第147話 クレの街が俺達の勢力下に
「どうした? ボケっとしてないで地面に転がっているおまえの武器を拾ったらどうだ?」
「嘘だ、偶然に違いない! 俺がいとも簡単に自分の武器を叩き落されるなんてあり得ないぞ」
コラウムは目の前にある大槍を拾い上げ再び俺と対峙して手に持った大槍を構える。それを見た俺はコラウムに向けて挑発の言葉を放つ。
「そう思うならさっきと同じように全力でその大槍を俺に向かって突いてこい。俺は逃げも隠れもせずにここで待ち構えてやるぞ!」
「クソっ! 舐めやがって!」
コラウムはそう言い放つと、先程と同じように俺に向かって全力で大槍の突きを入れてきた。しかし、再度俺はその大槍の穂先を柄の真芯の部分でその力を吸収しながら受けとめて弾き返し、電光石火の早業で真上から俺の暗黒破天をコラウムの持つ大槍に叩きつける。
まるでさっきのシーンを再現するがごとく地面に転がる大槍。大槍を叩き落されて武器を失ったコラウムに向けて、俺は暗黒破天を突きつけて言い放つ。いつでも棒立ちになっているコラウムを突き殺せる体勢だ。
「どうだ! これでも納得せずにまだやるつもりか!」
「ま、待て。参った。俺の負けだ」
武力自慢をするだけあって対戦相手の俺の武術の力量を判断したのか、俺との実力差がとんでもなくあるのを悟ったコラウムは自らの負けを素直に認めたようだ。
「負けを認めるんだな?」
「うむ、負けた負けた。完敗だ。俺の会心の突きをその武器の柄で正確無比に軽く受け止めながら突きの力を吸収して、そのゴツくて重そうな黒い長柄武器を軽々と扱いながら俺の大槍を神速の返し技で叩き落とす技術。まさに神業とも言うべき素晴らしさだった。こんな強さの人間は今まで見た事がない。負けた事よりも感嘆尊敬の気持ちの方が大きい」
「お世辞だとしても、そんなに褒められると思わなかったぞ。ところで約束は覚えているだろうな。俺がおまえに勝ったら無条件で俺の配下になるという約束だ。今更知らぬとすっとぼけるような男なんていらないから、そうならばこの場でおまえを殺すぞ」
「覚えている。いや、言葉遣いも改めます。はい、覚えています。俺は今からあなたの忠実な配下となりましょう。コラウム・ブランはエリオット・ガウディ様に生涯忠誠を誓います。それと、今までの無礼な態度もどうか許してください」
何だかんだでお約束のような男同士の戦いになってしまったが、無事にコラウムを俺の配下にする事が出来た。双方で誰も犠牲は出なかったし、クレの街も被害が出なかった。想定される中で出した最高の結果ではないだろうか。
「やっぱり義兄さんは強いっすね。僕は義兄さんに全然勝てる気がしないっすよ」
「さすがエリオ様です。常人を寄せ付けない圧倒的な強さに私の胸は今でもドキドキしています」
コラウムとの試合というか戦いが終わって、後ろの方で観戦していたロドリゴやルネ達が俺のそばに近づいてきた。
「兄者の強さは桁違いで化け物ですからな。世の中の腕自慢達が例外なく兄者の強さを目の当たりにしてその化け物のような強さに鼻っ柱をへし折られる。コラウムとやら、兄者が本気になって戦っていたら今頃お主の首と胴体は化け物の兄者によって離れ離れになっておったであろう。手加減してくれた兄者に感謝するのだな。しかし、以前にもまして兄者の強さが上がってるような気がそれがしにはしますぞ」
カウンさん、確かにその通りだけど何度も化け物と言うのは言い過ぎだと思うぞ。強さが上がってるのはその通り。武王の称号が効いてるからね。てか、ロドリゴもルネも周りの連中も何で化け物指摘に普通に頷いてるんだよ?
『わーい。主様は化け物だ!』
『エリオ様が例え化け物でも私の心は変わらずにずっと大好きですわ』
『コラッ! コルもマナも悪ノリは止めなさい』
『『はーい』』
とりあえず、このままいつまでも街の外にいても何なのでコラウムも配下になったしクレの街に入ってみよう。
「よし、それでは俺の配下となったコラウムに早速だが命じるぞ。クレの街を俺達に引き渡せ」
「はっ! 仰せのままに」
「それと、ザイード家から離れて暴発せずにクレの街を戦禍に飛び込ませなかったのは良き判断だった」
「そのような評価を頂き、ありがたき幸せ。これよりエリオ様をクレの街に案内致します。南門開門せよ! 我らの新しい主であるエリオット・ガウディ様がクレの街に入る。直ちに南門開門せよ!」
コラウムの指示を受け、大きな南門がゆっくりと開き始めた。それは一人の犠牲も出すことなくクレの街が俺達の支配下になった瞬間だった。
案内されて俺達の軍はクレの街に入っていった。ウルバンやアルマの街と同様に兵達には略奪や暴行をしないように厳重に通達を出しておいた。せっかく新しい土地や街を手に入れても、ただでさえそれまでお互いに敵として対峙した因縁があるのに、そこに住んでいる住人達に今以上に悪印象を持たれる訳にはいかないからな。
「エリオ様。クレの街の守備兵に武装を解かせます。シルドよ、守備兵に武装を解くように至急伝えよ」
シルドという者は身なりからしてコラウムの副官かな?
まあ、後でわかるだろう。
「これからクレの街に入る。全軍進め!」
「「「応ッ!」」」
クレの街はウルバンやアルマの街とほぼ同規模の大きさだ。さすがに住人達の多くは街中で戦闘があるのではないかと家の中に引き籠もっている者が多く閑散としていた。ウルバンやアルマの街を掌握した時と同じように触れを出しておこう。
「ラモンさん。早速だが触れを出しておいてくれ」
「畏まりました。ウルバンやアルマで出した触れと同じ内容でよろしいですかな?」
「ああ。それで構わない。支配する者が代わっても街中の治安維持はしっかり保証するから今まで通りに生活を続けてくれとな。あと、落ち着いたら例のごとく給付金を住人達に支給しておいてくれ。新しい支配者の俺達に付き従った方が得だと実感させる為には最初が肝心だからな」
「心配いりません。それも既に準備は出来ております」
「さすがラモンさんだ。手抜かりがないなぁ」
「ハッハッハ、それが私の役目ですからな。エリオ殿の手を煩わせないようにするのが私や私の配下達の仕事です。地味な仕事や裏の仕事は我らにお任せください」
「ラモン義父さん、頼りにしてるよ」
「義理の息子のエリオ殿の頼みとあらば頑張らない訳にはいきませんな」
その後、クレの街の公館を接収した俺達は街の守備兵の武装解除を確認した。武器庫も厳重に俺達の管理下に置き、街の治安維持は俺達の軍から守備部隊を編成した。街全体が完全に落ち着いてきたら、それまで守備兵の任務に就いていた者達の忠誠度を確認して問題がなければ再雇用の道も用意している。これはウルバンやアルマの街だけでなく、村や集落においても同様だ。
「これがクレの街の公印です。どうぞお納めください」
コラウムから渡されたのはクレの街の決済に必要な公印だ。他の街や村と同じように正式に前任者から受理した形にしている。
「確かに公印を受け取った。コラウムよ、今までご苦労だった」
これで名実ともにクレの街は正式に俺達の勢力下となったのだった。
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