第126話 定例会議での話し合い
街の大広場での演説で住民達から絶大で揺るぎない信任を得た俺は自分の統治に自信も芽生えてきた。今までは手探り状態だったが、方向性は間違ってはいなかったのが証明されたからね。
そして今日は定例会議の日だ。
いつものような民政の課題だけでなく、ザイード家についても話し合っておかなければならない。執行長官であるラモンさん以下、主要な内政官達と将軍職で出席出来る者が今日の定例会議に参加する予定だ。
「エリオ、行ってらっしゃい」
「エリオさん、行ってらっしゃい」
リタとミリアムの二人に見送られて妻と子供が昼間の間過ごしている部屋を出る。コルとマナは妻と赤ん坊のところで子守役だ。部屋を出るとルネが警備の為に待っていて、俺と一緒に会議室へと向かっていく。
「エリオ様、肩に糸くずがついております」
そう言ってルネが俺の肩に手をかけて触れてくるが、ついでとばかりに俺に体を寄せて密着してくるように感じるのは気のせいだろうか。まあ、最近は子育てに忙しいリタとミリアムの代わりに通常任務でも俺の護衛を兼ねた秘書官の立場になってるのでこれくらいは普通とも言えるか。
「ありがとう」
ルネに礼を言い二人して歩いていくと目的の会議室に到着した。ドアの横には領主館付きの親衛隊士が二人立っていて、俺とルネの姿を見ると敬礼をしてきた。
「ご苦労さま」
俺は敬礼で迎えてくれた隊士に声をかけて労い会議室の中に入っていくと、既に先に到着して俺の来室を待っていた配下達が一斉に立ち上がり、胸に手を当てて俺を迎え入れてくれた。
「皆、待たせたかな。これより定例会議を始める。席に座っていいよ」
「出席者も揃ったのでこれより定例会議を開催します。進行はこのラモンが務めさせていただきます」
この定例会議だが、エルン地方に赴任していて普段はなかなか全員では来れないが、今日はバルミロさんと内政担当の文官がエルンを代表して参加している。将軍になったバルミロさんは一段と風格が増してきているな。
「ラモン長官、よろしく頼む」
「はい、まずは本日の会議の中心議題です。先日、このゴドール地方の西に位置するクライス地方からザイード家の使者がエリオ殿を訪ねて参りました。ザイード家からの要求はエリオ殿が治めるゴドール地方を、住民達から追放されたテスカリ家に返してエリオ殿はザイード家かテスカリ家の配下になれというものです。当然のごとくこのザイード家からの要求は受け入れられるものではなく突っぱねました事を報告致します」
「当然だ。兄者が悪政で追放されたテスカリ家にこの地を渡す義理などない」
「おいらがその場に居合わせたら使者を叩き斬ってやったのにな!」
「フッ、俺がエルンに赴任してる間にそんな事があったのか」
「ガッハッハ、身の程知らずな使者だ」
「私はずっとゴドールに住んでおりますが、私達ゴドールの住民達の総意で悪政を敷いていたテスカリ家を追放したのですから今のテスカリ家は敵みたいなものです」
「皆の気持ちはよくわかる。俺もザイード家の使者の要求を聞いた時には唖然としたからな。でも、ザイード家がそんな無茶とも言える要求を俺にしてくるだけの力を持っているのも事実だ」
「確かクライス地方はゴドールとエルンの二つを足した以上の大きさなんすよね?」
「ああ。ロドリゴの言う通りだ。ザイード家があるクライス地方はゴドールとエルンを足しても届かないほどの広大な面積を有している。ただ、人口はゴドールより少し多いくらいだ。その理由はザイード家からの税や労役の負担が大きいので住民も商人もなかなか居着かないからだ」
「エリオ殿の話を補足しますが、クライス地方の軍は規模がそこそこ大きいですな。軍の兵士の数も実体は不明ですが見かけの数字の上では我らを上回っています。まともに戦える兵士の実数はわかりませんがね。だが、これらを率いる将軍の中には名の知れている者がいるようです」
「それで兄者はどう考えているのだ?」
「とりあえず、相手の出方次第かな。このままはいそうですかと諦めるとは思えないしな。ラモンさん達に情報収集を担当させて相手の動きを監視させている」
「エリオ殿、引き続きザイード家の監視を続けていく予定です」
「あと、いつでも対処出来るようにジゲル将軍はクライス地方と接する西側の警戒を頼む。必要な物があれば遠慮なく俺やラモン長官に要求していい。兵士達も有事に備えて鍛えまくってくれ。相手もまだこれといった目立った動きは見せておらず、すぐには戦いを仕掛けてこないだろうが他の軍も警戒と準備を怠るなよ」
「エリオ様、お任せください」
「それとカレルさんは俺が書簡を書いて用意するからコウトとサゴイに行ってくれ。報告しておいた方がいいだろうからね」
「エリオの兄さん任せてくれ」
「エルンの内政官に頼みがあるのだが早急に軍馬の調達をどんどん進めてくれないか。エルンの軍の騎馬隊を先行させてゴドールでも各軍の騎馬隊の編成もようやく形になってきたが、とりあえずカウン将軍の第一軍は今すぐに騎馬隊の定数を満たしたい。それとたくさんの大盾と長槍の生産を鍛冶屋の多くを借り上げてもいいから頼む。出来るだけ軍の装備をこれでもかと言うくらいに充実させたいんだ」
「おお、兄者よ。それはありがたい。それがしは大きくて強い馬が欲しい。出来ればそれもお願いしたい」
「カウンの兄貴が羨ましい。おいらの軍にも馬がもっと欲しいぜ」
「ハハ、そうは言っても順番があるからね。ゴウシ将軍のところは申し訳ないがその次かな。一応エルンだけでなくカレルさんのツテを頼って調達出来ないかやってみるよ。上手くいけばゴウシ将軍のところもすぐに揃えられると思うから期待していてくれ」
「エリオ殿、次の報告ですが内政関連です。生糸を使用した絹織物が量産体制に入りました。生糸生産を知る者がゴドールに移住してきたので、土地と建物を用意して生糸産業の促進を進めておりましたが、ようやく高品質の絹織物が量産出来るようになり高値で取引されております。確実に大きな収入源になると思われます」
生糸生産と高品質な絹織物の量産体制が整った知らせは正直嬉しい。ゴドールは金鉱脈の収入は莫大だが、それ以外にこれといった地場産業がなかったんだよな。俺の目標は出来れば一つの地方で安定的な収入源を複数確保する事だからね。
「それは嬉しい報告だ。助成金を出すから高品質のものが維持出来るように最新の設備と環境を整えてくれ」
「仰せのままに」
その後も会議は続けられて各方面からの報告についての話し合いが行われた。その場で解決出来るものもあれば保留となるものもある。細かい事は軍や内政の部署に持ち帰って話し合われる。
長い時間かかったがようやく定例会議も終わりの時間が来た。ふう、今日も何とか終わったよ。
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