第148話 北から軍団が姿を現した
勢いというものは一度つくと凄いものだ。
ザイード家がゴドール地方を我が物にしようと軍を起こして侵略してきたのはつい先日の事だ。だが、俺達の軍はザイード軍の侵略を正面から堂々と受け止めて返り討ちにしたばかりか、一気に反転攻勢をかけて今までザイード家が支配していたクライス地方を逆に我が物にしようとしている。
改めて思うけど、数年前までは辺境のダムドの街で鳴かず飛ばずの底辺の境遇だった俺が、今や広大な領地を治める為政者となって更に領土を広げようとしてるのだから、その変わりようは自分の事ながら面白いものだな。
だが、裏を返せば例え底辺でも何かのきっかけや信じられないような幸運が舞い込めば、俺のように成り上がれる可能性があるのを証明した形になる。俺は全ての底辺にそんな素晴らしい幸運が舞い込むなんて考えるようなお人好しのお花畑人間ではないが、ほんの少しでもその可能性があることを俺自身がその実例としてこの先も証明していきたいものだ。
「念の為に追加の金を送るように伝えてくれ。あと、クレの街でも適正な価格で店から品物を買うように徹底周知してくれ。もし我らの軍の中に強い立場を利用して安く売れと強要する者がいれば捕まえて拘束するように」
クレの街の統治を受け継ぎ公館に入って矢継ぎ早に指示を出していく。最初に街の住民達に出来るだけ良い印象を植え付けるかが大きなポイントだ。
過去に存在したどこかの偉人の言葉だが『立派な城や街があってもそこに暮らす人々の力や信頼がなければ何の役にも立たない。人々の力がその土地を支え、人々からの信頼がその土地の守りを強固にしてくれるのだ』という言葉は俺もその通りだと思うからな。
そんな訳で公館内の一室を政務室にして政務を執り行っていた俺だったが、その政務室に配下が慌ただしく飛び込んできた。
「エリオ様に報告があります!」
飛び込んできた配下を見ると不測の事態が起きて焦っているようには見えず、むしろ喜色満面の表情だ。何か良い知らせに違いない。何があったか何となく予想出来るけどな。
「よし、報告を聞こう。何があった?」
「はい、エルン地方から出陣したラッセル将軍とバルミロ将軍の軍団が、接していた領境を越境してクライス地方に進軍。北部を平定しながら南下してマルドの北にあるガゼットの街を掌握した模様です。マルドの街を包囲する日取りが決まり次第、エリオ様に合わせて行動するので事前に我らにも教えて欲しいとの事です」
フフ、ザイード家がゴドールに侵攻して来るのではというのを見越して、かなり前から俺達によるザイード家への反転攻勢の作戦を用意していたのさ。
「報告ご苦労。下がっていいぞ」
「はっ! 失礼します」
俺達のエルン地方軍も順調にクライス地方北部から南進してきたようだ。最初に敵の主力軍がゴドール地方に侵攻してくるのは確実だった。これを完全に撃退出来れば相手の戦力は激減する。ゴドール地方から反転攻勢を仕掛けてクライス地方南部から北に向けて攻め上がりながら、同時にエルン地方からもクライス地方北部に進軍を開始してそこから南進させていたのだ。
「エリオ殿。これでザイード家の本拠地であるマルドの街は我が軍によって遠巻きに囲まれるようになりましたな」
「ああ、後は準備が出来次第マルドの街へと進軍して街を包囲攻略するつもりだ」
「兄者よ。ザイード家の第二軍団を潰しておいたのが効いてますな。街攻めは守る方が有利とはいえ、戦力が一気に落ちたザイード軍に比べて我が軍はほぼ無傷。北からはエルン地方軍のラッセルとバルミロが南進してきて我らの戦力は大幅増ですぞ」
「カウンさんの言う通りだ。エルン地方軍が思ってたよりも早くクライス地方北部を掌握してくれたのは嬉しい誤算だ。あそこはゴドールよりも更に騎馬隊を充実させているから進軍速度も速い」
「それではエリオ殿。エルン地方軍への指示はどうされますか?」
「そうだな。五日後にマルドの街周辺に集結するようにするか。ラモンさん、エルン地方軍に向けて早馬で伝令を差し向けてくれ」
「畏まりました。すぐに手配しましょう」
世の習いとして、強い者や勢いのある者に靡いたりするのは良くある事だ。クライス地方各地の有力者も、落日のごとく落ちていくザイード家よりは今まさに日が昇る勢いの俺達に味方するのが最良の選択なのは誰から見ても明らかだものな。だが、それだけでなくザイード家自体も拍子抜けするほどに脆かったのも大きい。
そう考えると、あれほど栄華を誇っていたと言われる西の大国であるキルト王国が、クーデターであっけなく滅んだのも王室の力が見た目以上に弱体化していたのかもしれないな。
さて、アルマに残っているベルマンさん、そして巡回しているゴウシさんやジゲルにもセロナ包囲攻略に加わるように命令を出しておこう。作戦指令書と各将軍への書簡を作成した俺は配下に渡してすぐに届けるように指示を出した。
「義兄さん、僕もマルドの街攻めに参加出来るんすか?」
「ああ、おまえと近衛軍もマルドの街に向かうけど、おまえは俺と一緒に本陣にいろ。おまえは俺の身内だから立場的に何でもかんでも手柄を持っていくいくのもあれだからな」
「なるほどっすね。身内だけで手柄を独占するのもあれっすからね。義兄さんも最近はあえて最前線に出ないで配下達に任せる機会が多いですもんね」
「ハハ、俺が強いからって何でもかんでも自分でやっちゃえば手っ取り早くて楽かもしれないが、それじゃいつまでも部下や配下が育たないからな。将軍達の下の連中にも経験を積んでもらわないと将来の為にもならない」
「了解っす。僕も人の上に立つようになって色々と考えるようになったっすからね。義兄さんの苦労が少しずつわかるようになってきたっすよ」
「おまえは俺の妻のリタの弟であり俺の義弟だ。いつも頼りにしてるからな」
「はいっす。それじゃそろそろ僕も失礼するっすね」
「おう!」
ロドリゴも最近になって頼りがいのある男になってきた。相変わらず言葉使いはチャラいけどな。
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