第154話 ベルマンさんとバルミロさん

 ザイード家の人達の処遇を配下に任せた俺は公館へと戻っていく。ザイード家の女達は記憶を消した後に遥か遠い国の教会などで引き受けてもらうつもりだ。男達は一部の永久奴隷落ちを除いてこの世から消えてしまう結末になるだろう。断絶予定のテスカリ家の家名は後で復活させて誰かに名乗らせるのもありだな。そういえば、エルン地方で滅んでしまった家の家名も誰かに継いでもらおう。


 そして、俺が公館に戻ると懐かしい顔が俺を出迎えてくれていた。


「エリオ殿、お久しぶりですな!」

「フッ、久しぶりだなエリオ。元気にしてたか!」


 公館で俺を出迎えてくれたのはエルン地方から参戦してくれたラッセル将軍とバルミロ将軍だった。二人共にクライス地方北部の戦場を巡ってきた影響で少し日に焼けて精悍さが増している。


「ラッセルさん、バルミロさん! 俺はこの通り元気さ。二人の方こそ元気だったかい?」


「おかげさまで吾輩はこの通り元気いっぱいです!」

「フッ、エリオが人使いが荒くて休む暇もなかったぜ」


「ハハハ、確かに人使いが荒かったかもしれない。でも、それは二人を信頼してるからさ。俺の無茶振りも文句を言いながらたぶんやってくれるだろうと思ってね」


「エリオ。おまえらはカウン達が率いる多くの軍団を使ってクライス地方南部を担当していたが、俺達は俺とラッセルの二つの軍だけで北部平定を担当してたんだぞ。ずっと走り回ってたよ」


「そうですぞ。吾輩とバルミロだけで北部全体を担当させるなんて無茶ぶりもいいところでしたぞ」


「その分、二人のいるエルン地方特産の馬をいっぱい軍に配備して騎馬隊編成でどの軍よりも優遇したじゃないか。同じ騎馬隊を持つカウンさんやゴウシさんも羨ましがってるぞ」


 この二人にはエルン特産の馬をカウンさんやゴウシさんよりも優先的に配備して機動力を高めさせている。俺の方針でそうしたのだが、さすがにカウンさんとゴウシさんからも騎馬隊を強化したいとの要請が強かったので特別措置でそっちにも回したという経緯がある。


「フッ、ところでエリオ。おまえの要請で使えそうな人材がいたら味方に引き込んでくれって言われたので地元の人達に評判を聞きながら何人か有能そうな奴を確保しておいたぞ。後でそっちに送るからよろしく頼む」


「バルミロさん、忘れずにやってくれたんだ。うちは新興勢力なんで人手が必要だからね。少しでも使えそうな人材は将来の為に出来るだけ確保しておきたいんだよ。まあ、配下にするかどうかは俺が直に見て判断するけどね」


「しかし、エリオ殿の躍進と勢いは留まるところを知りませんな。定例会議や定期連絡でザイード家と事を構える可能性が高いと言われてましたが、まさかこれほど圧倒的な勝利を上げるとまでは吾輩でさえも予想してなかったですぞ」


「俺自身も今回は上手くいったと思っているよ。敵が攻め込んできた最初の戦いでどれだけ叩けるかがクライス地方攻略の成否の鍵を握っていたけど、ベルマンさんやジゲル将軍の安定した余裕のある戦いぶりのおかげで敵をしっかり受け止める事が出来た。そのおかげでカウンさんとゴウシさんの左右からの挟撃が見事に嵌って敵は一気に総崩れさ。後はロドリゴやルネの個人の武勇で敵の将軍達を生け捕りにするという特上のおまけ付き。クライス地方北部は君達二人が危なげなく平定してくれたので、自分で言うのも何だがほぼ完璧に近い結果だったと思う」


「フッ、俺は最初から初戦でのエリオ達の勝利を信じていたさ。そもそも守りの堅いベルマンの壁を破るのは難しいし、ジゲルは北方で名を馳せた歴戦の強者だ。それに加えて規格外のエリオとカウンやゴウシ達の豪傑がいるのだから、運悪くちょっとやそっと苦戦したところで負ける訳がない。むしろ、俺とラッセルのエルン組の方が不安要素だったかもしれないな」


 そんな風にバルミロさんが謙遜しながら喋っていると、入り口の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「ガッハッハ、そんな事はないぞバルミロ。聞くところによるとおまえとラッセルの軍は疾風のようにクライス北部を駆け巡って危なげなく平定してきたそうじゃないか。おまえらという優れた切り札が俺達にあったからこそ、俺達には精神的に常に余裕が生まれてそのおかげで安心して戦えていたんだよ」


 聞き慣れた声の正体はベルマンさんだ。隣の部屋で報告書を書いていたはずだが、俺と話すバルミロさんとラッセルさんの声が聞こえたのか我慢出来ずにこちらに顔を出してきたようだ。


「ハハ、確かにベルマンさんの言う通りだ。初戦で完勝した後でクライス地方を平定していくのに、エルン地方から南下してくるエルン地方軍の存在は俺達の心に大きな余裕を与えてくれた。そして、このマルドの街を包囲するにあたって俺達の軍団だけでなく、いきなり北方から現れたエルン地方軍の存在が街の住民達の決起反乱を最終的に後押ししてくれたと俺は思っている」


 お世辞ではなく、エルン地方軍がクライス北部を平定してマルドの街に姿を現した事で、ザイード家の運命は決まったも同然だったのだ。なんせどこにも逃げ道がなくなってしまったのだからな。後はマルドの住民達にザイード家よりも俺達に付いた方が利点があると説いて決起してもらえば、俺達が何もせずともこの街が手に入るという計画だったが本当に上手くいったものだ。


「フッ、久しぶりだなベルマン。おまえの活躍は聞いているぞ。攻めに関しては俺の方が上だが、おまえの指揮する兵達の守りの堅さは俺でさえ認めるところだからな」


「ガッハッハ、俺がその気になれば攻めでもバルミロを上回れると思うぞ」


「フッ、そんな大口を叩くのなら一度やってみるか? 簡単に捻り潰してやるぞ」


「ガッハッハ、望むところだ! 俺とおまえの力の違いってやつをみせてやるよ」


 全く、二人とも仲が良いのか悪いのか……毎回会うたびに何やかんやで意地の張り合いをしている。どこかの地方の言い習わしで、喧嘩するほど仲が良いという言葉を聞いた事があるが、この二人がまさにそうなのかもしれないな。


「二人ともいい加減にしないか。せっかく久しぶりに会ったのに喧嘩腰にならなくてもいいだろ?」


「フッ、確かにエリオの言う通りだ。悪かった」

「俺も言い過ぎた。すまなかった」


 俺の視線の片隅で部屋の奥で二匹の従魔と戯れてモフ分補給をしていたロドリゴとルネも、こちらを振り返り呆れた顔で両手を上げながらやれやれというポーズをしていた。はあ、悪いけど俺もロドリゴやルネと同じ気持ちだよ。

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