第21話
◇ ◇ ◇
「うっ……ここは?」
ヘランダにボソボソと声をかけられ、目を覚ましたルーヴェルは自身がしばらく気絶していた事に気付くと、大の字になって倒れていた団長に一驚する。
「私が治療したの、それよりここを出るわよ」
状況はまずい事になっていた、ギルドの者達がこのダンジョンへ入り込み、自身のパーティメンバーに事情聴取をしているのを見て、大体何が起きているのか理解したルーヴェルはヘランダに返答した。
「出るって……どうやって脱出するンだよ?」
「……この状態でも魔法は詠唱出来る、私が氷の魔法で四方の壁を作り、その中に転移魔法を発現させるから、そのスキにアンタと私で逃げるのよ」
「捕まった仲間達はどうすンだよ?」
「そんなの出た後で助ける方法を考えればいいでしょ、まずは自分の身が優先よ」
「……」
少し間が空き、ルーヴェルは渋った表情で返事をする。
「わかった、それでいこう」
覚悟を決めたルーヴェルは筋肉の力のみで縛られていた縄を引きちぎると、落ちていた自身の大剣を担いでまずヘランダの縄を解いた、そのままボロボロの身体にムチを打ち、ギルドの者達へ向かって突進する。
「うおおおおおおお!!」
「な、なんだ!?」
2人のコンビネーションは完璧だった、ヘランダは詠唱を始め地面に魔方陣を発生させると、四方向に壁を展開させる、あとはルーヴェルがその中に入り2人でこの場から転移するだけだったが……。
「させるかよッ!!」
「な、なにしてんのよ!?」
「うるせェ! 俺は仲間を見捨てられねェ!!」
「ば、バカ!! 早くしないと転移が始ま――」
ルーヴェルはそもそも仲間を見捨てる予定はなかった、それならばヘランダだけでも逃がしたいと、ブンッと大剣を振り回して近くに誰も寄ってこないよう牽制を繰り返す、そうこうしている間に詠唱は終わり、徐々に溶けていく壁から見えるヘランダに。
「おいクソ女……お前と過ごした日々、悪くはなかったぜ」
一言ルーヴェルは別れのセリフを吐いた、それを聞いたヘランダは驚いた顔をして、その場から完全に消えてしまう。
「か、確保ッス!!」
フラムの一言がダンジョン内に響き、武装したギルドの者達は再度ルーヴェルを地面に押しつけ、動けないよう縄をぐるぐると縛った。
目的を果たしたのに満足したのか、ルーヴェルは一切の抵抗をせず、受け入れるよう脱力をしていた……。
――
――――。
「んーまあ、これで一件落着なのか?」
円卓の騎士の幹部であるヘランダだけは逃がしてしまったが、ミスティアや周りの者達が無事である事にホッと安心するアプロ。
「アプロさんやりましたねーっ!!」
キスは決して血の味なんかではない、要するにミスティアはもう一度アプロにキスをしたいと願い、何度も唇を重ねたあの光景を頭で繰り返しつつ、頬を赤くして嬉々とした顔で駆け寄った。
が。
「そうだ、おいサーシャ、大丈夫か!?」
ズサーッ!!
バランスを失ったミスティアは顔から転び、ふええと鼻血を出しながらがっくりと肩を落とした。
「あ……ぷろ?」
「大丈夫かサーシャ?」
目を覚ましたサーシャは鎧兜が外れている事に気付き、慌てて近くを探そうとするがグイッと近寄ってくるアプロの視線に目を逸らす事が出来ず、ポッと顔を赤くする、さらに自身の置かれている状況を見ると、頭を支えられている事に気付き、「あっ」「えっ」など言葉を繰り返していた。
「なあサーシャ」
「な、なに……?」
アプロの真剣な眼差しも相まってか、サーシャは小動物が甘えたような声を出す事しか出来ず……。
「前髪切った方が、周りが見えて良いと思うぞ」
「あっ……と」
「兜もない方が――」
アプロの言葉を遮るように立ち上がったミスティアは、少し大きめの声量で声をかける。
「アプロさん私、ギルドの人達の手伝いしてきます!!」
「お、おう、そんな近づいて言わなくても」
「行ってきます!!」
「あ、はい」
パタパタと走り、毒の影響で気分を悪くしていた円卓の騎士団の元へと向かったミスティア、やれやれという顔で寄ってきたフラムは、座り込んでいたアプロとサーシャに問う。
「一応聞きたいんスけど、アプロの兄貴達は被害者でいいんスか?」
「魔王と協力したからまあ……冒険者にとっては加害者になるのか?」
なるほどなるほど、と持っていたメモ帳に記入するフラム。
「……まあ、それでも赤色の冒険者に勝てるのはすげーッスね、その力、誰かに利用されたりする可能性も考慮した方がいいッスよ?」
フラムの言葉に少し目線を上げて考えるアプロ、この力を利用される恐れがある、それについてはずっともやもやした気持ちが纏わり付いていた。
