第96話 今は暗い未来しか見えない

 当面の借金問題は解決したものの、俺が治めるゴドール領の根本的な財政事情はまだ全て解決した訳ではない。


 と言うのも、内政担当に話を聞いたりラモンさんに調べさせた調査結果を確認してみたところ、確かに前領主の散財などが借金の大きな原因ではあったが、それだけでなく元々ゴドール領の財政基盤は年によって収支がプラスになったりマイナスになったりと常に不安定な状態なのだ。


「まいったな」


 内政担当官が持ってきた資料とにらめっこをしながらあれやこれやと考えているが、こればかりはどうにもならないよな。いくら俺に統治統率者の称号があったところで無い袖は振れないし、何か特別な事が起きない限り急に好転する訳でもないんだよな。


 グラベンの内政官であるブラントさんとその部下達、そしてラモンさんを交えて色々と善後策を検討中だ。そして、ブラントさんが大きなため息をつきながら俺に説明を始めた。


「エリオ様、ゴドール地方の収入源の中心は穀物類などの売買で工業はあまり盛んではありません。コウトの街とサゴイの街の間は過去の歴史からも主要な街道が通って水運も栄えてきましたが、ゴドール地方は主要街道からは外れているだけでなく、火山跡も含めて山が多くて土地も使いづらい。そのせいかなかなか居住者も増えなくて税収も上がらないのです。平均的な給金もこの二つの街に比べると若干低めなので、目端の利く者はグラベンには来ずにコウトかサゴイを目指すというのが偽らざる現実なのです」


「そうやって丁寧に説明されるとこのグラベンが置かれている厳しい状況に納得出来ますよ」


 確かになぁ、若者などが働くにしても地味で特徴のない街や地域よりは、華やかで給金も高い地域や街を選びがちだよな。俺が以前に住んでいた片田舎のダムドの街も、目端の利く連中はもっと大きな街へ行ってしまって、残ってた連中はお山の大将気取りの二流どころばかりだった。ハハ、そういう俺はそれ以下の三流だったけどな。


「領主就任早々、エリオ様には頭の痛い話ばかりで申し訳ありません。エリオ様がこのゴドールの領主を引き受けてくれたからには、私もあなた様の為に精一杯努力をする覚悟ですので見捨てないで下さい」


 そう言いながらブラントさんが俺に頭を下げて謝罪してきたけど…


「ブラントさん、俺に謝罪なんていりませんよ。どうか頭を上げてください。俺はそれを承知でこのゴドール地方の領主の任を引き受けたのだからね。とりあえず、当面の金の問題はクリアしたから前向きに考えていきましょう」


「エリオ殿の言う通りですぞブラント内政官。まず、私達に何が出来るのか。このゴドール地方で何か独自の産業や名産品を作る事が出来ないか。今よりも収入を増やすにはどうしたら良いのかなど、それぞれが知恵を出し合っていきましょう」


 話し合ったところで状況がいきなり好転するはずもなく、地道な改革と産業の育成が必要なのは誰もが感じている。勿論、前領主のように浪費や散財するなんて俺はするつもりもない。現状を打破するような大きな収入源となる可能性のものが見つかればいいのだが。


 今日の会議は一旦お開きとして、後日にそれぞれが思いつくアイデアや提案などを持ち寄って検討する事になった。とりあえず、借金問題が落ち着いただけでも大きな進歩なのでそこだけは安心材料とも言えるか。


 領主館の会議室を出た俺はコルとマナの待つ自分の部屋に向かう。ブラントさんとその部下達は役所へ帰っていった。街の維持にかかる経費や費用をもっと削れないか検討したいらしい。


 自分の部屋のドアを開けて中に入るとコルとマナが俺をドアのすぐそばで出迎えてくれた。たぶん足音で俺が来るのに気がついたのだろう。


『コル、マナ。元気にしてたか?』


『お帰りなさい主様。元気は元気ですけどたまには広い場所で運動したいですね』

『お帰りなさいませ。私も元気ですが少しダイエットしようかと思ってるんです』


『俺も最近忙しかったからな。そのせいでどこにも連れて行けずにコルもマナも運動不足なのか。ところでマナはダイエットという言葉はどこで覚えてきたんだ?』


『はい、リタさんとミリアムさんがお二人で話しているのを聞きました。気を抜いて太ってしまうと体型が崩れてエリオ様に嫌われてしまうから、太らないように少しダイエットをしようかなとおっしゃってました。私もエリオ様に嫌われないように体型を維持しようと思ったのです』


 マナよ。それは考えすぎだって。俺はそんな事くらいでおまえ達を嫌いになんてならないぞ。でも、俺のいないところでリタとミリアムはそんな努力をしてるのか。従魔にまで影響を与えるなんて恐るべし。そうだ、明日は領内の個人的な視察と運動を兼ねて二匹の従魔と一緒に街の外へ出かけてみるか。


『コル、マナ。明日は朝早くからおまえ達を連れて街の外へ出かけるからな』


『やったー! 主様とお出かけだ!』

『ふふ、エリオ様と明日はお出かけなんて嬉しいです!』


 二匹とも喜んでるな。今は暗い未来しか見えないけれど、だからといって従魔にまで暗い気持ちを向ける訳にもいかない。それに、コルとマナをずっと部屋の中に閉じ込めておくのも可哀相だしな。はしゃぐ二匹を見ながら俺はそんな風に考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る