第146話 やっぱりこういう展開か
「話がしたい。コラウムにブンツが会いに来たと伝えてくれ!」
クレの街の南門周辺にブンツの大きな声が響き渡る。
掌握したクライス地方南部のアルマの街を出発して、マルドの街の東に位置するクレの街に到着した俺達は、ザイード軍から離脱してクレの街へ戻り中立を宣言した元ザイード軍の将軍のコラウムを懐柔する為に、使者としてブンツがコラウムとの面会交渉役を買って出たのだ。
俺達の軍がクレの街に近づく姿は南門の脇の塀の上にいる衛兵と思われる者が既に確認済みなので、今頃はコラウムにも情報が伝わっている頃だろう。
「あなたは確かにブンツ様。私は以前ザイード軍の観閲式であなたにお目にかかっておりますので存じております」
「そうか、それなら話が早い。私は既にザイード家を見限り、後ろにおられるエリオット・ガウディ様の配下となった。此度はコラウムにも私と同じようにエリオット・ガウディ様の元で働いてみないかと誘いに来たのだ。そういう訳で私とエリオ様はコラウムとの面会を希望している。但し、コラウムが私の主であるエリオット・ガウディ様との面会を断るのなら力攻めでこの街を攻める事になるとも伝えてくれ。間違っても愚かな選択だけはするなよ」
「はっ! 今からその旨をコラウム様に伝えてまいります。暫くお待ちを!」
ブンツと会話のやり取りをした南門の衛兵の姿がその場から消えた。街にいるコラウムにブンツの口上を伝えに行ったのだろう。衛兵が戻って来るまで多少時間がかかりそうなので、コラウムとやらの人柄や性格を今一度確認しておこう。
「ブンツ。コラウムという者はどういう人物なんだ?」
「そうですね。武力は誰もが認める程の強さを持っています。何と言ったらいいのか、はっきり申しますと単純な奴です。会ってみたら納得すると思います」
何だろう。ブンツの説明で俺の頭に浮かんできたのは脳筋という言葉なんだが。いや、さすがにそこまで単純な奴ではないだろう。きっとそうに違いない。
「義兄さん。今、頭の中に脳筋という言葉が浮かんだっすよね? 僕にはわかるっすよ」
くっ! さすがロドリゴ。リタの考えてる事を読めてしまう能力を持つロドリゴだが、俺の考えも読めるようになってきたのか。俺がリタと夫婦になって、ロドリゴとは義兄と義弟という間柄になり絆が深まった影響なのかもな。
「ハハ、おまえには嘘はつけないな。その通りだよ」
「大丈夫っすよ。ゴウシさんやラッセルさんみたいなもんでしょ。こう言っちゃなんだけど義兄さんの得意分野みたいなものじゃないっすか」
「あっ、そうかもな」
言われてみれば、何故か俺はどちらかというとむさ苦しい武闘派タイプに極端に好かれる傾向があるんだった。そう言われてみると気分が楽になったぜ。ロドリゴよありがとう。
ロドリゴとそんな話をしていると、目の前のクレの街の南門の上で何やら動きが見え始めた。もしかしてコラウムという者が来たのかな?
