第144話 親子っぽいやり取り
「エリオ様、西にある集落が我らへの忠誠を誓いました」
「エリオ様、北西にあるカルノ村がザイード家の兵士を捕らえて我らに恭順の意思を示しております」
配下達からの報告では。クライス地方の村や集落が次々と恭順して我らに付き従うとの報告が入ってきていた。主力で精鋭であったザイード軍の第二軍団が跡形もなく敗れ去り、軍を率いていた司令官は呆気なく討ち取られた。
しかも、ザイード軍の将軍達は今や攻め込んだ相手に寝返り、かつての主家であったザイード家に対して敵対の意思を公言して弓を引いている状況だ。
周辺の村や集落からすると、どちらに味方をした方が自分達にとって賢明な判断なのかは誰が見ても一目瞭然であった。はっきり言って、自分達の安全が確保されるなら今までのザイード家との付き合いなどはさして重要な要素ではなかったというところだろう。
「エリオ殿、各地から我らへの忠誠を示す為に兵士への志願や人材の自他推薦が相次いでいます。地元の者に聞くところによると、ザイード家は統治を身内や古くから仕える者で固めて世間からの人材の発掘はほとんど行っていなかったようです」
「なるほどね。それに比べて俺の方は統治組織としては新しく、各地から人材を募って登用してるのは誰もが知るところだ。その証拠にどこで聞いてきたのか知らないが、うちで登用した武人や内政官達も遠くから俺の噂を聞きつけてわざわざ出向いてきてくれた者が大勢いるからね」
「そうですな。人の噂というものは知らないうちにあっという間に各地広がるものです。おそらく、ゴドール地方やエルン地方を訪れた商人や旅人などが、このクライス地方を含めて周辺地域に散らばってエリオ殿の噂をあちこちに流しているのでしょう」
「ハハ、それが変な噂じゃなきゃいいけどね」
「フフ、娘のミリアムの事がありますので、エリオ殿も変な噂を流されないように頼みますぞ」
「そうだね。ラモン義父さんの言う通りだな。気をつけるよ」
「エリオ殿。わざと義父さんと言うのはやめてください。何よりも私自身がそう呼ばれると年寄りのような気がしてきますからな」
「ごめん。たまにはそう呼んでみたくなるんだよ」
「全く……エリオ殿にも困ったものですな」
俺から見るとラモンさんは妻のミリアムのお父さんなので俺の義父という関係なのだが、普段の俺とラモンさんは家庭的な話はほぼせずに政務の話ばかりしてるので、義理の親子という意識はあまり持っていない。だから、たまに俺が義父さんという言い方をするとラモンさんは困惑してしまうのだった。
そんな風にラモンさんと束の間の親子っぽいやり取りをしていると、俺が指揮を取っている公館の外から蹄の音と複数の馬の嘶きが聞こえてきた。新たに誰かがこの公館に到着したようだ。
暫くすると足音を鳴らしながら第一軍の指揮官で将軍であるカウンさんが複数の人達を引き連れて俺の前へ姿を現した。後ろにいるのは元ザイード家に仕えていて俺達の陣営に加入したばかりのブンツ達だ。
「兄者よ、只今戻りましたぞ」
「ご苦労さん。それで成果はどうだった?」
「まだザイード家に忠誠を尽くし、規模は小さいですが我らに抵抗する者達が立て籠もって根城にしていた街があったので捻り潰してまいりました」
「おお、それは大きな成果だ。放置しておくと他の地域へ波及して勢いを増して広がっていく可能性があるからね。これからクライス地方全土を掌握するにはこまめに潰していかないといけない」
「それで兄者よ。この行動には兄者に指示された通りに先日ザイード家から我が陣営に加入したブンツ達を連れて行ったのだが、躊躇せずにザイード家の兵士達を殺していましたぞ」
以前は味方だった者を今は敵として戦って殺す。俺への忠誠を確かめる為には必要な手順だ。ブンツ達も納得してやっている事だからね。
「エリオ殿。まだこれくらいではエリオ殿からの信用と信頼を勝ち取れているとは思えません。このブンツ、今後のザイード軍との戦闘では容赦なく相手を倒してみせましょう」
「俺もブンツに負けないように、今は敵となったザイード軍を倒すつもりです。このガンロの働きをエリオ殿のその目でしっかりと見ておいてください」
「ブンツもガンロも頼もしいな。俺からの完全な信頼を勝ち取る為にも頑張ってくれよ」
「「はっ! お任せを」」
ブンツ達は暫くの間、カウンさんの軍に預けておくつもりだ。第一軍には切れ者のロメイがいるからな。カウンさんも細かい事はあいつに丸投げしてるみたいだし武術の腕もある。将来はラモンさんの後継者になるかもしれないから、今のうちにどんどん経験を積んで欲しいものだ。
優秀な武将や側近、そして内政官が多くなればなるほど俺の仕事が減って楽になるのだから、俺は人材育成には積極的に力を入れようと思っているんだ。出来るだけ日々の仕事は配下達に丸投げしたいからな。
「エリオ様。何だか悪い顔になってますけど……」
「ハハ、何を言ってるんだよ。ルネの気のせいだよ」
危ない危ない。ルネは武術の達人だから勘も凄く良いんだよ。俺もそうだが、ちょっとした表情の変化も気づいてしまう。油断しないように気をつけないといけないな。やれやれ。
「エリオ様。マルドの街周辺を偵察していた部隊が戻ってまいりました」
おお、丁度良いタイミングでマルド周辺に偵察に出していた部隊が戻ってきたようだ。ザイード軍の第一軍団の動向とか、マルドの街の様子とか色々と知っておかなければいけない情報があるからな。
「よし、報告を聞こう」
俺は戻ってきた偵察部隊の隊長にそう声をかけた。
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