第120話 幸せな時間
リタに続いてミリアムにも子供が生まれ、俺は一気に二児の子供の父親になった。
数年前までは鳴かず飛ばずの底辺だった俺も、今では多くの人達を統べる存在になり二人の子供の父親にもなったのだ。あの時の俺がこんな未来の俺の姿を想像出来ただろうか?
これもうっかり手懐けた従魔達のおかげでこの幸運が始まったと言っても過言ではないだろう。本当に世の中何がきっかけでどうなるのかわからないものだ。諦めずに地道に頑張っていればこんな幸運が舞い込む事もなきにしもあらずだ。
「はい、君達のパパですよー。あばばばば!」
「あはははは!」
「ププ、エリオさんの顔!」
リタとミリアムにそれぞれ抱かれた赤ん坊に向かって変顔をしながらあやす俺を見ながら二人の妻は大笑い。二人の妻の体調も戻ってすっかり元気になっている。俺と妻に加えてラモンさんやロドリゴなど家族親類一同が集まって談笑をしているところだ。
それで二人の子供の名前だが、男の子の方は『レオナルド・ガウディ』そして女の子の名前は『エマ・ガウディ』と命名した。男の子はレオナルドと普段呼ぶのは長いので、短くしてレオと呼んでいる。二人の妻達と相談して最終的に俺が決めたのだがどうだろうか? おかしくないよね?
『今の主様の顔はおかしいです』
『エリオ様の変顔がとても不細工でおかしいです』
コルとマナよ。頼むからこのタイミングでおかしいとか言われないでおくれ。
「私がお爺ちゃんですよー」
「キャッキャッ!」
ミリアムからエマを受け取りあやすラモンさん。子育て経験があるのであやし方も堂に入っている。エマも喜んでいるぞ。普段はダンディーで冷静沈着なラモンさんも孫の前ではただのお爺ちゃんになってしまうようだ。
「ほら、ロドリゴ。おっかなびっくりしてないでレオを抱いてごらん。首が動かないように気をつければ大丈夫だから」
「えー、僕が抱いても大丈夫っすかね?」
その横ではリタが弟のロドリゴにレオを抱くようにしきりに促している。そういえばロドリゴはレオから見れば叔父さんになるんだな。
「俺が許可するよ。ロドリゴよレオを抱いてくれ。なんてったっておまえはレオの叔父さんじゃないか」
「そうなんすよね。僕もこの歳で叔父さんになっちゃいましたよ。まあ、義兄さんに言われたら仕方ないっす。覚悟を決めてレオを抱いてみるっす」
ロドリゴはそう言うと、リタからレオを受け取りその手で抱き上げた。リタがそばに付き添い抱くのを補助してくれている。
「暖かくて柔らかいっすね。あー、僕を見て笑ってるっすよ」
本当だ、レオはロドリゴを見て笑ってる。自分と血が繋がっている叔父さんだとわかってるのかもな。
「もういいっすよね。落としちゃいそうで怖いっす」
「仕方ないわね。はーい、ママの方に来ましょうね」
リタがロドリゴからレオを受け取ったのだが、ロドリゴから離れる時にレオが一瞬悲しそうな顔をしてたんだ。レオよ、おまえの親はロドリゴじゃなくてこの俺だからな。
「そういえば、義兄さんの人気は相変わらず凄いっすよね。街中の人が義兄さんに子供が生まれた事を祝福してくれて贈り物もいっぱい届いてますもんね。僕も全然知らない人達からおめでとうと言われたっすよ」
「ああ、俺自身も驚いたよ。子供が生まれたと公表した途端、有力者や商人からお祝いの言葉や贈り物がいっぱい届いたからな。ゴドールやエルンだけでなく、コウトやサゴイのロイズさんからも贈り物を頂いたので嬉しい気持ちでいっぱいだよ」
まあ、商人達はここゴドールでたくさん儲けているから、少しくらいの贈り物なんて懐が痛まないだろうけどその気持だけでもありがたい。
「でね、笑っちゃうのがその贈り物なんだけどさ。商人達からエリオ宛てにお祝いとして贈られてきた品物の中に絹織物とか高価な美術品に混ざって武器とか防具とかあるんだけどさ。それが黒い装備ばかりなのよ」
そうなのだ。リタの言うように漆黒のエリオという二つ名で呼ばれてるのがあちこちに伝わっているのか知らないが、商人達がどこで探してきたのか贈り物には黒系統の装備の割合がとても多いのだ。
「ハハ、それは凄いっすね。でも、義兄さん良かったじゃないっすか。替えの装備を買わなくて済むし」
「ロドリゴ、笑い事じゃないぞ。ただ黒いだけでなく、無茶苦茶高そうな装備もあるんだよ。本当にこんなの貰っちゃっていいのかなとこの目を疑ったよ」
「いいじゃないですかエリオ殿。せっかく頂いたのですから遠慮なく使うべきですぞ」
そうなんだけどさ。俺って今まで使用してたのが親父の形見や掘り出し物とか賊徒の首領から奪った物ばかりだったからなぁ。高価な物を実戦で使うのはもったいない気がしちゃうんだよね。でも、せっかく頂いた物だしいつかそのうちありがたく使わせてもらうつもりだ。
頂いた物の中には鎧だけでなく、黒い弓や槍に加えて黒い革鎧や鉄兜、それに馬用の黒い鞍や鎧などもあってまるで黒い装備の品評会のようだった。その他にも工芸品や美術品を頂いたのだが、その中にも黒を基調とした作品があって苦笑してしまった。
「そうだロドリゴ。おまえにぴったりそうな有名な職人が作ったという大きな黒い槍があるから使ってくれよ。俺は今使ってる暗黒破天があるからさ」
「僕が使ってもいいんすか?」
「ああ、おまえは俺の身内なんだから黒の装備を使用しても問題ないだろ。俺と違って全身黒ずくめになる訳でもないし、死蔵させておくのももったいないから絶対に使えよな」
「わかりました。もしかしたら僕も黒槍のロドリゴと呼ばれるかもしれないっすね」
「ハハ、黒槍のロドリゴか。格好いいなそれ。俺とロドリゴが並んで戦っていたら昼間はさぞかし目立つだろうな」
「義兄さんが戦わなくても済むように僕が食い止めるっすよ」
「ハハハ、ロドリゴは頼もしいな」
随分とロドリゴも頼もしくなったものだ。それだけの実力もあるし、見た目はへらへらしてそうだが実は肝が座っている。ロドリゴのような男が義弟で良かったよ。
そんな事を思いながら、俺はこの愛すべき人達に囲まれて幸せだなと心の中で再認識したのだった。
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