第100話 命名 ゴドール金山

 金鉱脈の発見から二ヶ月ほどが経過した。


 あれから技術者が山に入って詳しい調査をしたところ、もう一つ別の場所にも鉱脈があるのが見つかって、街でその調査結果を聞いた俺と配下達は嬉しい知らせに再び大喜びしたのだった。


 今は現地調査も済んで、現場には多くの材料や人材が派遣されて人々が一生懸命働いている。既に脇道から現場までの道が綺麗に整備され、製錬所や関連施設の建築も始まっている。出来るだけ早い稼働を目指して現場作業員を交代させながら、給金を弾んで交代制で昼夜ぶっ通しで建築整備作業をさせているところだ。


 それで発見された金山の名前だが、正式にゴドール金山と命名された。

 二つの鉱脈からなる金山で推定される埋蔵量は想像もつかないほどの量である事が調査で判明している。ゴドール地方の財政を楽に潤わせて長い間潤沢に支えてくれる収入源になるだろう。


 二つある鉱脈にも名前をつける事にした。

 名前をつけるにあたって俺の希望を無理に聞いてもらったのだが、一つ目は『マナ鉱脈』で後から見つかった鉱脈は『コル鉱脈』と名付けた。勿論、この金山を見つけるきっかけになった俺の従魔のマナの功績を称えたいからだ。そしてマナだけだと可哀相なので二つ目の鉱脈には弟のコルの名前をつけさせてもらったのだ。


 それを聞いたコルもマナも大喜びだったよ。そう、俺は親バカというか従魔バカなんですよ。可愛い従魔の名前が鉱脈の名前になれば、二匹の従魔の名前が歴史に残るじゃないですか!


 軌道に乗り出した金山事業はそれぞれ専門のプロ達が携わっているので、なにか問題が起きたとしても彼らに任せておけば何の心配もない。コウトやサゴイからも鍛冶や精錬に加えて地質や鉱物の専門家や技術者の支援を受けているので、とりあえず万全の体制が出来ていると思う。


 そんなこんなで無茶苦茶忙しいこの二ヶ月だったが、ここに来てようやく自分の時間が取れるようになってきた。今の俺の仕事は下から上がってくる報告を聞き、持ち込まれた書類などの決済をする業務が中心だ。


 それも、優秀なラモンさんや内政官達が俺を補佐したり代行をしてくれるので、俺の仕事量はそんなに大した量ではなくなっている。はっきり言って領主とはいかに優秀で信頼出来る配下や部下を持てるかが重要な要素だと思う。


 その理由として何でも自分一人で出来る訳ではないし、俺一人だけに頼るのは自分に何かあった時にリスクが大きいからだ。下の者が気分良く伸び伸びと自発的に仕事が出来るような環境を整える事で仕事の効率が更に良くなると思うのだ。


 さて、今日の分の決済を片付けた俺は、少し自由な時間が出来たのでお忍びでグラベンの街に出かける事にした。今回は従魔を連れて行かずに俺一人での外出だ。俺が出かけている間のコルとマナの相手は秘書官と妻を兼ねているリタとミリアムに任せよう。


「リタ、ミリアム。ちょっと街中に出かけてくるよ。従魔の相手をよろしくな」


「ちょっと何でよ。あたしも一緒に行っちゃいけないの?」

「エリオさん、私達は置いてけぼりですか?」


「いや、個人的な買い物の予定なんで普段着に着替えて一人で行こうと思ってね。ほら、君達も一緒だと美人で綺麗すぎて目立つんだよ。全然お忍びにならなくなるからさ」


「まあ、綺麗すぎるだなんて…」

「私が美人だなんて…」


「はっきり言うけど、君達はどんなに変装しても体中から美人のオーラが出まくっているからね。一方で俺はスキルで自分の存在感や気配を消せるので気づかれにくいって訳さ」


「うーん、何だか誤魔化されているような気がするけどいいわよ」

「仕方ないですね。留守中はコルちゃんとマナちゃんをモフってます」


「ありがとう、ちょっと行ってくる」


 俺は目立たない普段着に着替えて、領主館を出て念の為にスキルも発動しながら街中に飛び出した。普通に堂々と道を歩いて行くのだが、スキル効果で誰も俺に関心を寄せる者はいないようだ。


 領主館のそばには役所があって、ゴドールの行政全般の仕事はここで行っている。少し歩くとこの街の商店街があり、多くの店が軒を連ねていて街の住民達の買い物需要を満たしていた。


