第85話 コウトに戻る途中でカレルさんと再会

 ロイズさんに聞いてみると、俺が領主になる土地はイシムの村付近でガリン河に合流するナイラ河を北西に遡っていくと着く場所だそうで、古い火山の跡がある場所らしい。作物は一応収穫出来るけど、これといった産業がないのでお世辞にも豊かな土地ではないのだそうだ。


「その地域はゴドール地方と呼ばれていてな。中心となる街の名はグラベンじゃ。おまえさんの住む予定の場所はそのグラベンの街だ」


 確かに聞いてみるとゴドール地方はあまり旨味がなさそうだ。そして、グラベンという街がその地域で一番大きな街でゴドール地方の中心か。どんな街なんだろうか。


 などと、ロイズさんの説明を受けて簡単ではあるがゴドール地方の知識も少しは身に付いた。まあ、実際に現地を自分の目で見てみないとわからないだろうから赴任してから領内を自分の目で調査しないとな。


 その後、二日ほどサゴイの街に滞在した俺はグラベンから来たブラントさんをロイズさんに紹介してもらった。ロイズさんを交えてブラントさんと話し合った結果、俺という人物を認めてくれたようで、ゴドール地方の領主に俺を推挙してくれるという確約を得た。


 ブラントさんはゴドール地方から全権を委任されているらしく、彼の決定決断が即ちゴドール地方の総意になるとの事。これで俺の新領主就任が決まったと言っても過言ではないだろう。


「それではエリオ殿、グラベンで再びお会い出来る日を首を長くしてお待ちしております。グラベンの街でもあなたの名前は住民達に知れ渡っていますぞ。ゴドールにも影響力を持つロイズ殿からの強い推薦もあり、何といっても過去にその名を馳せたというガウディの血を受け継ぐエリオ殿なら血統的にも申し分がない。立場が人を作ると申しますし、あなたならきっと期待に答えてくれるでしょう。私もこの大役を果たせて安心しましたよ」


 そう言ってブラントさんはグラベンの街へ帰っていった。色々と俺の受け入れ準備をしなければいけないらしい。俺もそろそろサゴイを離れて俺自身の準備をする為にコウトの街に戻らないとな。部隊長を辞めるので引き継ぎやら後任決めとかやる事がいっぱいある。


「ロイズさん、俺もコウトに戻ります」


「そうか、それならわしが書いたこの書簡を持っていくがいい。レイモンやコウトの街の有力者に宛てた書簡じゃ。サゴイとコウトは街の間で強い協力関係があるからな。おまえさんがゴドール地方の領主になったらグラベンも含めて三つの地域で協力関係を築きたいのだが了承してもらえるか?」


「勿論ですよ。二つの街に協力してもらえればゴドール地方の安定度が跳ね上がりますからね。俺としては何よりも心強いですよ」


「おまえさんが領主に就任してからになるが協定を結ぼう」


 という事で、サゴイでのロイズさんとの再びの出会いは驚きだけではなく、それに加えて俺の将来に関わる重要で大きな節目となった。ガウディという名が持つ過去の歴史や先祖の活躍と、ガウディ家に恩があるというガルニエ家を受け継ぐロイズさんの俺に対する親身な対応の理由など。


 どれもが俺が初めて知る内容であり、偉大な先祖を持つガウディの名を受け継ぐ俺の肩に歴史の重みがずしんと覆い被さって来るが、それよりも領主になるというそれ以上の期待感が俺を包んでいた。


 それぞれの人達に渡す書簡を受け取り、ロイズさんの居館を後にしてコウトへの帰途に就く。ここへ来た時と同じように今度はサゴイの街から石畳の道を通り桟橋のある場所に向かう。既に桟橋には船が繋がれていて荷物の積み込みもほとんど終わっているようだ。


『コル、マナ。また船に乗って帰るぞ』


『船に乗るのも慣れましたから帰りも楽しみです』

『エリオ様、あの船は見覚えがありますよ。行きと同じ船ではないですか?』


 桟橋に繋がれた船をよく見てみると、マナの言った通りに見覚えがある船だ。それだけでなく、船で作業している船員達にも見覚えがあるぞ。そして、見知った船員の一人が俺に気づいたようで声をかけてきた。


「エリオの旦那、お帰りですか?」


「ああ、帰りも君達の操船する船みたいだね。よろしく頼むよ」


「へへ、テントの用意をしてくれって頼まれたもんでそうじゃないかと思ってましたぜ。帰りも大船に乗ったつもりで俺達に任せてくださいよ。まあ、実際に大船なんですけどね。ガハハ!」


 コルとマナを連れて船に乗り込むと、前と同じようにテントが張ってあった。


「俺と従魔はこのテントでいいのかい?」


「そうですぜ、エリオの旦那」


 やっぱりそうだったか。テント席も慣れると意外と悪くないんだよな。

 そうこうしてるうちに出航の準備が整ったようで、鐘の音と共に船は静かに桟橋から離れガリン河にその大きな船体を委ねていった。


 帰りの日程も行きと同じで途中の中継地であるイシムの村に寄り、そこで荷物の積み替えなどをした後、翌日にコウトの街へ向けて出航する予定だ。


 そして、船に揺られながらどんどんと進んでいって今日の目的地のイシムに到着した。そういえば、イシムには俺と兄弟分になったカレルさんがいるんだよな。あの時は半ば勢いで兄弟分になってしまったけど、冷静になったカレルさんから解消される可能性も考えられるな。


 イシムの桟橋に船が横付けされて、先に数名の船員が降りていって暫く待たされた後、ようやく乗客の俺達もイシムへの下船許可が降りた。先に降りた船員が慌ただしげに村の方へ走っていったけど何かあったのかな?


 船を降りて村の方へ歩いていくと、向こうの方から誰か勢いよく走ってくる。


「エリオの兄さん! 俺です、カレルですぜ!」


 あっ、厳つい人が俺の方へ走ってくると思ったらカレルさんだ。あの口ぶりだとまだ俺とカレルさんの兄弟分の契りはしっかりと継続してそうだ。


「カレルさん走ってきてどうしたんですか?」


「さっき俺の子分からエリオの兄さんがイシムに立ち寄ってると連絡が入ったもんでね。取るものもとりあえず駆けつけたって訳なんでさ」


「カレルさんが俺の事を覚えていてくれて嬉しいですよ」


「何を言ってるんですかいエリオの兄さん。あんたは俺の兄貴分じゃないですか。覚えてるも何も俺と兄さんの兄弟分の関係は一生変わりませんぜ」


 カレルさんにとって俺との兄弟分は形式的なものなのかと思ってたけど、このカレルさんの本気度具合を見る限り本物のようだな。ならば、俺もそのつもりで真面目に接した方がいいのかもしれない。


「ありがとうカレルさん。後で酒でも一緒に飲もうよ」


「へへ、そうこなくっちゃエリオの兄さん」


「じゃあ、俺が宿を決めた後でどこか良さそうな酒場に連れて行ってよ」


「それなら俺がよく行く酒場にしましょう。兄さんが宿を決めたら案内しやすぜ」


 当初の予定にはなかったけど、今日はカレルさんとの飲み会になりそうだ。


『悪いな。コルとマナも付き合ってくれよ』


『はい、大丈夫です。でも、僕には果物をくださいね』

『エリオ様の頼みですから私もお付き合いさせて頂きます』


 ああ、本当に良く出来た子達だ。

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