第129話 ロドリゴへのプレゼント

 夜になって俺はもう一つの使用しなかった『熟練の槍使い』の称号が封印されている宝玉を渡す為に義弟のロドリゴを領主館に呼び出していた。


 物が物だけに、いつもの執務室ではなく自室で待つ事にした俺はロドリゴの到着を待っていた。あいつは別館に寝泊まりしてるから在宅中なら呼べばすぐに来るはずだ。


 呼び出してから暫く経つと俺の部屋のドアを叩く音がした。そして、ドアの向こう側から聞き慣れたロドリゴの声が聞こえてきた。


「義兄さんが呼んでるって言われて来たんすけど、僕に何か用すか?」


「ドアの鍵は開いているから、とりあえず俺の部屋の中に入れよ」


「うっす、それじゃお邪魔します」


 何で呼ばれたのか理由を知らないロドリゴは、恐る恐るという感じでドアを開けて部屋の中へ入ってきた。


「よく来たなロドリゴ」


「そりゃ、義兄さんに呼ばれたら取るものもとりあえず駆けつけるっすよ」


「ハハ、まずはそこのソファーに座って楽にしてくれ。今、お茶の用意をするから」


「はあ、義兄さん自らお茶を淹れてくれるなんて申し訳ないっす」


 お茶くらいなら底辺時代から入れ慣れてるからな。しかも、商人達からの差し入れ物で一番多いのがお茶の葉なんだよ。商人達はグラベンの街が発展してしこたま儲けているようなので、これくらいならと遠慮なく受け取っている。


 ところで、俺が入れたお茶は旨いと領主館内では結構評判が高い。それが嘘ではない証拠にロドリゴ聞いてみよう。


「なあ、ロドリゴ。俺の淹れたお茶は旨いか?」


「旨いっすよ。さすがに料理は姉貴やミリアムさんの方が上手いっすけど、お茶の味は義兄さんが淹れてくれたものの方が旨いっすね」


 ほらね。本当だっただろ。


「それで、義兄さん。僕を呼んだ理由はなんすか? まさか一緒にお茶を飲んで世間話をしようなんて理由じゃないっすよね?」


「まあまあ、そんなに慌てるなよロドリゴ。確かにおまえを呼んだのは世間話をするのが目的ではないけど、ロドリゴにとって悪い話ではないから心配は無用だ。それに義理とはいえおまえは俺にとっても信頼する弟なのだからな」


「そこまで僕なんかを信頼してくれるなんて嬉しいっす。義兄さんが知らない姉貴の失敗談だったらいつでもいくらでも話しますよ」


 ククク、俺の知らないリタの失敗談か……ロドリゴに宝玉を渡した後に聞いておかないとな。最近はリタ達にやり込められる事が多いから反撃手段として知っておかなければ。たまには攻勢に転じたいからね。


「ああ、俺の用事が済んだら聞かせてくれ。それで、ロドリゴにちょっと頼みがあるんだ。少しの間だけ目を瞑っていてくれないか?」


「今ここで目を瞑るんすか? それくらいなら別に構わないっすけど。それじゃ今から目を瞑りますよ。せーの!」


 よし、ロドリゴが目を瞑っているうちに俺からのサプライズプレゼントだ。近くに置いておいた箱から金色の宝玉を取り出し、それをロドリゴの目の前に持っていく。


「ロドリゴ、もう目を開けてもいいぞ」


「了解っす。って、うわあ! これ、宝玉じゃないっすか! しかも金色!」


「ほら、ロドリゴにやるよ。槍術の称号だからおまえにぴったりだろ」


 そう言って俺は自分の手に持っていた金色の宝玉をロドリゴの手の平の上に置いてやった。


「本当に僕が貰っていいんすか? 真に受けて本当に使っちゃいますよ?」


「いいからいいから。早いとこその宝玉の力を吸収しろって。あーだこーだ言ってると俺の気が変わるかもしれないぞ」


「わかったっすよ。これはもう僕が貰ったのだから絶対に返さないっすよ」


 まあ、俺もそんな野暮な事はするつもりがないけどね。俺の目の前で意を決したロドリゴは、金色の宝玉を胸に当てて無事にその力の吸収を完了させた。


「おお、凄いっすよ。この称号の効果で僕の槍術レベルは実質的に上限を超えてしまったじゃないすか! 義兄さん、本当にありがとうっす!」


「俺も義弟のおまえが強くなって嬉しいぞ。おまえも何だかんだで人の上に立つ将軍職だからな。強ければ部下や配下からおまえが若くても侮られなくて済むから良い事だ」


「これで義兄さんに少しは近づけたっすかね?」


 そういえば、この称号の獲得でロドリゴはますます強くなった訳だな。俺の身近にこんな強い男がいるなんて頼もしい限りだ。


「ああ、近づけたさ。ロドリゴ、俺はおまえを頼りにしてるからな。これからもよろしく頼むぞ!」


「当然っす。義兄さんの為なら僕は何でもやるっすよ」


「よし、俺の用事はこれで終了だ。帰っていいぞ」


「はい、失礼するっす」


 俺から貰った宝玉で新しい称号を手に入れたロドリゴは、俺の自室から弾むような足取りで出ていき別館の自分の部屋へと飛び跳ねるように帰っていった。ふふふ、ロドリゴへのサプライズプレゼントは大成功だったな。さっきは近づけたと言ったが、俺も武王の称号と槍術レベル10のスキルを獲得したので本当は引き離してるんだけど内緒にしておこう。


 さて、今日の用事は終わったし寝る前に従魔達の所へ行ってモフ分補給をしておくか。しかし、今回もある意味従魔のおかげで俺もロドリゴもパワーアップしたようなものだ。本当にあいつらをうっかり手懐けてしまったのは、今になって思い返してみると人生でもう二度とないほどの幸運な出来事だったのかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る