第123話 ぶらり散歩
今日の仕事は午前中の早い時間に終わった。
視察の予定が入っていなかったので、午前中の残りの時間は家族サービスだ。たまには子育てに参加しないと子供達から俺が父親だと認識されなくなる可能性もあるしな。この時間は二人とも子育て用の部屋で過ごしているはずだ。早速部屋まで行ってみると予想通り二人の姿がそこにあった。
「リタ、ミリアム、俺だ。部屋に入るぞ」
「エリオかい? いいよ」
「どうぞエリオさん」
俺が部屋に入っていくと、リタもミリアムも子供に自分の母乳を与えているタイミングだった。おっぱいを吸う子供の姿は可愛らしくて一生懸命だな。
「授乳中だったのか。部屋に入ってきて邪魔だったかな?」
「別に邪魔じゃないよ」
「エリオさんなら私達のおっぱいを見られても問題ないですからね」
「ハハ、確かに俺達は夫婦だもんな。でも、最近はリタとミリアムのおっぱいは生まれてきた子供達に独占されてるよな」
「そんな事を言ったって仕方ないでしょ。今のあたしのおっぱいはエリオが揉みまくっていた時とは違って赤ちゃんに母乳を飲ませる為にあるようなものなんだから」
「そうですよエリオさん。子供が生まれるまでは私のおっぱいを吸いまくっていたのだから少しくらい我慢しないと駄目ですよ」
「ああ、大丈夫だよ。何となく言っただけだから」
あのさ、二人とも揉みまくっていたとか、吸いまくっていたとか俺の性癖をすまし顔で晒すのは恥ずかしいからやめてくれないかな。確かにその通りだけどさ。
「ところでエリオは今日の公務はどうしたんだい?」
「午前中の早いうちに今日の予定は消化したんだ。だからリタ達と子供の様子を見に来たんだよ」
「そうなんだ。でも母乳を飲んだら赤ん坊は寝てしまうからね。私達も昨夜はあまり寝てなくて少し休むつもりだからエリオが居ても何も出来ないよ」
「いいよ。リタとミリアムの授乳姿も見れたし、赤ん坊の元気な姿も見れたからな。従魔達を連れて少し街に出てみるよ」
「ゴメンねエリオ」
まあ、妻二人と子供達の姿を見れただけでも満足だ。妻達がいる部屋を出た俺は従魔達がいる遊び部屋に向かっていく。この部屋は何かあった時に備えていつでもドアは開けっ放しだ。この領主館では俺を除けば最高戦力である従魔達がどこへでも駆けつけられるようになっている。美人で強い戦乙女のルネもこの領主館内に住んでいるが、機動力と危険察知という点で従魔の方に軍配が上がるからな。
『おーい、コル、マナ』
開いているドアから部屋の中を覗いて声をかけると、既に俺の気配を察知した従魔達が俺に向かって駆け出して来ていた。
『主様、もしかしてお出かけですか?』
『エリオ様、私にお供してもらいたいのですか? ふふふ、いいですよ』
とりあえず、飛びついてきた従魔達の体を撫でながら束の間のモフ分補給だ。でも、マナよ。おまえ最近何となく性格がリタやミリアムに似てきてないか?
『ハハ、その通りさ。おまえ達にお供してもらいに来たんだ。今から出かけるぞ』
『『はい、行きましょう』』
ちょっとした個人的な散歩のつもりだから今回はルネや隊士を連れずに行こうっと。わざわざ散歩に付き合わせるのも悪いし従魔がいれば安心だしな。
配下の者に少し街へ出かけてくると伝えて従魔と連れ立って領主館を出ていく。身なりは例の真っ黒装備ではなく、白いシャツに茶色の革ベスト。ズボンの色は濃い灰色で短剣を腰に吊るした装いだ。
名付けてエリオのグラベンの街ぶらり散歩ってとこかな。店巡りをしながら以前あったようにとんでもない掘り出し物でもあればラッキーなんだけどね。まあ、期待しないで歩いて行こう。
『コル、マナ。おまえ達の行きたい方向へ行こう』
『僕はこっちに行きたいです』
『あら偶然ね。私も弟と同じ方向に行きたいです』
へー、姉弟で行きたい方向が一致するなんて幸先が良いかもな。
『よし、おまえ達の勘を信じてこっちへ行こう』
『『おー!』』
俺達が向かった方向は街の東側だ。街の北側と西側に新しく造成した新街が出来たので東側は昔の街という位置付けになってしまっているが、今でも古くからこの街に住んでいる住民達のおかげで活気は失われていない。
従魔と一緒にぶらぶらと歩きながら東側の区画に入っていく。今日はよく晴れてぽかぽか陽気なので絶好の散歩日和だな。道行く人達やすれ違う人達はどこにでも居そうな地味な格好をしている俺にはほとんど関心を向けないが、俺の後ろについてくる二匹の従魔を見ると、皆同じように振り返って「もしかして今の人はエリオ様?」と独り言を言ってるのが聞こえてくる。