(飲めば誰もがこの力を得られる、こんなの俺の力でもないし、俺への正当な評価でもない)
今回はミスティアに助けられた、他人を助ける事にも使えないだろう力に、今後どう向き合っていくべきなのかと少し頭を悩ましていると、倒れていたテスターは咳払いをして立ち上がった。
「……くそっ」
気付いたフラムはメモしていた手を止め、声をかける。
「あ、起きたッスか、大罪者テスター、街へ戻ったら牢屋に入ってもらうッスよ」
「まっ……待ってくれ! 1つだけ言いたいアプロくん!」
なんだよ、と返事をするアプロ。
「ハッキリ言って君の力を見くびっていたよ、その孤独薬は魔王も凌駕するとんでもない力だ」
「それはどうも」
「そこでだ! やはりキミは私と組むべきだ、その力をもっと生かす方法があると思わないかい?」
「生かす方法って?」
アプロが自覚しているのはパーティが増えれば増えるほど弱体化してしまい、大勢の仲間を守る事は出来ないという事、しかしこの力は誰かに受け渡す事も出来ず、その解決方法は何かと考えてはいたが――。
「待て待て待て! それなら僕も言わせてもらうぞ!!」
「私も言わせてもらうわっ!!」
テスターの提案を妨げるように、魔王メイスとグレイシーはアプロに詰め寄った。
「アプロくん、折り入って頼みがある!!」
「グレイシーさん、いたんだ」
「ああいたさ!! アプロくん、我がドラゴンダンスというパーティに入ってくれないだろうか!? キミがいれば世界的に有名なパーティになる事、間違いなしだよ!!」
「名前がださい」
「グレイシー体術、その門下生達の指導者でもいいんだ! 頼むよ!!」
「顔が近い」
熱弁するグレイシーを手でグイッと押しのけ、今度は私の番と交代したメイスが、アプロを仲間にするよう勧誘を始めた。
「私と一緒に世界を統べましょう! ゴールドの冒険者とも戦えるチャンスだってあるし、退屈はさせないわよ!!」
「悪い、そういうのは興味がわかない」
「なんでよ、魔王が頼んでるのよ!? 普通断らないでしょ!!」
「断る」
「さっさとその力を貸せって言ってるのよ!!」
「そんな事言われて貸すヤツいないだろ」
「もーーっ!! なんでよ!!」
寝転がると、足をドンドンと叩き癇癪を起こしたメイスは叫びながらゴロゴロと地面を左右に転がり駄々をこねた。
(はあ、やっぱりこいつら俺の力しか興味ないのか……)
落胆したアプロはミスティア達をチラリと見た。
「なあミスティア、サーシャ、もし俺が強い力を持ってなくても、パーティを組んでくれるか?」
反射的にコクコクと頷く2人、それ見てアプロはニッコリと微笑み決断をする。
「……それなら、決まりだな」
テスター、そしてグレイシーとメイスはアプロが加わってくれると、嬉しそうに近寄ったが、その顔を再度手で押し退けるアプロ、今後は俺をきちんと見てくれる人にこの力を使う事にしよう、そう思いサーシャをパーティ登録して、アプロは3人でダンジョンを出る事にした。
◇ ◇ ◇
……ヘランダが転移した先は、ダンジョンとかなりかけ離れた場所だった、木々が両方に立ち並ぶ一本道、そこはアプロと戦っていた場所だった。
(なによ、あいつ……)
初めからルーヴェルは仲間を見捨てる気はなかった、自身の安全よりも先に仲間を逃がそうとしたあの行動に、どこか納得がいかないのか親指の爪を噛む。
(そこまでするなら、私1人でも団員達を助けないとただのクズじゃない……)
ザッ、ザッ……と足取りは重く、ヘランダが悩んでいる中、近寄ってきた1人の黒髪の男が声をかけた。
「あのさ、取り込み中に悪いんだけど」
「何よアンタは!」
自身に抱く怒りの矛先をどこにぶつけて良いのかわからず、八つ当たりしてくるヘランダに思わずたじろく男。
「え、ええ?」
「何なのよ!!」
「あ、えっと俺は……孤独薬と封印剣を持っているヤツを探してて……」
気圧される男は困惑しながらも手入れされた口髭を指でこすった、中央から分かれたくしゃくしゃに曲がった黒い髪は、ただならぬ雰囲気を醸し出す、見ると脱力した立ち姿は余計な力を一切入れておらず、まるで森林に流れる1つの静かな川のようだった。
「……は? 知らないわよ!!」
咄嗟に嘘をついたヘランダはドンドンと地面を足で叩き、むしゃくしゃした気持ちを男にぶつけながらも返事をした、それを見て男は「やり辛いなあ」と言った顔でポリポリと頭をかきため息を吐くと、本当に聞きたかった事をヘランダに尋ねた。
「質問を変えるぞ、君は円卓の騎士団員か?」
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