第155話 マルドの街で最初の会議
ザイード家の本拠地であったマルドの街を支配下に治め、俺はこのクライス地方を丸々と手に入れる事が出来た。永久奴隷落ち以外のザイード家一族の男とその仲間達は自ら命を絶ってくれたので、今のところは問題なくこのクライス地方の統治が出来るだろう。
そして今、クライス地方に攻め込んだ主だったメンバーがこのマルド城内にある公館の部屋に集まって最初の会議を開いているところだ。
「ラモンさん、軍と同行している内政官達と一緒に調査した結果はどうだった?」
俺がラモンさんと内政官達に調査を頼んだのはザイード家の資産とこのクライス地方の経済事情と財政事情だ。この世の中、世知辛いようだが何だかんだで先立つ物はお金なので、俺達の支配下になった後で真っ先にこの地域の懐具合を把握するのはどうしても必要なんだ。嫌な言い方だが、お金や資産はないよりはあった方が絶対に良いに決まっている。
ロイズさんの後ろ盾を得てゴドール地方の統治を始めた時も、当面の悩み事がお金の問題だったからな。今でこそ打ち明けるが、表向きには平静な自分を見せていたが、コルとマナと一緒にゴドール金山を発見するまでは借金を抱えて希望の光がなかなか見えなかったのだ。会議でラモンさん達と地道に借金を返していこうと計画を立てながら話し合っていたのを思い出すよ。
「エリオ殿。暫定的ですが内政官が調べた結果を申し上げていきます」
「うん、ラモンさん頼むよ」
「まず手始めにマルドの城の中に蓄えられていたザイード家の隠し資産や財産を接収いたしました。大量の金銀に加えて宝石や芸術品などがあり、目利きが出来る内政官に簡易的にそれらの価値を見積もらせましたが、その全てを合わせるとエルン地方で例えると年間予算くらいの額になるのではないかと」
「兄者よ、想像以上にもの凄い額ですな」
「そう聞いてもおいらには額がデカすぎてなんだかピンとこないぜ」
「ザイード家は随分と溜め込んでいたっすね」
「元の主とはいえ、そんなに隠れて蓄財していたとは驚きです」
俺の配下達もその大きな額に驚いている。元ザイード家の配下だったブンツもさすがにそこまでは知らなかったとみえるな。苦虫を噛み潰したような顔をしてるので元の主に対して何か思うところがあるのだろう。その横にいるガンロやコラウムも同じく苦々しい顔つきになっている。
「それは凄い額だ。ゴドールにも金銀などの資産が蓄えられているが、それは個人の資産ではなくて積立金という名目の公金として蓄えているからな。とにかく、その資産の使い道は追々考えよう。ゴドールやエルンでやったのと同じようにクライス地方の街や街道の整備、治水利水対策、農工業や人材への投資などに回していくのが良いと思う。投資をしながらこのクライス地方全体に還元していくのがいいだろう」
「わかりました。後で内政官達に各方面への予算の配分を見積もらせましょう」
「ああ、今回クライス地方が戦場となったことで、この地方の住民達には一時手当金という形で施しを行うつもりだが、基本的には働いてもらってその対価として俺達が投資したお金を給金という形で受け取ってもらいたい。我々がこのクライス地方へ大量の投資をする事によって、それを住民達が労働の対価として受け取り、そのお金を街などで使ってくれればこの地方全体にお金が行き渡って効率よく循環するからね」
「兄者よ、その方法でゴドールもエルンも大発展しましたからな。きっとこのクライス地方も同じように発展するはずです」
カウンさんの言う通り、クライス地方もゴドールやエルンと同じ統治方法を行って発展させるつもりだ。
「ところでラモンさん、クライス地方の主な収入源と産業はどうなっている?」
「エリオ殿、少々お待ちを」
俺に問いかけられたラモンさんは後ろに控えている内政官から資料を手渡されているようだ。
「では報告いたします。クライス地方の収入の半分は南部に複数ある鉱山の収入ですな。鉄鉱石などの鉱石、そして宝石の原石などが産出されます。これがこの地方の生命線であり、南部の街に戦いに強い将軍を配備していたのもこれが理由です」
ラモンさんの説明を聞き、会議に参加しているブンツ、ガンロ、コラウム達の顔を一瞥すると、申し訳なく恐縮したような態度を見せながら頷いていた。
「なるほど、説明を続けて」
「はい、残りの五割ですが三割は穀物やそれを使った加工品の輸出による収入。そして最後の二割がその他の諸工業の収入になっておるようです。そして見つかった隠し資産は宝石絡みではないかと」
なるほど、宝石の価値は俺もよくわからないが、希少なものには大変な価値があると聞く。良い物だけを厳選してザイード家が密かに個人資産を蓄える目的で表に出さずに売り捌いていたのかもしれないな。
「それでクライス地方の収支状況はどんな感じなのかな?」
「そうですな。幸いな事に鉱山の収入が比較的安定していたので赤字にはなっておりません。欲を出して我らのゴドール金山を狙わなければ普通にやっていけたと思われます」
人間の欲には限度がないとよく言われるが、ザイード家の行動を見るとまさにその言葉通りだ。テスカリ家のアンデル・テスカリという若者を手に入れたばかりに欲をかいてゴドールに攻め込んできたのだが、それが元でクライス地方のザイード家を滅ぼすような大失敗に終わったという訳だな。
けれども俺自身が目指す目標。この乱世にご先祖様が築いた栄光を出来るだけ取り戻したいというのもある意味で大きな欲と言えるかもな。なので聖人君子を気取って他人の欲望を頭から否定などするつもりはない。ただ、お互いの欲同士がぶつかれば勝てば生き残れるし負ければ最悪の場合滅んでしまうだけだ。しかし、他人にはどう見えるかわからないが、俺の場合は住民達にもその恩恵を大いに享受して豊かになってもらいたいと思っている。
「よし、まず手始めに統治を安定させる為に行政組織の掌握。あと、物流の流れを円滑にして商業活動の再開。そしてそれを維持するのに必要なこの地方全体の治安維持をしっかりと行うように。なるべく早急にゴドール流の統治をこの地に浸透させてくれ。皆よろしく頼むぞ!」
「「「応ッ!!!」」」
俺の指示のもと、配下達はそれぞれの役目を果たすために行動を開始した。
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