第165話 ロイズさんからの書簡
いつものように領主館の執務室で仕事に励んでいると、配下の一人が執務室内に入室してきた。
「エリオ様、お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。何かあったのかい?」
ふと、入室してきた配下の姿を見ると、両手で掴んだトレイに載せられた書簡のようなものが見える。どこからか正式な書簡でも来たのかな?
「はい、エリオ様宛のサゴイの街のロイズ様よりの書簡をお持ち致しました。こちらがそうです」
トレイの上に載せられていた書簡はサゴイのロイズさんからのものだったのか。
「ご苦労さま。俺の机の上に置いたら下がっていいよ」
「はっ、失礼致します」
配下が退室した後、机の上に置かれた書簡を手にとってみる。封印もしてあるし、確かにサゴイのロイズさんからの書簡で間違いないようだ。
「エリオ殿、先程の会話が聞こえましたがロイズ殿からの書簡ですか?」
丁度同じ執務室内にいたラモンさんもロイズさんからの書簡が気になるようだ。
「うん、たぶんこの前カレルさんに頼んだサゴイに集積させる物資関連の事だと思う。俺からロイズさんに同盟相手として話を通す為に書簡を送ったからね」
「なるほど、それならばその書簡は例の件ですかな?」
とりあえず、書簡の内容を推測してるよりは読んだ方が早いか。そう思った俺はナイフを机の引き出しから出し、蝋でされた封印を切って書簡の封書の封を開けて何枚か入っていた便箋を取り出した。
その場で便箋の一枚目を読んでみると、予想通り時節柄の挨拶とザイード家を滅ぼしてクライス地方を支配下に置いた俺への惜しみない賛辞が書かれていた。
『親愛なるエリオット・ガウディ君。この度のザイード家との戦いの勝利とクライス地方平定おめでとう。私としてもこのザイード家に対する勝利は我が事のように嬉しい』などなど、ロイズさんからの祝福の内容だった。
そして二枚目の便箋を読み始めると、そこにはロイズさんがコウトの街へ寄った後にこのグラベンの街を訪れて俺に会いたいとの要望が書かれていた。ふむふむ…俺に直接お祝いの言葉をかけたいのだろうか。
「ラモンさん、ロイズさんからの書簡の内容は戦勝の祝辞とロイズさん自らグラベンの俺の元へ訪問したいとの要望だ。先にコウトの街へ寄ってその後にこちらへ来るらしい。訪問人数が大勢になるかもしれないので申し訳ないが宜しくお願いしますと書いてある。訪問予定日は一週間後のようだ」
「そうですか。それなら迎え入れる準備をしないといけませんな。遠征中に改築した迎賓館にお招きしましょう」
「そうだね。改築された迎賓館なら大勢の人でも宿泊滞在出来るだけの規模があるし部屋数も多いからね。おもてなしの為に美味しい料理も準備させておいた方がいいね」
◇◇◇
そして一週間後。
俺がいつものように執務室で仕事をしていると、配下の者が執務室に来て俺はその配下からの報告を受けた。
「エリオ様。サゴイの街のロイズ様より先触れの使者が到着しました。先触れの使者が申すにはロイズ様御一行は今日の午後にこちらへご到着の予定との事です」
「わかった、報告ご苦労さま。その先触れの使者に休む場所を用意するように。それと執務控室に呼んでくれ。俺自ら労いの言葉をかけておこう」
俺はそう配下に指示すると、暫くしてロイズさんからの先触れの使者が俺の執務室の控室に来たので労いの言葉をかけてあげた。
「先触れの役目ご苦労だった。簡単な軽食を用意するから用意された部屋で休んでいてくれ」
「エリオ様、私のような者に温かい言葉とご配慮誠にありがとうございます。それとロイズ様より簡単なご伝言があります。今回の訪問ではエリオ様を良い意味で驚かすつもりなので期待していてくれとの事です」
良い意味で驚かすつもりか…何か俺にプレゼントでも渡すつもりなのかな。ロイズさんの事だから奇想天外な物を持ってきそうだ。あの人は茶目っ気もありそうだしな。
「承知した。期待して待つとしよう」
俺に言葉を受けて先触れの使者は丁寧な敬礼をした後、俺の配下に案内されて執務控室を出ていった。執務室に戻ると様子を伺っていたラモンさんと秘書を兼ねた護衛役のルネが、俺の方へ顔を向けて先触れの使者とのやり取りを聞かせてくれというような雰囲気を出していた。はいはい、報告しますよ。
「ラモンさん、ルネ。ロイズさん一行は今日の午後にここグラベンに到着するらしいってさ。それと俺宛に伝言があって何か驚かす趣向を用意してるらしい。たぶん俺の予想では手に入りにくい珍しい贈り物だと思うけどね」
「そうですか。ならば私も午後の到着に向けてロイズ殿御一行の迎え入れ準備の再確認が必要かもしれませんな。正式な訪問なので失礼があったら困りますからな」
「エリオ様。私の方でも警備の再確認が必要になりますね。後でもう一度この領主館と迎賓館の周囲を念入りに再点検してみます」
「そうだね、二人共頼むよ。俺も午後までに書類仕事を片付けておくから」
そして俺を含めた皆がそれぞれの仕事を片付けながら午後を迎えた。俺自身もすぐに決済しないといけない重要な書類仕事を片付けて肩の荷が下りたところだ。俺の横で控えていたコルとマナも俺の仕事が終わったのを認識して欠伸をしながら起き上がってきた。感覚的にロイズさん達が到着しても良さそうな頃合いの時刻だな。
『コル、マナ。そろそろロイズさん達が到着するだろうから俺達も準備をしないとな』
『はい、久しぶりにロイズさんに会えるので楽しみです』
『私も楽しみです』
そうして身だしなみのチェックなどをしていると配下が俺を呼びに来た。
「エリオ様、ロイズ様御一行が到着致しました」
「わかった。報告ご苦労」
配下からの報告を受け、俺は両脇にコルとマナ、そしてラモンさんやルネを従えて領主館の玄関前に向かった。開け放たれた扉からは玄関前の広場に停められた馬車が見える。だが、明らかに馬車の数が予想よりも多い。
後ろを振り返りラモンさんに聞いてみる。
「やけに馬車の数が多いけど、ロイズさんは人を多く連れて大勢で来たのかな?」
「私もこれだけの大勢で来るとは予想してませんでした。迎賓館とは別に滞在中の宿泊場所の手配をしておきましょう」
「そうだね、ラモンさんよろしく頼むよ」
開け放たれた玄関の扉を抜け表に出ると俺を囲むように待ち構える大勢の人達の姿が見えてきた。歩みを進めながら周りを見渡してみたが、そこにはロイズさんの姿の他に意外な人や見た覚えのない人達の姿があった。
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