第128話 またもや思わぬ発見が
目の前には俺に叱られて項垂れる二匹の従魔。
まさかこれほどの姉弟喧嘩をするなんて思ってもみなかったよ。お互いにライバル心があるのは良い事だけど、それにも限度というものがあるからね。
いざという時に俺の命令を聞かずに勝手に暴れ回られても困るからな。しかし、二匹とも負けず嫌いなのは知っていたが、ここまでの喧嘩をするなんて珍しい。
いや、待てよ。この姉弟は障害物競争のご褒美が俺のブラッシングだった事からその報酬を巡って喧嘩にまで発展した訳だよな。そうなるともしかして原因は俺にあるのか? でも、どんな理由があろうと部屋の中の物を壊したのは事実だ。ここはしっかり叱っておかないとな。
『コル、マナ。おまえ達の競争心やレースに一生懸命全力で取り組んだのは問題ないが、順位の甲乙がつけがたい微妙な状況だったのにも関わらず、俺が判定を下す前に勝手に自分の勝利を高らかに宣言した挙げ句にお互いに頭に血が上って大喧嘩するとは情けないぞ』
『ごめんなさい主様。反省してます』
『エリオ様、申し訳ありません。反省しております』
『まあ、いい。コルもマナも素直に謝ってくれたのだからこの件は許そう。コルもマナも普段は仲の良い姉弟なのだから、この喧嘩でお互いに遺恨を残さないように相手に謝りなさい。わかったか?』
『はい、姉ちゃんごめんなさい』
『弟よごめんね。私もやりすぎたわ』
ふぅ、良かった。二匹とも俺の従魔なのだから姉弟仲良くやってもらいたいもんな。戦う時はこの二匹で見事な連携を見せながら動き回っているので、最悪のパターンとして二匹の仲が悪くなってその連携がなくなるのは大きな損失だからな。
『よし、コルとマナも反省して謝ってくれたからこの件はこれで終わりだ。だが、部屋の中が滅茶苦茶になってるのでコルとマナは片付けるのを手伝いなさい』
『『はい』』
とりあえず、倒れている踏み台やスラロームの棒を起こして元の位置に戻しておく。輪っか潜りの輪っかは形が歪んでいたのでコルとマナに手伝ってもらってその歪みを直しておいた。
パイプトンネルも二匹が取っ組み合いながら体当たりしてたので、転がって斜めになっているのを元の位置に戻して真っ直ぐにしておく。これで障害物コースの復旧は終了だ。左右のコースを比較しながらじっくりと眺めて確認してみたが、どちらも均等になっていて問題なさそうだ。
さて、問題は二匹が暴れまわったせいでぼろぼろになってしまったソファーだな。表面の布が破けてクッション用に詰められた中身が飛び出しており辺り一面にそれらが撒き散らされている。
破けてボロボロになったソファーに向かい近くでまじまじと眺めてみたがどう見ても悲惨な状態だ。これ修理して直るのだろうかと破けた部分を捲って中をよく確認すると、中で何かが光の反射を受けてキラッと光ったように見えた。
「おや、ソファーの中に何かあるみたいだぞ。何だろうな?」
ボロボロになってしまったソファーに手を突っ込んで、その光った何かを掴んで取り出してみた俺は、あまりの展開にその場で自分の手に握られた物を見ながら絶句してしまった。
そう、それは過去にも何度か見覚えがある物で、その度に大変お世話になった宝玉だったのだ。しかも、俺が手に持っているのは金色の宝玉。確か金色は称号が封印された宝玉のはずだ。暫くの間、その場で立ちながら固まっていた俺はようやく体が動かせるようになり、同時に叫ぶように言葉を発していた。
「何でこんなところから宝玉が出てくるんだよ!」
『主様、どうしたのですか?』
『エリオ様、急に固まったと思ったら動き出した途端に大声を出してどうなさったのでしょうか?』
『ああ、ごめん。破けてしまったソファーの中からこれが出てきたんだよ』
『その綺麗な金色の玉は前にも見てますね』
『もしかしてあの金の玉ですか?』
『そうだ、その金色の玉だ』
従魔達も気づいたようだ。これが宝玉だというのを。
『一つだけなのですか?』
『まだあるかもしれません。探してみてはどうですか?』
確かにそうだな。念の為に探してみるか。もうこうなったら修理も何もないという状況だ。俺は一度部屋を出て自分の部屋から短剣を取ってきて、その短剣でソファーを切り刻み始めた。
結果としてソファーの中からは金色の玉が二個と赤色の玉が二個の合計四個の玉が出てきたのだ。どういう経緯でこの古ぼけたソファーの中に宝玉が入っていたのか俺には全く知る術がないが、なにはともあれ俺にとってとんでもない幸運だったのは間違いない。フフフ、ありがたく使わせてもらいますよ。
まず、最初に見つけた金色の玉を胸に当ててみる。すると例の声が俺の耳に響いてきた。うん、これは紛れもなく宝玉だ。
『この玉の力、称号【武王】の力をお主は欲するか? 答えよ』
おお! 何だか凄そうな称号が来たぞ!
