の真後ろに張り付くように……
--いや、それはいい。
私はおっさんではなく、反射する自分の姿を見つめる。
腰あたりまで伸びた明るい茶髪、毛先は緩やかなウェーブがかかり、ボリュームある長髪は柔らかさを醸し出す。
そう、まさに慈母の如き私の内面を象徴するかのように……
そんな髪の毛に包まれた小さな顔には、大きな瞳がサファイアブルー(カラコン)の輝きを放ちながら鎮座する。
自分で自分を見つめてうっとりする…なんて美しい瞳。本当に宝石みたい…(カラコン)
大きくはっきりした瞳は私の知性、聡明さを惜しみなく表に押し出してくれる。
左目の下の泣きぼくろは、弾けんばかりの色気を芳醇に薫らせる。
瞳の間の通った鼻筋。ぷっくり膨れた艶やかな唇、まるで花弁。
パーツ全ての調和が、黄金比を作り出し滑らかな陶磁器のような白い肌の上に配置される。
ほっそりした首から下--そこに広がるのはまさに女体の楽園か……
下品すぎない、強調されない胸。花瓶のように緩やかなカーブを描くくびれ。艶めかしく肉の着いた尻、伸びる脚。スラリと長い腕…
完璧だ。アフロディーテも裸足で逃げ出そうと言うものだ……私こそ『女』の完成形……
……故に私は赦す。
日々私に下卑た視線を投げつけてくる男…私の隣に無遠慮に近寄ってくる男…街で歩く私を引き止め貴重な時間を浪費させる男…
そしてこうして私の美貌に惹かれて手を伸ばす男!!
最高の美を持って生まれた者の責務--
ただそこに在るだけで全てを惑わしてしまう私は、その全てを許さなければいけない。
だって全ては…私が美しすぎるのがいけないんだもの。
私の可憐さと美貌は人間の理性を簡単に崩壊させる。ああ……なんて罪な女。
……さて。
高校の最寄り駅まではあと2駅……15分てところか?
私の後ろで鼻息荒くケツを揉みしだくおっさんは、とうとう両手を投入し熟れた私の桃を堪能している。
触り方がヤラシイ……割れ目に指が入りそうだ……
今まで数々の痴漢にあっては来たけど…今日のは一段と激しい。
……激しい。大いに結構。
身動きのできない満員電車。抵抗することの許されない状況下、汚らしい男にその身体を陵辱されて……
……おふぅ♡
*******************
--痴漢が好き。
抵抗できない…そうできないのだ!
私はいたいけな女子高生。相手は屈強(?)な中年男性だ。
まして身動きも取れないほどのこの満員電車。
恐怖と恥じらいと屈辱に震える私……
恥じらいから声をあげられない私を、この男はさらに--
「……っ!んっ♡」
思わず零れる艶やかな吐息と声。周りの何人かが私の方を見る。
驚いたのか後ろの痴漢も手を引っ込めてしまった。
……いかんいかん。つい想像だけでイッちゃうとこだった。
……みんなはエッチなビデオ観る時、どんなシチュエーションが好み?
学校でこっそり?人妻と旦那の居る隣で?病院の病室で?
やっぱり痴漢モノだよね?
え?女子高生はアダルトビデオなんて観ない?ノンノン、みんな観るさ。
最高の美貌を持って生まれた私は世の男たちを喜ばせるのが使命だから…男たちの好みは把握しておかないといけないの。だから観るの!
……話を戻そう。
痴漢モノの何がいいって…現実に起こり得るシチュエーションだよね?
人妻を寝取ったり、寝取られたり、病室でナースと患者とか、学校でこっそりとか……
それらも非現実的ではあるけど、起こりうる(?)は起こりうる。でもそれは日常ではなく、非日常なわけだ。言ってること分かる?
言うなれば日常から逸脱したアクシデント--イベントなわけ。
痴漢は?
君がある日いつものように電車に乗るとする。後ろに立つ中年男性。汚らしい鼻息と共に尻や太ももに伸びる手!
……ほうら、興奮してきたでしょ?
発情する前に考えて欲しい。この状況、果たして非日常か?
否!登校中、出勤中という日々のルーティンの中で起こっている。
今日彼氏彼女が出来ました♡学校でしちゃいます。
ナースさんと相思相愛です。病室でしちゃいます。
旦那さんいるけど奥さん寝取ります。
……これのどこが日常のルーティンだ?
恋人ができた日。ナースと恋人になった日。人妻を寝取る日…全てが日常では無いイベントだろ?
では痴漢は?
毎朝乗る電車…当たり前のように居るほかの乗客…それに陵辱される私…
日常の中で、当たり前の中から伸びてくる獣の魔手……ほら、明日にでもあなたに--
まぁそういうことよ。気持ちよさそうに画面の向こうで喘ぐ女優に、自分もなれるかもって思える…
そんなところに痴漢モノの夢が詰まってる。
ほら!実際起こってる訳だしね!?
……あ。
痴漢という行為のもたらす甘美な悦びに浸る間に、男の手が再び私に触れた。
指を蠢かせ尻肉の感触をしゃぶりつくしつつ、下へ……
おふっ!!スカートの中にっ!