すると、さっき衛兵が立っていた辺りに大柄でガタイが良く、ゴツい装備を身に着けた男が姿を見せた。俺の横にいるブンツに目配せをすると「エリオ殿、あの男がコラウムです」という返事が返ってきた。どうやらあの大柄な男がコラウムで間違いないようだ。そして、コラウムと見られる男は槍を片手に持ちながら大きな声で俺達に向かって話しかけてきた。
「そこにいるのはブンツだな。俺はザイード軍を離れ、中立を宣言して自分の街へ帰ってきた。見たところおまえはゴドール軍に寝返ったようだがこの街を攻めるつもりか?」
「久しぶりだなコラウム。私は今はこちらにおられるエリオット・ガウディ様の配下となった。おまえには私と同じようにエリオット・ガウディ様に仕えるように説得に来たんだ。だがな、返答次第では攻める事になるぞ」
「ふーん、なるほどな。ブンツの隣にいる優男がおまえの新しい主人か。だが、どう見ても俺が仕えるに相応しい強さを持っているようには見えないな。手に持っている巨大な長柄武器も見せかけだけの虚仮威しではないのか? それに脇に従えている従魔と思しき魔獣もそんなに強そうには見えんぞ」
ハハ、このコラウムという者はズケズケとストレートにものを言ってくるタイプのようだ。ある意味素直でわかりやすいタイプとも言えそうだ。横を見るとブンツが少し不安気な顔を俺に向けている。そういえば、まだブンツは俺が戦っている姿を見た事がなかったな。
「おまえがコラウムという者だな。俺がエリオット・ガウディだ。単刀直入に言おう。俺の配下にならないか。土地は与えられないがそれに見合う年俸をやるつもりだ。どうだ?」
「仮に配下として仕えるにしても俺は弱い男には仕えたくはない。見たところ、あんたは俺よりも弱そうでないか」
「あの人、義兄さんの見かけだけで判断してるっすね」
「エリオ様を舐めるとは……貴様、何だその口ぶりは!」
ロドリゴはともかく、ルネは俺が侮られると本気で怒るからな。
「ふん、綺麗な顔をして威勢の良い姉ちゃんだな。そんなに自分の主が好きなのか?」
「わ、私がエリオ様を好きだなんて…!?」
ルネは顔が真っ赤になってるな。
俺が弱いと侮られたのが余程頭にきたようだ。
「なあ、コラウムよ。俺が弱いかどうか確かめる為にも試しに俺と戦ってみないか?」
「この俺があんたと戦うってか?」
「ああ、俺が仕えるに相応しい人物かどうか試してみろ。俺が弱かったらそのままおまえが俺を殺してしまえばいいさ。悪い話ではないだろ?」
「あんた本気なのか? 俺に殺してくれと言ってるようなものだぞ」
「本気も本気さ。俺を殺せるものなら殺していいぞ。だけど、おまえが負けたら素直に無条件で俺の配下になれ。どうだ、俺との勝負を受けてみるか?」
「なんだと! 面白い、受けて立とうじゃないか! 俺に殺されても文句を言うなよ。そっちに行くから待っていろ!」
ハハ、やっぱりこういう展開になったか。でも、これが一番わかりやすいとも言える。この手のタイプの男には理屈じゃないんだよな。
「男と男の勝負だから皆下がっていてくれ」
「「「はい!」」」
『コルとマナも後ろに下がって構わないぞ』
『主様、軽く捻ってやってください』
『エリオ様、さっさと終わらせてくださいね』
南門が少しだけ開いてコラウムが数人の兵と共に外に出てきた。
「コラウムよ、全員でかかってきてもいいぞ」
「ふん、戦うのは俺一人だ。卑怯な真似をされないように後ろで控えさせるだけだ」
コラウムの言う通り、お供の兵士達は南門付近で控えていてこちらに近づいてきたのはコラウム一人だけだ。
「それじゃ早速勝負を始めようか」
「おう、あんた俺に殺されても恨むなよ」
俺は無造作に歩きながらコラウムに近づいていく。俺の歩みが途中で止まるだろうと思っていたコラウムが驚きながら後ろへ飛び退る。
「何だよ。せっかく俺から近づいてやっているのにさ。逃げていては俺を攻撃出来ないぞ」
「クソっ! 無造作に俺に向かって歩いて来やがって。余裕を見せようとするハッタリに違いねえ!」
「ハッタリかどうか攻撃してくればいい。ほら、またおまえに向かって歩いていくぞ」
そう言うと、俺はさっきと同じようにコラウムに向けて無造作に歩いていった。コラウムも今度はさすがに逃げずに俺を迎え撃つようだ。
「フンム!」
そして、お互いの攻撃の間合いに入った瞬間、コラウムは手にしていた大槍を俺の胸目掛けて突き出してきた。その突きは速く正確な攻撃で、普通の者だったら躱せずに胸を貫かれていただろう。
「ガキン!」
だが、俺はその突きを更に正確な動作で暗黒破天の丸い柄の真芯部分で突きの力を殺しながら受け止めすぐに弾き返し、電光石火の返し技で相手の大槍を力任せに上から叩いて地面に叩き落したのだった。
自分の手を離れ地面に叩きつけられた後「カランカラン」と音を立てて転がる大槍を横目に、コラウムはまるで化け物を見るかのような顔で口をあんぐりと開けながら俺を見つめていた。
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