武王なんてその名前の雰囲気だけでも凄そうだ。
それで、この称号の効果はどんなものなんだろう。
ふむふむ、今俺が持っている称号、武の達人の上位版のようだ。現在獲得している武術のレベルが6レベル加算されて持っていない武術スキルもレベル6と同等の力を発揮出来る。まさに武王の称号に相応しい効果だな。普通の平凡な人ではレベル5から先に行くのは難しいとされている中で、この称号の効果だけで全ての武術レベルがそれを上回れるのだからその凄さがわかるだろう。
「はい、この玉の力が欲しいです」
俺がそう答えると、宝玉の力が俺の体に吸収されていった。前後の実感として感覚的に体が更に軽くなった気がする。ただ、気になるのは武の達人の称号がどうなってしまったかだな。おそらく武王の称号に上書きされて効果が二重になる事はないだろう。以前、詳しい人に聞いた話では同系統の称号は上位版だけが効果を発揮すると聞いた覚えがある。
さて、次にもう一つの金色の玉の番だ。これも右手で持って自分の胸に当てていく。するとさっきと同じように荘厳な声が聞こえてきた。
『この玉の力、称号【熟練の槍使い】の力をお主は欲するか? 答えよ』
今度の称号は槍術に限定された称号のようだ。現在持っている槍術スキルにレベル3の力を加算するらしい。ただ、俺の場合は全ての武術を対象とした上位版の武王の称号があるのでこれを吸収しても二重の加算にならずに無駄になりそうだ。仕方ない、これはロドリゴにあげよう。確かあいつの槍術レベルは8だからこれをやればレベル10を実質的に超える。うん、そうしよう。
そして残った二つの赤い玉はなんと槍術レベル10と剣術レベル10だった。まさかのスキル上限レベルと言われている宝玉だ。初めて見たけど実際にこんなのがあるんだな。震えそうになる手で槍術10の玉を俺の体に吸収する。武王の称号獲得と槍術レベル10の力という濃すぎる程の脳筋成分の力を吸収してしまった俺はどこに向かうのだろうか?
そして、もう一つ残った剣術レベル10の玉を続けて吸収しようとしたけど、少し考えた結果これはまだすぐに使わずに俺が保管しておく事にした。
武王の称号が手に入ったので今でも剣術は実質的にレベルの上限を超えてるからすぐに必要になる場面なんてほとんどないだろうというのが理由の一つ。それに俺のメイン武器はリーチの長い長柄武器の暗黒破天なのでね。
今はまだ赤ん坊だが、息子のレオが大きくなったらこれをあげるという選択肢を考えておくのもいいだろうしな。
『主様、もしかしてまた強くなったのですか?』
『ああ、強くなったはずだ』
『エリオ様が強くなると私も嬉しいです』
『ハハ、嬉しい事を言ってくれる。マナ、ありがとう』
結果的にコルとマナの喧嘩のおかげで宝玉が見つかるとはとても複雑な気分だし、叱った後に感謝するのもおかしな感覚だ。まあ、とにかく新しい武の称号と槍術の極みが手に入って大満足したから、部屋を片付けた後は二匹に均等にブラッシングをしてあげよう。
『コル、マナ。部屋が片付いたら二匹ともブラッシングをしてやるからな。楽しみにしておけよ』
『わーい、主様大好き!』
『はい、楽しみにしてますわ』
そんな二匹を眺めながら俺は最後の締めとばかりに目の前にあるボロボロになったソファーを片付け始めたのだった。
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