まさかの直!下から持ち上げるように尻や太ももの肉を撫でてくる。こいつ……できる。
君の顔は覚えたよ。君にはこの美の化身直々に『ベスト・オブ・痴漢賞』をあげよう。
近頃の痴漢はスカートの布地の上とか、触って太ももに手を触れるとか、そんな草食ばかりでいかん。
やっぱりこれくらいがっつかなくては……これは触るどころではない。もうケツが取れるんじゃないかってくらい揉んでる。
……ああ、至福♡
痴漢プレイ、SM、スカトロ……私はどれも嫌わない。でもやはり生で楽しむリアル痴漢は至高……
あ〜この後どうなっちゃうんだろう?駅に着いた途端電車から引っ張りだされてトイレで…?いや、もうそのままここで!?
途中でバレてほかの乗客まで……やばーいっ♡
ああ…想像したら我慢できなくなっちゃった…♡どうしよ……
息遣いが荒くなってきたタイミングで私の尻から手が離れた。
あれ?
薄ら反射するガラス越しに後ろを見る。さっきまであんなに情熱的に私のケツと脚をまさぐって--
私の後ろでおっさんが自分の手を顔に引っつけて匂いを嗅いでる。
もう一度言う。匂い嗅いでる。私のケツを揉んだ手の、匂いを!
つまり私のケツの匂いを!
……とんでもない変態だ。
恍惚とした表情を浮かべたおっさんが再び私の下半身に視線を向ける。慌てて私は気づいてませんってふうに車窓の向こうに視線を向ける。
やばい。こいつになら抱かれていい……
この変態に全身の匂いを嗅ぎ回されて、身体を舐られて……ああっ!!♡
汚らしい油っこいおっさんに陵辱変態プレイされたい……っ!全く今から学校だと言うのに、どうしてくれるこの昂り。
これはもうケツを揉むどころでは済まない。この変態は私の〇〇〇に指を〇〇て〇〇〇〇--
ああっ!!♡ああっ!!♡
おっさんの鼻息に引っ張られて私の吐息も荒くなる。隣のおばさんが怪訝そうな顔でこっちを見る!気づかれちゃう。いやもう気づけ!!
大勢の前で私を辱めてっ!!
……お父さん、お母さんごめんなさい。とんでもない娘です。変態美少女でごめんなさい。
触り方が激しくなってきた。もう周りも気づいてるんじゃないの?両手をスカートの中に突っ込んで激しく揉んで、撫でて、指を食い込ませて……
あんっ♡だめぇ♡
--スーッ。
「……あっ」
身体から力が抜けていくのと同時におしりの隙間から空気が漏れちゃった。
満員電車で絶世の美少女が屁をこく。そんな醜態は絶っっ対に許されない!!
バレてない?バレてないよね!?
大丈夫。スカしたから…音は出てない。臭いは……誰も特に反応してない。大丈夫。
あっぶねー。日比谷真紀奈はみんなのアイドル。至高の美少女……ウ〇コもオナラもおしっこもしないの。そう、アイドルがそれらをしないように……
大丈夫よ真紀奈……私は今日も美しい……
ふぅ危ない危ない…あんまり激しいものだからついつい本気で楽しんじゃった。気を抜くな。
その時確かにおしりにあった感触が離れていくのを感じる。私はちらりと後ろの痴漢を確認した。
おっさんは私の体温でまだ温もりを宿した両の手のひらを自分の鼻に--
やばーいっ!!
たった今屁をこいたばかり!その間おしりに触れていたその手にはもしかしたら私のオナラの臭いが……っ!!
いかに相手が痴漢とはいえ、何者に対してもこの日比谷真紀奈のイメージダウンは起きてはいけないっ!!それが完璧な美の完成体として産まれた私の使命!
いやむしろ、私の魅力に誘われてきたこの痴漢にこそ、私は私であり続けなければいけないっ!!
いや落ち着け。私のオナラは無臭……多分。
誰もスカしたの気づいてないもん。これだけ満員なんだから臭ったら絶対気づく。
昨日何食べたっけ…?
完璧な美貌を維持する為に食生活にも抜かりはない。お腹のガスが臭くなるようなものは食べてないはず……忘れたけど……
信じろ。昨日の私を……今までの積み重ねを……16年の人生、ただの1度だってオナラ臭いなんて言われたこと--
「--っ!クッサっ!!?」
…………………………………………
鼻に当てた手の匂いを一気に鼻腔に送り込んだおっさんが満員電車で叫ぶ。
目に涙を湛え。全霊の力で、車輌中に響く大声で……
「……」
「え?」
「なに?」
「は?うるさ」
おっさんの突然の暴挙に周囲の表情が歪み視線が集まる。満員電車で非常識に叫んだんだ。当然の反応だよ……
そう……非常識だ。
いくら臭くたって……叫ぶ?普通。
「……どうしたんすか?」
おっさんの横の男の子が迷惑そうな顔で尋ねてきた。おっさんは涙目で男の子と、そして私の方を交互に見つめて--
「いや、この娘の屁--」
その瞬間、私はスペースの限られた中で淀みないスムーズな動きをもって後ろに手を回しておっさんの腕を掴んだ。
それを全霊の力で引っこ抜いて上に持ち上げて--
「--痴漢です」
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