第101話 馬の色
早いものでゴドールに金山が見つかってからかなりの月日が経った。
金の採掘は順調で製錬所などの関連施設も順調に稼働しており、毎日大量の金を生み出している状況だ。採掘場から近い街道からの脇道には作業員の宿泊施設が整然と立ち並び、そこにいる作業員目当てに多くの商店や飲食店、それに女の子がいる酒場なども店を出していて小さな街の規模になっている。
治安維持の為に軍の駐屯所も置かれていて、犯罪の防止や金の一時保管場所の警護などの重要な任務を任されていた。そしてソルンに経験を積ませる目的でゴドール金山駐屯部隊の副隊長をしてもらっている。駐屯部隊隊長に抜擢したのは俺の信頼するベルマンさんだ。
「ガッハッハ、どうしたエリオ! 今日は視察で来たのか?」
「まあね、そんなとこだよ」
「ところでよ、バルミロの奴は元気でやってるか?」
「バルミロさんなら元気にしてるよ。仕事が増えて面倒だと会うたびに俺に愚痴を言ってるけどね」
「ガッハッハ、あいつは斜に構えてるところはあるけど責任感が強い男だぜ。腕っぷしの強さはエリオも知ってるだろうし、何だかんだでバルミロは頼りになる男だ」
「ああ、言われなくてもわかってるよ。俺はバルミロさんもベルマンさんも信頼している」
「ヘッヘッヘ、それ以上に俺らはエリオを信頼してんだよ」
ベルマンさんはゴドール金山の駐屯部隊隊長。そしてベルマンさんの相棒と言ってもいいバルミロさんは第三軍まで規模を拡大した軍の第一軍の副将なのだ。将来の将軍候補だな。第一軍の将軍がカウンさん。第二軍の将軍がラッセルさん。最後の第三軍の将軍がゴウシさんという布陣だ。
多くの金が産出されてゴドールが安定的に豊かになるのを見越して軍の大幅な拡充を図った。金山が稼働してから半年でコウトやサゴイへなどへの借金は全て返済が終わった。第二段階として街と各種産業、そして軍への大規模な投資や整備を実行したのだ。金の産出だけでなく各種の産業も大きくしてゴドール地域全体の地力をつけておきたい。
ゴドールに金山が見つかったと噂や風の便りで知った地域からは、多くの人々が夢を求めて繁栄が約束されたこの地に押し寄せてきていた。軍の拡充は人口が増えたゴドール地方の治安維持の為という理由だが、俺の本当の目的はもう一つあったのだ。だが、今はまだその理由を明かすのはやめておこう。
それと並行して、各地の要所に駐屯所の建設も始めている。何か不測の事態が起こった時に拠点となるようにとの考えからだ。完成したらその駐屯所に守備隊を置いてその地域の警戒を担わせるつもりだ。
さっきは軍は第一軍から第三軍まであると説明したが、それ以外にも親衛隊があり、親衛隊の隊長は我が義弟のロドリゴなのだ。最初はここの駐屯部隊で役職を与えようと思ったが、俺の手元近くに置いといた方が軍だけでなく統治の経験も積めていいだろうと考えを改めて、新設した親衛隊の隊長に任命した。頑張れよロドリゴ、義兄として俺はおまえに大いに期待してるからな。
それと、近々第四軍の創設も視野に入れている。と言うのも、新しく登用した人の中に文官も武官も優秀な人材がいたからだ。その人達は追々紹介していこう。
もう一つ忘れてはならないのが軍の参謀の仕事の傍ら、俺の相談役を勤めるラモンさんには情報部隊を率いてもらっている。周辺地域の情報収集や情勢分析に加えて、それを纏めて内政や軍の方針に活かす重要な仕事だ。この情報部隊には選抜された優秀な人材が集められている。頼りにしてるよラモンさん。
「ソルンにもよろしく伝えておいてくれ」
「おう、あいつは普段無口だけど酒を飲むと饒舌になるんだよ。今日は鉱山の見回りに出てるぜ」