そうです、私がエリオです。あなたは間違ってはいませんよ。でも、従魔が一緒にいなければあなたは俺だと気がつかなかったでしょう。何となくそんな気がしますよ。
そんなくだらない事を考えつつ東側の街中を歩いていると、家具を売っている店が俺達の目に入ってきた。従魔達も何かの雰囲気を感じたのか吸い寄せられるようにその店に向かっていく。店の前に看板が出されていて、それを読むと中古の家具も取り扱っているようだ。とりあえずこの店の中へ入ってみよう。
「こんちは、誰かいますか?」
「はい、今行きますよ」
奥の方から男の声が聞こえてきて、そのすぐ後に小太りのおっさんが俺達の前に姿を現した。
「何で御座いましょう?」
「ここは家具屋でいいのかな? たまたまこの近くをぶらぶらと歩いていたらこの店を見つけたので何となく入ってみたんだ。従魔と一緒に少し店に置いてある家具を見てもいいかな?」
「ええ、構いませんよ。どうぞご自由にご覧ください。うちに置いてある家具は基本的に中古品になります。勿論、注文を受ければお客様のご要望に合った新しい家具も作ります。でも、我が店では修理出来る物は修理してお安く販売するのがモットーです。旧家から引き取ってきた物は見た目は古いですがまだ使える家具などが多くありますよ」
「確かに古い物でもまだまだ使える物があるからね。中古ならお手頃価格で買えるのもありがたいよね」
お店の主人に許可をもらったので従魔を連れて店内を見て回る。家具を扱ってるお店だけあって店内は倉庫のように広い。椅子やテーブルだけでなく大きなベッドまで何台も置いてある。品揃えは豊富だし見ていて飽きないな。
『コル、マナ。何か欲しい物はあるか?』
『主様、あそこに気になる物があります』
『エリオ様、あそこに置いてある物が欲しいです』
二匹の従魔はそう言うと俺をその物の場所に先導してくれるようだ。歩いて行く方向が一緒なのでもしかして二匹とも同じ物に目をつけたのかな?
『主様、これです』
『私も弟と同じです』
従魔達が俺に示したのは一つの巨大なソファーだった。見るとそのソファーはだいぶ昔に作られた物のようで、両側の木製の肘掛けは年代を重ねた独特の艶を醸し出していた。座る部分は布張りだが、ふかふかのクッションが効いてそうで座り心地が良さそうだ。
『おまえ達、試しに座ってみるか?』
『『はい』』
コルとマナはそのソファーの上に上がって寝転がる。ソファー自体が通常の物よりもかなり大きいので二匹が同時に上がっても居心地的には問題なさそうだ。コルとマナも満更ではなさそうだし従魔用にこのソファーを買っていこう。
『コルとマナが気に入ったのならこれを買おうか?』
『買ってくれるんですか。ありがとうございます』
『大好きなエリオ様、ありがとう!』
フフフ、可愛い従魔に大好きと言われて嬉しいぞ。
「店の主人よ、この大きなソファーを購入したい。金は今払うからこのソファーを掃除して綺麗にしてから配達してくれないか」
「ご購入ありがとうございます。ところでこのソファーはどちらへ配達すればよろしいでしょうか?」
「ああ、この街の領主館だよ。配下の者に伝えておくから裏門から入って搬入してくれないか。今、紙に俺のサインとソファーを購入したという書付を書いて渡すからこれを見せればすぐに敷地内に入れるはずだよ」
俺は懐から取り出した紙にペンで俺のサインと購入した経緯を書いて店の主人に渡してあげた。すると、紙に書かれていた俺のサインを見た店の主人は目を丸くして驚いていた。
「エリオ様とは気がつかずに失礼を致しました。何となくその連れている従魔が気になっていたのですが、エリオ様の格好が街によくいる冒険者風でしたので気がつきませんでした。この通りお詫び致します。誠に申し訳ありません」
「いや、そんなにへりくだらなくてもいいよ。今の俺はただのお客でしかないからね。今日はうちの従魔が気に入るような物を購入出来て良かったよ。またぶらっと散歩がてら立ち寄るかもしれないからその時はよろしく」
「ありがとうございます。エリオ様のサインが書かれたこの書付の紙は我が店の家宝にさせて頂きます」
「ハハ、家宝なんて大げさだな。そんなのただのサインだよ」
ソファーの購入手続きを済ませた俺は店を出て、従魔を引き連れてまた街中へぶらりと歩いて行くのだった。
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