第102話 目出度い知らせ

「ねえ、エリオ。そろそろ子供が欲しいな」

「エリオさん、私も子供が欲しいです」


「ブフッ!」


 いつものように夜の食事を三人でしていたところ、俺が果実水を飲み始めたタイミングでの二人の発言に思わず飲んでいた果実水を吹き出してしまった。


「ちょっとエリオ…何いきなり吹き出してるのよ。汚いわよ」

「エリオさん、真面目な話なんですから真剣に聞いてくださいね」


「ゴメン、真面目に聞くつもりだし俺は真剣だよ。あと、吹き出してしまったのはいきなりで驚いたからなんだ。悪かった」


 俺は備え付けのナプキンで口元を拭い二人に謝罪した。間が悪いと言うかタイミング的に果実水を飲み込む前だったので思わず吹き出してしまったのだ。


「それでさ、エリオは子供が欲しくないの?」

「エリオさん、あの時の私達の話し合いもそろそろ有効期限切れではないですか?」


 ミリアムが言うあの時の話し合いとは…


 以前、俺がリタとミリアムの二人に俺から二人への愛の証として指輪を贈った事があった。そしてその夜、俺はリタとミリアムと本当の意味での男女の関係になったのだ。リタとミリアムの体はとても素晴らしく、無我夢中で二人の体を求めてしまったのは男として当然の成り行きだった。


 まあそれはそれとして、二人との男女の行為は定期的に代わりばんこに俺が二人の部屋へ通う事によってその関係は普通に継続している。だが、最初に話し合った時に子供を作るのはまだにしておこうと俺の要請で封印していたのだ。とりあえず、方法としては色々とあるので封印はそんなに難しくはなかった。


 何故かというと前にも説明したかもしれないが、このゴドール地方の統治や財政基盤が安定してから俺の跡継ぎを作りたかったからだ。この地域の将来にまだ大きな不安がある中で子供が出来てもどうかと思ったのでね。


 でも、ゴドール金山の成功とそれによってもたらされる豊かな財政。今やゴドール地方は飛ぶ鳥を落とす勢いで発展を続けている。二人がもうこの地域に不安な要素がなくなってきたので、子作りを解禁してもいいのではないかと考えたのは流れとして当然だろう。


「俺だって子供は欲しいよ。男でも女でもいいけど、俺の血を受け継ぐ存在がリタとミリアムという素晴らしい女性との間に生まれてくるのは望むところだ。今までは俺自身の考えというか事情があって作ろうとはしてなかったけど、君達が子供が欲しいと言うのなら封印していた子作りを解禁して俺も頑張るよ」


「やったー! エリオ、いっぱいしようよ。出なくなるまで絞り尽くしてあげるからさ!」

「嬉しいです! エリオさんがもう無理と言っても私の技で強引に元気にさせますからね!」


 ああ……俺はどうなってしまうのだろうか。二人ともあっち関係は肉食系なんだよな。こりゃ二人の猛攻に備えて精力を蓄えておいた方が良さそうだな。


 ◇◇◇


 そして数ヶ月後。


「エリオ、あたし妊娠したみたいなの」

「エリオさん、私のお腹の中に赤ちゃんがいるみたいです」


 まさかのダブル懐妊。執務室にいた俺に二人からの爆弾発言だ。

 いや、まさかではなく心当たりがありまくりで予想通りの結果と言えるだろう。

 二人ともそれっぽい兆候が見られたので医師に検査してもらいに行った。そしてその結果二人の懐妊が正式に確認されたのだ。既に親族であるラモンさんとロドリゴにもその事実を伝える為に人を派遣したところだ。


「二人とも良くやった! とうとう俺にも子供が出来るんだな。この気持ちをどう表現していいのかわからないけどとにかく嬉しい」


「フフ、あたしとエリオの子供だよ」

「お腹の中の子供は私とエリオさんとの愛の結晶ですね」


 良かった。彼女達の度重なる攻勢を受けて最近の俺は人と会うたびに「頬がこけてきてるし痩せたんじゃないですか?」と心配されていたけど、その努力もようやく報われたようで嬉しいよ。


 こんなに綺麗で美しい二人のお腹に俺の子供がいるなんて本当に夢のようだ。底辺時代なんて生きていくのが精一杯で、妻を持つとか子供の親になるなんてまるで想像すらしてなかったもんな。


『主様、おめでとうございます』

『エリオ様、良かったですね』


『ああ、まだ生まれてくるのは先だけどな。子供が生まれたらおまえ達にも守ってもらうつもりだからよろしく頼むぞ』


『『はい!』』


 そこへミリアムの懐妊の連絡を受けたラモンさんが駆けつけてきた。


「エリオ殿、娘のミリアムがエリオ殿の子供を宿したという知らせを受けて飛んで来ましたが本当ですかな?」


「ええ、本当です。医師に検査をしてもらってお墨付きを貰ったようです」


「それは誠に目出度いですな。エリオ殿、おめでとうございます」


「ラモンさん、そんな折り目正しい丁寧な挨拶なんてやめてくださいよ。ラモンさんは俺のお義父さんでもあるのですから」


「確かにそうですが、エリオ殿は領主ですからな。正式なお祝いの言葉として言っておかないと」


「わかりました。ありがたく受け取っておきます」


 すると、バタンと部屋のドアが開いてロドリゴが執務室の部屋の中に入ってきた。


「エリオ義兄さん、うちの姉貴が義兄さんの子供を妊娠したって本当っすか?」


「ああ、リタのお腹の中には俺の子供がいる。医師にも確認してもらったから間違いないよ。一応、義弟のロドリゴにも知らせておこうと思ったので連絡させたんだ」


「やったじゃないっすか!  姉貴に会う度に義兄さんの子供を絶対に宿してやるんだってやる気満々でしたからね。ギラギラとした目をしながら僕に何度も語ってくるので若干引いていたんすけど僕も安心したっすよ」


「うるさい!  ロドリゴは何でそんな事までバラすんだよ!  恥ずかしいだろ」


「だって僕は姉貴の事で義兄さんに嘘はつけないっすよ」


「確かにロドリゴの言う通りにリタの目はギラギラしてたっけ。俺もその目にずっと圧倒されてたしさ」


「もう、やめて!」


「「「ハッハッハ!」」」


「とにかく、リタとミリアムには丈夫で元気な子供を生んで欲しい。二人とも頼むぞ」


 こうして皆と共に俺達は嬉しくも和やかな時間を共有したのだった。


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