第117話 グラベンでの任命式

 エルンのナダイの街からゴドールのグラベンに帰ってきた。


 久しぶりの一家団欒は夜まで話が尽きなかったよ。リタもミリアムもエルンでの話を聞きたがったので、つい話し込んでしまった。でも、お腹に子供がいるのでいつまでも話して夜更かしをさせる訳にもいかないのでキリの良いところでお開きになった。


 その一家団欒の場の話の中で、ロドリゴが近衛軍の将軍になった事や、バルミロさんが新しく新設された第五軍の将軍に就任した話をすると、リタとミリアムは自分の事のように喜んでくれた。


 まあ、実はまだ第六軍の将軍任命も残っているのだがね。ベルマンさんには内示は既に出ているのだが、まだ正式な任命とはなっていない。明日、正式に任命する予定だ。


 そういえば、新しく親衛隊長になったルネの事もリタ達に話したのだが、リタには「あの子もあたし達と同じ雰囲気を感じるわ」と言われた。


 そして、ミリアムは「あたし達と同じパターンになりそうです。エリオさんの魅力にやられてしまうパターンです。エリオさんは魅力的ですから仕方ないですね」と言われた。


 いや、今のところ俺はそこまで考えてはいないのだが、この二人はそこまで先読みしてるのかよ。


 お開きになった後で久しぶりに領主館の自室に戻った俺は、少し気疲れしたのもあったのかベッドに横になるとすぐに眠りについたのだった。


 ◇◇◇


 次の日。

 寝坊する事もなくいつも通りに起きれた。

 着替えを済ませて従魔と一緒に朝食を食べる。


 リタとミリアムは建物内でも移動で負担がかからないように自室で食事をするようにしてるらしい。付き人がそばにいて身の回りの世話をしてくれてるので何かあっても心配はないだろう。いつ生まれても大丈夫なように医師達も領主館に常駐させている。


 朝食が済んだ後、リタとミリアムの部屋に行き、二人と朝の挨拶を交わした俺は自分の部屋へと戻り軍本部まで出かける準備を始めた。今日は黒ずくめの装備ではなくちょっと偉そうに見える領主としての正装姿だ。


 今日はベルマンさんの将軍任命式を執り行うのでね。


 新規で将軍になるベルマンさんに箔付けみたいなものも必要じゃないですか。エルン地方にいなかったという事情があって任命が一番最後になってしまったのだが、兵士や住民にどうでもよい人事で後回しにされてると思われないようにしないとね。俺だってそこらへんは考えているんですよ。


 そういう訳で、今日の任命式の会場の軍本部までは馬車に乗っての移動だ。


「エリオ様、馬車の御用意が出来ております」


「ありがとう。今行くよ」


 使用人が馬車の用意が出来たのを伝えに来たので、部屋を出てコルとマナを伴い玄関前の馬車回しまで歩いて行く。玄関に着くと俺の護衛役のルネが隊士を連れて俺を待ち構えていた。


「エリオ様、お待ちしてました」


「ああ、ご苦労さん。ルネは俺と一緒に馬車に乗ってくれ。他の隊士は俺の従魔と一緒に周りの警護を頼む」


 ほら、一応公式の任命式だから形もそれなりに整えないといけないんだ。俺としてはそういう形式張ったのは面倒なんだけどね。でも、将軍職の箔付けの意味もあるのでね。


 まあ、普段の俺はいつも通りに気軽に住民達と接するつもりだけどね。俺を狙う者が現れるかもって? 確かにそうだろうけど、俺には俺の考えがあるし従魔のコルとマナもいる。こいつらがいれば大丈夫。


 俺とルネが馬車に乗り込むと静かに馬車は動き出した。周りには馬に乗って前後を固めている隊士達。そして馬車の両脇には護衛としては最強の我が従魔が馬車の速度に合わせててけてけと歩いている。


「エリオ様よろしいですか。少しエリオ様にお尋ねしたい事があるのですが…」


 馬車が通りに出て暫く経つとルネが俺に声をかけてきた。


「俺に聞きたい事? いいよ、言ってみな」


「ありがとうございます。私がお尋ねしたいというのはエリオ様の従魔についてです」


「俺の従魔? コルとマナの事を聞きたいのか」


「はい、はっきり言ってあの二匹の従魔は桁違いの強さです。エリオ様はどこであの従魔を手に入れたのですか?」


「ああ、ここよりずっと東にあるシウベスト王国の田舎街で出会ったんだ。俺の従魔になったのは偶然というか、笑い話のようだがうっかり従魔になっちゃったみたいなものでね。それが今では俺の一番信頼する頼もしい家族であり相棒になってるという訳さ」


「ナダイの街で青巾賊を討伐する時に、エリオ様が私に大切な従魔を付けてくれたではないですか。あの時にエリオ様の従魔と一緒に戦ってみて感じたのですが、はっきり言って私よりも格段に強いと思いました。そんな強い従魔でさえ従えているエリオ様は尊敬してもしきれないほどです」


「従魔を従えているというよりも普段は家族同然で戦いの中では相棒の感覚の方が近いかな」


「私もエリオ様と誰もが認める深い間柄になれるように頑張らないと」


 誰もが認める深い間柄になれるようにというのが何を指してるのかわからないが、やる気があるのは良い事だ。頑張ってくれ。


「エリオ様、ご到着!」


 ルネと話をしているうちに軍本部へ到着したようだ。

 控室で準備をして任命式の会場の会議室へと向かっていく。

 部屋の中に入るとベルマンさんがいつになく緊張した面持ちで俺を待っていた。


 普段は滅多に見れないベルマンさんの真面目な顔つきだ。

 壇上に立ち、脇にいる配下から任命状を受け取って読み上げる。


「ベルマンよ。第六軍の将軍に任命する。期待してるぞ!」


「ありがたき幸せ。このベルマン、その期待に答えるべく一層奮起します!」


「緊張してるベルマンさんを見るのも珍しい。いい話の種が出来たよ」


「ガッハッハ、俺だって緊張する時はあるんだよ。仕方ないだろ!」


「とにかく、第六軍は頼んだよ。それとバルミロさんがベルマンさんによろしく言っておいてくれってさ」


「そうか、バルミロも将軍だもんな。俺も負けちゃいられねえぜ」


「ハハ、二人とも信頼してるからこれからも俺を支えてくれ」


「任せておけエリオ!」


 これで第六軍を率いる将軍の任命式も終了だ。

 それぞれの役割を果たして頑張ってもらいたいね。

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