 服の仕立て屋もあれば日用品を売っている店もあり、地味な街ではあるが品物はそれなりの物が揃えられていて、店の品揃えに不満を覚えるような感じはしない。


「えーと、確かここの角を曲がったところだったな」


 俺は曲がり角を左に曲がって目的の店に向かって歩いて行く。


「ここだ。この店だったな」


 目の前には一軒のお店。この店が俺の目的の店だ。

 俺はスキルを切って店のドアを開けて店内に入っていく。


「こんにちは」


 俺が店の奥に向かって声をかけると、暫くしてから店の主人が俺の前に姿を見せた。そして俺の姿を見て少し考えた後、俺が誰なのか思い出したのか小走りに駆けてきた。


「これはこれは領主様。わざわざ当店へお越し頂きありがとうございます。この前も申しましたが、私共の方から領主館へお届けしなくてもよろしかったのですか?」


「ああ、それだと驚かせられないからね」


「そうで御座いますか。ところで、例の物は出来上がっておりますよ。出来栄えをご覧になってください」


 店主から渡された物を手に取って確認する。俺はあまり詳しくはないが、彫られた模様が緻密で素晴らしくて出来栄えには大いに満足だ。


「うん、素晴らしい出来栄えだと思う。職人さんにお礼を言っておいて」


「ありがとうございます。領主様に褒められるなんて職人冥利に尽きることでしょう」


 既に代金は前払いで支払い済みなので、俺は品物を受け取りその店を出た。そして、スキルを発動して領主館へと戻っていく。これで俺の外出の目的は完了だ。今から領主館に戻るのが楽しみで仕方ない。


 行きと同じように元の道を通って領主館に到着だ。スキルを切り門番に片手を上げて挨拶をしながら敷地の中に入り、庭にいる使用人にも挨拶をしてから本館の玄関を開けて建物の中に入っていく。


 余談だけど、コウトの街の借家から持ってきた草花は無事に植え替えが済んで、こちらの花壇で花を咲かせている。安心してくれよな。


 スタスタっと階段を上がって最初に執務室へ行ったが、リタとミリアムはここにはいないようだ。たぶん、住居スペースのある方にいるのだろう。そっちには寝室だけでなく従魔の為の広い遊び部屋があるからそこに行ってるのかもしれないな。


 そしてその部屋へ行ってみると、予想通りにリタとミリアムが従魔達の相手をしてくれていた。


「ただいま。今帰ったよ」


「あら、早かったのね。あたしはもう少し遅くなるかと思ってたわ」

「こんなに早く帰ってくるなら悪い事はしてなさそうですね」


「用事がすぐに済んだからね。それとミリアムよ、俺を何だと思ってるんだよ?」


「ごめんなさいエリオさん。冗談ですよ」


「ハハ、わかってるよ。俺も言ってみただけさ」


「ところでエリオは何を買ってきたの?」


「ああ、見せるつもりだけどその前に二人とも目を瞑ってくれないか」


「あたしが目を瞑るの?」

「目を瞑ればいいのですか?」


「うん、今から頼む」


 俺に指示されたリタとミリアムはその場で目を閉じた。

 しっかりと目を閉じているのを確認した俺は、さっき街の店で買って来た物を取り出して両手に持ちながらリタとミリアムに声をかけた。


「二人とも目を開けていいよ」


 俺の言葉に反応した二人がゆっくりと閉じていた目を開けていく。二人の目の前には俺の左右の手の平の上に一つずつ載せられている品物が目に映ってるはずだ。


「リタ、ミリアム。これが夫として妻の君達に贈る夫婦の証のプレゼントだ。遅くなったけど受け取ってくれ」


 そう、俺が買ってきた品物は指輪だったのだ。二人の指のサイズをそれとなく聞き出すのに苦労したがこっそり注文していたのだ。貴族と違って格式張った式とかは挙げないが、指輪だけは俺から自腹でプレゼントしておきたかったのだ。


「エリオ、ありがとう!」

「エリオさん、ありがとう!」


 指輪を手に取って大喜びする二人。そして、大喜びしている二人の指に俺がその指輪を嵌めてやる。実はもう一個指輪を作っていて、それは俺用の二人とお揃いの指輪だ。俺自身も指輪を自分の指に嵌める。


「二人とも似合ってるよ。俺とお揃いだからな」


「やったー! エリオ大好き!」

「エリオさんが大好きです!」


 そう叫びながら二人は俺に抱きついてきた。

 フフ、サプライズは成功したみたいだな。


 俺は二人を抱きしめながらこの胸に幸せを噛みしめる。そしてその夜、俺と二人の妻はとうとう男と女として深く結ばれたのだった。



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 あとがき


 おかげさまでこの物語も大きな区切りとなる100話目を迎える事が出来ました。ここまで本作品を読んで頂き誠にありがとうございます。ここまでお読みになって頂いた読者の皆様。まだの方は宜しければレビューの星の評価を入れて応援して頂けるとありがたいです。

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