第125話 住民達に信を問う
ザイード家からの使者を追い出した後、俺はさっきの事を後悔しているのか自分の胸に問いかけてみた。だが、その答えは否だった。
遅かれ早かれ、俺という存在やゴドールの躍進に難癖をつけてくる者が出てくるだろうとは予想していたので、ついにその時が来たのかと客観的かつ冷静に捉えている自分がいた。
まあ、世の中穏便な話し合いで全て解決すればそりゃ楽だが、その土地によって資源量や気候、災害天災の有無、周辺地域の情勢など大きな違いがあるし、全ての土地の価値が平等とはいかない。人口が増えれば必要な資源や食糧も多く必要になり、自分の治める地域だけで自給自足出来なくて足りなければどこからか確保しなければならなくなる。人々が皆満足出来るように暮らせればと口で言うだけなら簡単だが現実は結構大変で難しい事なのだ。
ならば畑を増やせばいいだろうと簡単に言う人もいるだろうが、ある程度は増やせてもそれでもやっぱり限度がある。現実は気候や土壌、水資源の問題もあって農業に適した土地ばかりではないからだ。ザイード家から使者が来たのもゴドールで豊富に金が産出されるようになって、ザイード家がそれに目をつけてどうにかして奪おうとこんな要求をしてきたというのが今回の真相だろう。
ところで、ザイード家からの使者の話にもあったが、以前この地を治めてたというテスカリ家と現在の統治者であるガウディ家についてゴドールの住民達はどのように思ってるのだろうか?
「ラモンさん、一週間後に街の大広場で俺は住民達に向かって話をする。その旨を街中に周知してくれないか?」
「エリオ殿、住民達に向かって話をするのですか?」
「ああ、今後ザイード家からの揺さぶりがないとは言えない状況だ。揺さぶりどころか戦いという最悪の事態も想定しておかなければならない。ザイード家のあの上から目線の態度から考えると自分達の要求が当然と思っている。そこで今一度結束を固める為に住民達から俺への信任を得るのが目的だ。自惚れている訳ではないが、常に笑顔が溢れている住民達の様子を見ると俺達は信頼されていて大丈夫だという確信を持っている」
「なるほど。民からの信頼を再確認して街中が結束出来ればどんな横槍が来ても一枚岩でいられますからな」
「段取りとかはよろしく頼むよ」
「エリオ殿、承りました」
◇◇◇
そして一週間後の街の休日。
大勢の住民達が大広場に集まってきていた。
「エリオ様から俺達住民に話があるって聞いたけどよ」
「ああ、俺もだ。話があるから時間がある者は大広場に集まってくれって聞いたぜ」
「もしかして私の美貌がエリオ様の目に留まったのかしら! 私も罪な女ね」
「エリオ様ならこの俺の体を自由にしてくれてもいいぜ!」
グラベンの街の住民達はそれぞれ今日の話は何なのだろうかと噂話をしている。そんな中、本日の主役であるエリオが大広場に姿を現した。
「キャー、エリオ様!」
「エリオ様が従魔と一緒に現れたぞ!」
「エリオ様は相変わらずイケメンで素敵よね」
「俺はあの従魔の体に顔を埋めたいぜ!」
「ゴドールの希望!」
「「「ゴドールの希望!」」」
すごい歓声だ。こんな俺を大広場に集まった住民達は大歓声で迎えてくれている。俺は用意された壇上に立つと住民達に向かって大きな声で語りかけた。
「皆、大広場に集まってくれてありがとう。今日は俺から住民の皆に大事な話があるんだ」
俺がそう言いながら話を切り出すと、俺の声を聞き漏らさないように住民達は静かになった。
「実は先日、このゴドール地方から見て西隣にあるクライス地方のザイード家から使者が来た。その使者が言うには、このゴドールから追放されたテスカリ家の当主の息子であるアンデル・テスカリという者を、ザイード家が保護をしているのでゴドール地方をテスカリ家に返せという要求だった。しかし、俺は住民達から嫌われて追放されたテスカリ家にはこのゴドールに戻る資格は全くないと結論付けてその要求を突っぱねた。そこでここに集まった住民達に問いかける。俺がこの地を去ってまたテスカリ家に治めてもらいたいと思うものはその場で手を上げてくれ」
大広場がしーんと静まり返る中、住民達に考える時間を与える為に暫く待ってみるが、誰も手を上げる者はいないようだ。
「ならば、引き続き俺に治めてもらいたいと思う者はその場で手を上げてくれ」
すると俺の言葉が終わると同時に住民達が一斉に手を上げ始め、大広場中に地鳴りのような歓声が巻き起こった。
「テスカリ家が治めていた頃に戻るのなんて真っ平御免だ!」
「今の方が格段に暮らしも良くなってるもんな!」
「エリオ様をグラベンに招いて良かったぜ!」
「俺達はエリオ様についていく!」
「エリオ様にあたしの全てをあげるわ!」
「ゴドールの希望!」「ゴドールの希望!」「ゴドールの希望!」
住民達が俺の統治を認めて支持してくれるという確信は持っていたが、やはり直接住民達から生の声で言われると嬉しさもひとしおだ。住民達全ての要求に応えるのはさすがに無理だが、出来るだけ彼らに寄り添うように務めてきたつもりだしな。
この大歓声を聞きながら、俺は本当の意味でゴドールの住民達に受け入れられたのだと心から安心出来た。ちょっと賭けの部分はあったがこの試みは大成功と言っても間違いないだろう。
「ゴドールの民達よ。俺を信任支持してくれて感謝する。これからもこのゴドールの民が笑顔で暮らせるように努力するつもりだ。時として辛い選択をする場面もあるかもしれないが、どうか俺を信じてついてきて欲しい」
「俺はついていくぜ!」
「あたしはエリオ様を信じてるわ!」
「ゴドールの希望!」「ゴドールの希望!」「ゴドールの希望!」
いつまでも鳴り止まない歓声を耳にしながら俺は最高の充実感を味わっていた。
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