第164話 休暇明けの密談
俺はクライスでのゴドール式統治システムを整え、一週間前にゴドールの街グラベンに戻ってきた。子供達に親の自分の顔を忘れられるという事もなく、俺に向かって駆け寄ってくる二人の子供の姿を見て嬉しくて涙が出そうになったのはここだけの話だ。
「じゃあ、仕事をしてくる」
「エリオ頑張ってね。コル、マナ、エリオを頼んだよ」
「エリオさん、休み明けだから無理しないでね」
そして俺はグラベンに帰ってきてから少しの間休暇を取り、今日が休み明けの仕事復帰の日だ。早めの朝食を食べ終わりリタとミリアムに送り出される。まあ、仕事先は同じ敷地内のすぐそこなんですけどね。
『主様、少し痩せましたよね?』
『エリオ様は休暇中ずっと家族サービスをしてましたからね』
グラベンに帰還してから休暇を取ったのだが、休み中だからといってのんびりしてた訳ではなく、長い間の留守期間を埋めるべく休暇中は家族サービスをしてたのだ。
その中には当然のごとく、夜に二人の妻たちに衣服を剥ぎ取られ精力を搾り取られるという嬉しさとそれ以上の厳しさが同居する行為もあったしな。
それに父親として、二人の子供のレオとエマの相手をしながら俺という父親の存在感を再認識させていたのだ。仕事としての領内の統治も大事だが、家族も同じように俺にとっては大事な存在だからね。自分の家族を大事に出来てこそ、家族を持つ住民達への言葉も真実味が出てくるのだよ。
しかし、仕事に向かいながら思うのだが、俺もいつの間にかゴドール、エルン、クライスという三つの地域を治める大領主となってしまった。それぞれの地域には特色があり、金の生産を筆頭に穀物や加工品の原材料など、生活していく上で必要な物や資金源になる物は豊富な生産量と埋蔵量のおかげで地域全体の需要を満たし潤しているのだ。
サゴイのロイズさんとの縁と後押しでゴドールの領主になった時は、引き継いだ多額の借金と痩せた土地に明るい未来を見いだせず、途方に暮れていた時期もあったが今ではそれが遠い過去のように思える。
北のエルン地方での青巾賊の跳梁跋扈による領主滅亡、そしてその原因となった青巾賊を討伐。結果的にエルン地方を治める事になる。その後、ゴドールの金山を我が物にしようと難癖をつけてきた挙げ句にゴドールに戦争を仕掛けてきたクライス地方のザイード家への逆侵攻と討伐。結果的にクライス地方全領平定。歯車が上手く噛み合わさるとトントン拍子に上手くいくものだな。
さて、執務室に到着するとラモンさんが既に来ていて仕事をしていた。ラモンさんは俺よりも二日早く仕事に復帰して執行長官としての役割をこなしていたのだ。それを聞いて俺も一緒に公務に復帰しようとしたら「エリオ殿は普段なかなか出来ない家族サービスをした方がいいですよ」と言われてお言葉に甘えさせてもらったのだ。
「ラモンさんおはよう」
「エリオ殿、おはようございます。久しぶりの公務復帰の感想はどうですか?」
「うん、久しぶりのまとまった休暇だったからね。元に戻るまで気持ちの切り替えが必要かな」
「エリオ殿はクライス地方の統治準備で働きずくめでしたからな。たまには纏まった休暇を取ってもらわないと配下としても義父としてもエリオ殿の体が心配になります」
「いやいや、そういうラモンさんこそ俺以上に働いてるじゃないですか。俺の方がラモンさんの体の心配をしますよ」
「確かにそうですが、肩に掛かる重圧と責任の重さはエリオ殿の方が断然重いですからな。私も執行長官として大きな権限を持っていますが、その役割の成否でさえも最終的には任命権者で一番上に立つエリオ殿の責任になるのですから重みが違います」
「うん、言われれみればそうかもしれないけどラモンさんの大変さは俺もよく知ってるからそんなに変わらないと思うけどなぁ」
俺の場合は統治統率者という称号があるので、大きな目標を定めればそれに対して色々な知恵や考えが浮かんでくるんだよな。だから責任の重さは感じているが、自分も領地も成長していく喜びもあるのでそこまで俺は苦には感じていないんだよね。ほら、仕事に対する達成感ってやつなんだと思う。
「エリオ殿、でも私も例の称号があるので意外と思われるかもしれませんがそんなに大変だとは思っておりませんぞ。それに成果が出てる時は心身ともに充実していますからな」
ハハ、ラモンさんは仕事の虫っぽいからな。
そんなこんなで帰還後の仕事の再開を開始した俺。休暇明けの気の緩みも目の前の書類の山を目にしていっぺんに吹き飛びスイッチが入った俺は猛然とその処理を始めた。
「この書類は決済が終わったから担当の者に伝えてくれ」
束ねられたたくさんの書類を片付けながら執務室内に居る配下に指示を出す。ラモンさんが保留にして俺に回されていた大きな予算が必要な重要案件に次々と目を通し、問題がないと認めた俺は決済を完了して仕事を進めていく。
勢力が大きくなって財政状況も予想以上の余力が出てきたので、思い切った投資をしてさらなる飛躍を目指すのだ。フフフ、攻めの姿勢ってやつだな。
そんな事を考えていたら執務室に厳つい顔の男が入ってきた。
「エリオの兄さん、お邪魔しますよ。俺に話ってなんですか?」
「ようこそカレルさん。とりあえずそこに座ってよ」
カレルさんとはグラベンの街に帰還した時に会っているから一週間ぶりだな。あの時は大勢の人達が俺に祝賀の言葉をかけてくれたのでそんなに長い時間話せなかったんだ。今日はちっとした密談をする為に来てもらったって訳さ。
「この前は帰還したばかりで落ち着いて話せなかったが、遠征中の物資の手配はとても助かったよ。改めてお礼を言わせてもらう、カレルさんありがとう」
「何を水臭い。俺とエリオの兄さんの仲じゃないですか。兄さんの為に働くのは俺にとって当然の事ですぜ」
「ハハ、ありがとう。それで早速本題なんだけど、南にあるカテリア地方についてカレルさんが知っている事を俺に教えてくれないか?」
「カテリア地方ですか。俺達が仕事の場としているガリン河を更に下っていくと河口に到達して海に出るんです。その海を西に向かった先にある港街がカテリア地方の領都のセロナなのは兄さんもご存知ですよね?」
「ああ、港街セロナに行った事はないが知識としては知っている。ところでカレルさんはセロナの港街と交易はあるのかい?」
「これといった交易はしていないですね。俺達はガリン河やナイラ河などの河の船運が主体で海には出てません。セロナの港街も主に海運が主体なので縄張りの領分が違いますからこちらにも来ません。但し、セロナの港街とサゴイの街の間には街道が通っているので陸上の交易はそこそこしておりますぜ」
「仮の話として海から誰かがガリン河の河口から遡って攻めて来たら防げるか?」
「誰かが攻めて来る…ああ、なるほど。そういう意味の話ですか。フフフ、勿論大丈夫ですぜ。防ぐどころか撃退してみせますよ!」
「さすがカレルさん、頼もしいな。あと、ロイズさんにも話を通しておくけど、サゴイに物資の備蓄をしておきたいのでそれらも頼むよ。後で詳しい内容を伝えるからさ」
「ええ、船乗りだけに大船に乗ったつもりで俺に任せて下さいエリオの兄さん」
よし、休暇明けの仕事始めの最初で重要な案件が片付きそうだ。信頼出来る弟分のカレルさんに頼めば大丈夫だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます