第166話 訪問団到着

「皆さん、グラベンの街へようこそ」


 グラベンの領主館に到着したロイズさん一行をぐるりと見渡しながら俺は歓迎の言葉を発した。コウトの街のレイモンさんやタインさん、俺の後釜で部隊長になったエドモンさんなど見慣れた顔の他にも初めて見る初対面の人達の姿も見える。体がゴツくて厳つい顔つきの人が何となく気になるが後で誰だかわかるだろう。随行する人も含めると大所帯の訪問団だな。


 すると訪問団を代表する形でまずロイズさんが俺の方へ近づいてきた。満面の笑顔を見せながら俺と両手で固い握手を結ぶ。俺の手を握るその手は力強く俺も恩人とも言えるロイズさんに久しぶりに会えた喜びに自然と笑顔が出てくる。


「エリオット殿。まずはザイード家との戦いの完全勝利おめでとう。書簡では何度も祝意を伝えたが、一刻も早くこうして直に会って儂の気持ちを伝えたかったのだよ」


 ちなみにだが、ロイズさんはいつごろからか俺をエリオット殿と呼ぶようになった。ロイズさんが言うには俺はロイズさんにとって主筋の家の継承者なのだから必要なのだそうだ。俺としては恩人のロイズさんには気安くエリオット君と呼ばれたいのだが、様付けで呼ばれるよりはマシだろうと無理やり納得している。


「ありがとうございますロイズさん。攻め込んできたザイード家の軍を返り討ちにしてその勢いでクライス地方を手に入れる事が出来ました。攻められた時の対処をいくつか考えていたのですが、自分でもこんなにすんなりいくとは思っていませんでした」


「それはエリオット殿の統治者や指導者としての特別な資質とカリスマに加え、極めて優秀な配下達が周りから支えてくれるからだろう」


「自分への評価は過大に過ぎると思いますが、周りに優秀な配下達がいるのはその通りだと感じています。俺一人の力では限界がありますからね。それに留守を守る妻は勿論ですが、俺の大事な相棒のコルとマナも俺をしっかり支えてくれています」


「フフフ、相変わらず驕らずに周りがしっかりと見えているようで安心だ。ところで、これ以上話し込んで他の人達のエリオット殿への挨拶を邪魔しては申し訳ないので一歩下がろう」


 俺とロイズさんの挨拶が終わり、次に俺の前へと進んできたのは初対面の人だ。歳はロイズさんと同じくらい、背が高く品の良さそうな雰囲気を醸し出している。さて、どんな人なのかな?


「エリオット・ガウディ殿、お初にお目にかかります。私はここから東に位置する旧キルト王国を構成していたモネコ地方の領主を務めておりますトガイ・ダシンと申します。後で詳しくお話させて頂きますが、エリオット殿には私から大事な用件がありましてロイズ殿の御一行に同行させてもらった次第です」


「そうですか。トガイ殿、遠路はるばるようこそグラベンへとお出で頂きました。歓迎いたします。大事な用件とは気になりますが後で会談の場で詳しくお聞きしましょう。滞在中はこのグラベンの街でごゆるりとお過ごしください」


「ありがとうございます。あなたに会ってその姿を見て確信しました。それでは後ほどまたお会い出来るのをお待ちしております」


 なんと、初対面の人はモネコ地方の領主だったのか。そういえばモネコ地方って俺がコウトに来る前にリタ達と初めて出会って青巾賊を退治した街があった地方だよな。そこの領主が俺に大事な用件って何だろうか……もしかして俺と仲良くなりたいのかな。そういうのなら大歓迎だ。


 そして次の人達はコウトの街の人達だ。


「レイモンさん、タインさん、エドモンさんグラベンへようこそ」


 俺が歓迎の意を表すと、コウト組を代表してレイモンさんが口を開いた。


「エリオ殿。ザイード家との戦いの勝利並びにクライス地方獲得おめでとう。コウトの街の部隊長からゴドール地方の領主に栄転したと思ったら、あれよあれよと言う間に三つの地方を束ねる統治者になるなんてこの先の未来を期待せずにはいられない。今回は私も重要な用件があってゴドールへ伺った次第だ。後で話す事になるが今から会談の場が楽しみで仕方ないよ」


「お祝いの言葉ありがとうございます。レイモンさんから未来を期待されるなんて光栄です。ところでレイモンさんも重要な用件があるのですか。気になりますね」


「心配いらないよ。エリオ殿にとって良い話だからね。楽しみにして待っていてくれ」


 そう俺に言うと、レイモンさんは下がって後ろに控えていたタインさん達が前へと出てきた。


「エリオ殿、クライス地方獲得おめでとう」

「エリオ殿、おめでとうございます」

「お久しぶりですエリオ殿。おめでとうございます」


「ありがとう。皆さんと会うのも久しぶりですね」


「エリオ殿の留まるところの知らない大活躍はコウトの街で同僚だった私達も自分のことのように嬉しい気持ちでいっぱいだ。コウトでは同じ部隊長の立場だったが、元同僚としてもエリオ殿の活躍は自慢になりますよ」


「そんな事ないですよ。今の俺があるのは一緒にコウトの街の防衛の為に青巾賊と戦ったあなた達のおかげでもあるのですからね。それと優秀な配下達に恵まれたのも大きいです」


「流石エリオ殿だ。多くの土地を治める統治者になっても謙虚さが失われていない。これから我々が主と仰ぐに相応しい人物だ」


 主と仰ぐとはどういう事だろう?

 言い間違えなのか、何だかタインさんの言葉の意図がよくわからないな。


 そしてタインさん達と挨拶を交わした後、徐ろに俺の方へズカズカと歩いてくる人影が目に入った。ふとそちらに顔を向けると、その人影は見た目が気になっていた体がゴツくて厳つい顔つきの人だった。その人は俺に近づくなり気さくな感じで話しかけてきた。


「やあ、あんたがエリオット・ガウディさんだな。俺の名前はギダン・ガルニエ。ロイズ・ガルニエは俺の親父だ。あんたに会えて嬉しいぜ」


 なんと、気になっていたゴツくて厳つい顔つきの人はロイズさんの息子さんなのか。確かによく見ると目元など似てる部分がある。でも、外見や雰囲気が知的な印象のロイズさんとは違い、どちらかと言うと俺に腐れ縁のように何かに導かれて寄ってくる脳筋……じゃなくて豪傑系の人物にしか見えないんだが。


「どうも初めまして。俺がエリオット・ガウディです。ロイズさんには一言では表せないような恩を受けましたからその息子さんであるギダンさんも大歓迎です。ようこそグラベンへ」


「エリオット殿ありがとう。それと、もし良かったら後で手合わせが出来たら嬉しく思う。ほら、漢と漢が心を開いて仲良くなるにはそれが一番簡単で早いと思うだろう?」


 いつものお決まりの展開になりそうだが、こういうタイプの人と解り合うにはそれが一番手っ取り早いのも確かだ。


「わかりました。後ほど手合わせをしましょう。俺の装備の準備が出来たら迎賓館に呼びに行かせます。場所はこの領主館の庭でよろしいですか?」


「そうこなくっちゃ! あんたが俺の一生を賭けるに相応しい人物であろう事を期待してるぜ。俺も迎賓館に到着したらすぐに装備を整えるよ」


 そして他の人への挨拶も滞りなく終わり、ロイズさん一行の出迎えが一段落した。訪問団はこのまま配下の案内で領主館横の迎賓館へと向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る