第143話 クライス地方南部掌握へ

 ウルバンの街で少し休息した後、すぐに俺達はアルマの街に向けて出発した。


「エリオ様、クライス地方南部ではもう抵抗らしい抵抗がないですね」


 そう俺に話しかけてきたのは、いつも護衛として俺のすぐ近くにいるルネだ。


「ああ、ザイード軍の主力だった第二軍団が壊滅した今、クライス地方の南部では俺達の敵はもういないようだ。残るは中央北部にいるという第一軍団だが、ブンツ達の情報では俺達の脅威とはならないらしい」


「南部を掌握したら一気にいけそうですね」


「そうだな。俺達にもまだ切り札が残っているし、欲にかられてゴドールを奪おうとしたザイード家にそんなふざけた事をすればどうなるのか存分に思い知らせてやろう」


「フフ、そうですね。思い知らせてやりましょう!」


「ルネもこの戦いでは大活躍だからな。他の者もそうだがザイード家を滅ぼした後は何かしらの褒美を与えないとな」


「それって私から何かをおねだりしてもいいんですか?」


「何か欲しい物でもあるのか? 言っておくけどおまえも知っての通り、うちは年俸制だから土地や領地は与えられないぞ」


「うーん、そうですねぇ。まだ完全に勝利した訳ではないので今は言わないでおきます。気を引き締めないといけないですからね。勝利した後におねだりしてもいいですよね? その時は願いを必ず叶えてくださいよ」


 たぶん、ルネのおねだりは俸給を上げてくれとかそんなところだろう。それに見合うだけの活躍もしているしな。


「ああ、必ず叶えてやるよ」


「ありがとうございます!」


 随分と元気で期待満々の返事だな。まさか俺の命をくれとか言わないだろうな。


 そんな話をしながら行軍をしていると、前方から土煙を上げて馬が疾走してくる姿が目に入ってきた。よく見るとアルマの街に遣わした先触れの使者だな。こちらへ戻ってきたようだ。そして使者の役目を果たした兵士が馬から降りて俺の前に跪く。


「エリオ様、アルマの街への使者の役目を果たしてきました」


「ご苦労。それでアルマの街の返答は?」


「はい、ガンロ殿が降伏してエリオ様の配下になったのを知り、アルマの街はエリオ様に従うとの返答です」


「そうか、それは良かった。アルマでも無駄な血を流したくなかったからな」


「こちらの陣営に降ったガンロ殿の直筆の書簡を見せたらすぐに返答してきました。エリオ様の配下である私が、アルマの街までの道のりを無傷で難なく辿り着いたのを実際に見てザイード軍の精鋭の敗北を感じ取ったようです」


 そりゃそうか。ザイード家と敵対しているガウディ家の使者がアルマの街へ五体満足な状態で来れば、ガウディ家とザイード家のどっちが勝ったのか誰でも理解出来るだろうしな。しかも、アルマの街を治めていたガンロが既にガウディ家に忠義を示して配下となったとガンロ直筆の書簡を見せられたなら住民達も納得するしかない。


「使者の役目ご苦労だった。下がってよいぞ」


「はっ!」


 やがて前方にアルマの街が見えてきた。この街も規模としてはウルバンの街とほぼ同規模のようだ。ウルバンでもそうであったように、城門の前にはこの街の留守役と思われる人物が数人待ち受けていて、俺達の到着を出迎えてくれた。


 この街を治めていたガンロが俺の配下になったのを知って、アルマの街もウルバン同様にこれからは俺を主と仰ぐ事に同意してるそうだ。例え、それが仕方なくだとしても街ぐるみで徹底抗戦されるよりは数段マシだからな。


「エリオ殿。どうか俺の妻や子供をよろしくお願いします」


「わかった。心配はいらないぞ。おまえの忠誠が確かなものと確信する時期が来たならば、いずれ同じ屋根の下で住める時が来るだろう」


 ウルバンの街でのブンツやデポと同じようにアルマの街で暮らしていたガンロの妻や子供も人質として護衛の兵士達と一緒にグラベンの街へと送られていった。ルコウに関しては親兄弟がいない天涯孤独の身なのが確認出来たのでそのままにしてある。彼には先鋒として真っ先にザイード軍の兵士達を倒してもらうつもりだ。敵から降って俺の配下になった者達は例外なくザイード軍を倒して俺への忠誠を示してもらわないとな。


「ラモンさん。この街でも配下の兵士達に街中での乱暴や略奪などをしないように布告周知してくれ。破った者は厳罰でな」


「わかりました」


「これからは俺達がこの街の主になるのに、住民達に嫌われては元も子もないからね。住民達に対して居丈高な態度を取る者が出たらそれも処罰してくれ」


「エリオ殿、畏まりました」


 アルマの街の公館を本部とした俺はラモンさんや参謀、そして随行してきた内政官と相談しながら集まっている将達や配下へと指示を出していく。


「鉱山や採石所の掌握確保を至急頼みたいのだが誰か希望者はいるか?」


「ガッハッハ、それなら俺の軍に任せてくれないか。なんてったって鉱山は俺がよく知る分野だからな」


「確かにそうだな。それじゃ鉱山関係の掌握はベルマン将軍に任せよう。さて、ジゲル将軍に頼みたいのだが、クライス地方の南部地域を巡回して完全掌握して欲しい。俺達を脅かすような脅威はないと思うが、まだこちらに敵意を持ってる連中がいるかもしれないからな。抵抗するようなら有無を言わせず討伐してきてくれ」


「はっ! わしに任せてくだされ。誰がここを治めるべき主なのか、わしが懇切丁寧にこの拳で優しく言い聞かせてきます」


「頼んだぞ。ジゲル将軍」


 俺の指示を受けた者達は本部を出てそれぞれの任務の為に行動を開始した。これなら南部掌握もすぐに終わりそうだな。

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