第22話
「……はあ? 今考え事してるのよ! あっちへ行きなさい!!」
「その、だから――」
男のせいで考えがまとまらず、ヘランダは強く拒絶した言葉を放つ。
「うるさいのよおっさん!!」
「お、おっさん!? ちょっと待て俺はまだ30だぞ!?」
「十分おっさんじゃない!!」
「お、おっさん……」
おっさんという真実にヘナヘナと力尽き、四つん這いになって落ち込む男、中年としては十分な歳であったが、男にはどこか認めたくないという気持ちがあった、そんな落ち込んでいた男を見て、ギルドから追っ手が送られる事を恐れていたヘランダはその場を立ち去ろうとするが。
「待て、まだ答えを聞いていない」
男の一言でゾクリと空気が変わった、膨大な魔力が男の全身から溢れていく、針のように刺さる魔力をヘランダは肌でピリピリと感じると、立ち去ろうとしていた足は止まり、男に目線を合わせ防衛する為に杖を向ける。
「貴方、一体何者かしら?」
先ほどまで茶色だった男の目は、蒼く、辺り一面が氷河へと変貌したかのように冷たくなる。
「もう一度聞きたい、君は円卓の騎士団員か?」
「そうだと言ったら……どうするのかしら?」
「国王から確保の命令が出てるんでね、軽く拘束させてもらう」
ヘランダは素早く杖を男に向け、魔法を詠唱した。
「降り注ぐ氷の塊よ、この杖に宿れ! ブリザード・ダスト!!」
杖から伸びた槍のような氷は確実に男を捕らえたと思ったが……ピタリ、と何故か魔法は男の目の前で止まると――。
「悪いが俺に魔法は通用しない」
男はすっと手を伸ばし、止めていた『氷』は『水』へと変わりその場にバシャリと落ちた。
「ど……どうして!?」
ヘランダが驚くのも無理はなかった、この街でアプロの他に強者がいるとしたらテスター、ルーヴェルの2人、にも関わらずこの男は一体何者なのか?
そう考える暇もなく、ドシンとヘランダの身体は重くなった、目の前には時計が現れ、2つの針がゆっくりと12時に重なった時……。
ヘランダは、石像のように固まったまま動く事はなかった。
「……しまった、団員かどうか聞き忘れた」
やってしまったと男は頭に手を当てた後、ヘランダの懐を手で探っては緑色のカードを見つけると、その名前をしっかりと確認する、そのまま自身の『金色』のパーティカードを取り出し耳元に近づけると、存在しない第三者に話しかけ始めた。
「ロザリーさん、聞こえるか?」
これは『術式連絡』というゴールドの特権機能である、特権機能とは色によって違い、例えばグレイシーやヘランダ達はパーティに所属している者達の位置を確認する事ができる。
そして男の持つゴールドの機能は、離れていてもゴールド色ならば冒険者同士で連絡が取り合えるという世界でも珍しい代物だった。
「1人の女性を確保したからパーティカードの番号を送る、確認してみてくれ、えーっと……」
日が沈みかける頃、酒を飲む冒険者達の談笑の声が飛び交う中、冒険者ギルドのカウンターに立っていたロザリーは――。
「ああ、間違いないネリスくん、そいつは円卓の騎士団員だね」
ネリスという男に返事をすると、他の冒険者に見られないよう金色のカードをすぐにポケットにしまった。
「さてと……次は”あいつ”の動向を確認しないといけないが……。帰り道を含めてこの子から色々聞くべきだな」
これ以上森の中を歩くと迷って帰れなくなると判断したネリスは、立ったまま静止しているヘランダを見て葉巻に火をつけ、香りを楽しみながらその場に座り込み、目が覚めるのを待つ事にした。
「時間を停止したり進めたりするのはいいが……まだまだ調整が難しいな」
◇ ◇ ◇
アプロ達が『カルロ』の街へと戻ると、夕日は影に隠れ辺りはすっかりと暗くなっていた、結局テスターと仲間達は牢屋に入れられ、今後の対応はギルドと国王が行う事で話は済む。