えっ、そうなのか。ソルンはずっと無口だと思ってたから結構意外な感じだ。普段は猫を被ってるのかな。
「君達も頑張れよ」
切りの良いところでベルマンさんと別れた俺は、そこにいた駐屯部隊の兵士にも労いの言葉をかけてその場を後にする。この後はグラベンに戻ってカレルさんと会わなくちゃいけないんだよな。
『コル、マナ。グラベンに戻るぞ』
『『はい』』
さて、俺は最近乗り始めた馬に跨がる。さすがに普段移動をするのに走ってばかりという訳にはいかないので移動用として馬を購入した。馬を購入する前にコルとマナからの提案で、従魔の二匹を並走させてその背中に俺が片足ずつ乗せて走らせるという試みをしたのだ。
その試み自体は股が裂ける事もなく抜群のチームワークで上手くいった。コルとマナは俺との一心同体ぶりを喜んでいたのだが、俺としてはいくらコルとマナからの提案とはいえ、従魔の背中にずっと足を乗せているのが気持ち的にどうしても可哀相でならないのでその移動方法は非常用に限る事にした。
白馬の背に揺られて街道を従魔と一緒に駆けていく俺。普段の俺の軍装が漆黒なので、さすがに馬の色まで黒にすると不気味な人になってしまう恐れがあったから馬の色は白馬を選んでみた。どうせなら馬の色まで黒で揃えたらと言う人もいたけど、俺はそこまで黒に拘ってないんだけどな。そしてこの馬だが通常サイズよりもかなり大きい馬だ。俺の持つ武器が重いので体つきががっしりとして筋肉質の足腰の強い馬を選んだのだ。馬の名前だが何となく頭に思い浮かんだ『ソラシ』と名付けた。
「ヒヒーン!」
街の入り口まで来たので、手を上げて門番に挨拶しようとしたら馬が俺の代わりに挨拶をしてくれた。門番も苦笑いしてるじゃないか。
領主館に到着すると愛馬を使用人に預けて俺は執務室のある本館に入っていく。本館で待機していた使用人に尋ねると、まだ約束の時間前だが既にカレルさんは到着して応接室で待っているらしい。ならば待たせるのも悪いので着替えるのをやめてこのまま行こう。
応接室のドアを開けるとカレルさんがソファーに座って俺を待っていた。
「やあカレルさん、もしかして結構待った?」
「大丈夫ですぜエリオの兄さん。さっき来たばかりですから」
「悪いね、あちこちに出張させてばかりで」
「いえいえ、俺の商会がここいらの水運を仕切ってるんで移動するのは楽なもんですよ。それに交渉役という大事なお役目を頂いてますからね」
そうなのだ、カレルさんは他の街などとの裏側の交渉を任せているのだ。表には出さない金のやり取りや交渉などをカレルさんに担当してもらっている。まあ、汚れ役と言ってもいいだろう。以前とは違ってコウトやサゴイよりもグラベンの方が資金量も軍事的にも上になったので、グラベン主導で周辺地域の方針が決められるようになってきている。
「水運を利用する商人達からの噂話や情報提供でこれといったものはある?」
「そうですね。北は青巾賊が暴れてるらしいですぜ。そのせいか、北の地域では商売の旨味がなくなってると言っておりやした。そもそも、危なくて商売どころではないというのが本音でしょうがね。それでも、住民達の為に商売を続ける商人もまだ多くいて、そいつらからはゴドールを治めるエリオの兄さんに何とかして欲しいという要請も出ておりやす」
「ありがとう。実際に現地を見ている商人達の情報は参考になるよ」
流通関係や商人の立場からの情報も価値があるからね。カレルさんとはたまにこうして意見交換をしてるんだ。まあ、後で飲み会になるのは仕方ないけどさ。
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