あの場から逃げてしまったヘランダは、ギルド総出で辺りを捜索したが一向に見つからず、行方不明者という扱いで指名手配書を作る事にし、アプロ達はそんな事も忘れて僅かながら入手した報酬金を使い、ギルド内で食事を行っていた。
「はーあっ……せっかく報酬金入ったのにこれでパアになっちゃったな」
椅子に座り、どこか納得いかない顔で再発行されたベージュのカードを指でくるくると回しながらため息を吐くアプロ、それもそのはずで、今回の件は大活躍したとグレイシーから報告されたのだが。
「カードを持ってないのに、冒険者として活動した事がだいぶ響いちゃいましたね……」
同情するように、隣の席に座っていたミスティアが声をかけた。
「本当だよ、まあ壁の修理代は少しまけてくれたのは助かるけどな」
「落ち込んじゃ、ダメ、アプロ」
「ああ……ありがとう、サーシャ」
夜のギルドでは冒険者たちが今日あった出来事や、明日はどこのダンジョンを冒険するかなど、酒やジュースを交えながら、各々が楽しく話す中、アプロ達のテーブルはどこか辛気くさく、その落ち込んだ空気を晴らすかのように笑顔で接客するフラム。
「アプロの兄貴達ーっ、注文はどうされるんスか?」
ミスティアも腕を振ってアプロに元気を出そうとする。
「ほらほら、アプロさんも! いつまでも落ち込んでないでご飯食べましょうよ!」
そうだな、と言ってフラムに見せられたメニューを眺めるアプロ達、ミスティアはウキウキとした顔でトマトジュートを待ち、手の平サイズの板に乗せられたグラスいっぱいのジュースを受け取ると、喉音をゴクゴクと鳴らしながら、ミスティアは思い切りグラスをテーブルに叩きつけた。
「ぷはー! おいしいですーっ!」
「ミスティアはよく飲むなあ」
「魔法使うと凄く喉渇いちゃうんですう……。あ! あのサクッとチキンってのもくださいー!」
よく食べるしよく飲むと、感心しながらもアプロはミスティアの腹を指で突くサーシャを見た。
「お腹、膨らま、ない」
「はう、はうっ。食べてる時にダメですよお」
2人の微笑ましいじゃれ合いを見ながら、自身の料理が届いたアプロはしばらく言葉を発せずもぐもぐと口に運ぶ、ふとサーシャの方を見ると兜の着たまま口に運んでいるサーシャを見て、驚いた顔で眺めながらも食事を続けるアプロ。
「あぷ、ろ」
「ん、んん?」
「1つだけ、聞いても、いい……? 先生の、事について」
「先生? ああ、姉御か! 元気にしてると思うぞ?」
「う、うん」
昔の話をしたかったサーシャだったが、2年の間に姉御と呼ばれた人と何があったのか聞くのが怖くなると躊躇って話を切り替える。
「そ、それより。毎日パーティ組むの? 固定パーティにし、ない?」
「「固定パーティ?」」
ミスティアとアプロの2人は首をかしげた、そこへサクッとチキンを持ってきたフラムが、その話をする前に料理皿を置くと、ゴホンと説明口調になる。
「日付変わったら基本パーティ解除されるッスからね、固定パーティとして登録されたメンバーはいつでもパーティの一員となれるんッスよ」
「へえ、じゃあそうするか……。それと、みんなに伝えたい事があるんだ」
「なんれふか?」
ミスティアはすぐに食べ物を頬張り、まるでハムスターのようにもぐもぐ頬を膨らませながら尋ねた、この場にいる全員が、しごく普通の話をすると思い込んでいたのだが、アプロは全員が驚くほどの言葉を言い始める。
「このパーティは、しばらく冒険も、ダンジョンにも行かない」
「「え、ええーーっ!?」」
……突然の一言に、全員が驚きの声をあげた。
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