第79話 目的地サゴイに到着
ようやく船旅を終えて桟橋に船が横付けされたので、俺と従魔達は船から下船してサゴイの地に降り立った。
「エリオの旦那、行ってらっしゃい。お帰りがいつになるのか知りませんが、またこの船に乗る機会があったら俺達船員一同歓迎しやすぜ」
「ありがとう。帰りもイシムを経由して戻る予定だから、もしもカレルさんに会ったらよろしく伝えておいてくれ」
「わかりやした、エリオの旦那」
二日間の船旅だったが暇な時間も多かったけど結構楽しめたな。イシムの村ではカレルさんという兄弟分を新たに得る事が出来たしさ。あの人はイシム周辺の元締めで束ね役みたいだし、何となくだけど俺の力になってくれて近い将来に大きく関わってくるような気がする。
船員達に手を振って桟橋を後にした俺達はサゴイの街中に向けて歩き始めた。河の岸辺から街の中まで一直線の石畳の道が続いており、おそらくだが重い荷物を乗せた荷馬車などが泥濘にはまらないように通りやすく整備してあるのだろう。こういうのって普段は気に留めなくて当たり前の風景なんだろうけど、そうなった背景を考えると参考になるよな。これに限らず、それが当たり前のものだと普段は見慣れている風景の中にも先人達の努力と工夫と苦労があるはずだ。そんな先人達には感謝の言葉を贈りたいね。
石畳の道を他の下船した客達と一緒に歩いていくと目の前にサゴイの街の入り口の門が見えてきた。サゴイの街もコウトと同じように周りが石壁に囲われていて外敵の侵入から防げるようになっているな。
門番にカードを提示すると従魔の登録チェックをされたが、大して待たされる事もなくすんなり街の中に入れた。門を潜って街中に一歩を踏み出しぐるりとサゴイの街並みを眺めてこの街の雰囲気を味わう俺。
「パッと見た第一印象だけど街の雰囲気が独自で面白そうだ」
街の中央に向けて続く大通りは桟橋から街への道と同じく石畳が敷かれていて、両脇には街路樹が植えられているせいかどことなく洒落た雰囲気だ。面白いのは建物の壁が色とりどりで白い壁はもちろんあるが、その他にも青や黄色だけでなく赤や緑などもありとてもカラフルな街並みだ。
屋根の形も丸かったり尖っていたりと、形が様々で見る者を飽きさせない。サゴイ独自の建築文化でもあるのだろうか。初めての感覚で何となく心がウキウキしてくる。
『コル、マナ。おまえらって色の違いがわかるんだっけ? それとこの街の雰囲気はどうだ?』
『主様、僕達は人と同じように色の違いがわかりますよ。この街の雰囲気ですが明るい感じがします』
『壁の色がそれぞれ違っていて面白い街ですね。邪悪な気配が感じられないので安全な街のように思えます』
今まで口にして確かめる機会がなかったけど、うちの従魔達は人と同じように色の違いを認識出来ているんだな。これなら敵と味方を間違う心配もないし、普段の生活でも人と接するのと同じように色彩感覚を共有出来そうだ。
コルとマナは幻狼犬種で基本はたぶん犬型の魔獣だから、手懐けた後は人とは抜群の相性を持っていると思われる。今までの付き合いでこの二匹が人懐っこいのは証明されてるからな。
今更ながら思うけど、手懐けた魔獣がコルとマナの姉弟で本当に良かったと心から感じてる。もう二度と会う機会はないだろうが、俺に胡散臭い干し肉をくれたあの流れの行商人のおっさんには本当に感謝しないとな。
さて、もうすぐ日暮れの時間も近い。差配人の住む居館への訪問は明日の予定だし、とりあえず今晩の宿を探すのが先決だ。道行く人に宿はどこらへんの地区にあるのかを尋ねると、ここから右方向の近い場所にあるよと教えてもらった。河の桟橋から近い事からも船で来るお客を想定してるのだろう。そことは別に北西側にも宿が固まっている地区があって、そちらは北西方面からこの街に繋がる街道があるかららしい。
右側に向かう道を歩いていくと、すぐに宿が立ち並んでいる地区に到着した。従魔も一緒に泊まれる宿がないかと探すと、運良く二軒目の宿が従魔歓迎の宿だった。えーと、宿の名前は『この壁を越えていけ亭』か。変わった名前の宿だが泊まると何かの試練があるのかな?
宿泊の手続きをして部屋に行くと結構いい部屋だ。中型までの従魔なら余裕で過ごせるだけのスペースもあるし、出てきた食事も旨かった。その日は明日着ていく正装服のチェックをしてそのまま就寝した。
翌朝、窓から差し込む朝日の光で目覚めると、軽い朝食を取って今日の差配人との面会の準備をする。後は正装に着替えてこの街の事実上の支配者である差配人の居館に訪問する予定だ。しかし、宿の名前は一風変わっていたけど、泊まってみると結構いい宿だった。試練もなかったし見た目や名前だけで判断しちゃいけない良い教訓になったよ。
宿の人に差配人の居館の場所を聞いてみると街の中央部にあるらしい。「大きくて目立つ居館だからすぐにわかるよ。まあ、行ってみてのお楽しみだから詳しくは言わないけどね」と言われたので道に迷う心配もないだろう。宿の人にお礼を言ってチェックアウトした俺はいつものように従魔を左右に従えて差配人の居館を目指して歩いていった。
『コル、マナ。おまえ達から見て俺の正装姿はどうだ?』
『うーん、よくわかりません。僕は黒ずくめの主様の方がいいです』
『人族の服は私にはどれも似たように見えますが、今日の服は何となくいつもより品が良いように感じます。私は好きですよ。うふふ』
姉弟でもセンスの違いがあるんだな。どちらかというと、コルよりもマナの方が服を見るセンスがありそうな気がする。
暫く歩いていると街の中心部に近づいて来たのか大きな建物が目立つようになってきた。前方に見える建物が周りの建物よりも一際大きいので、たぶんあれが差配人の居館で間違いないだろう。壁に大きな絵が描かれていて更に目立っているぞ。
居館の正門と思える場所に到着したので、そこの脇の小屋の前にいた立番の門番に来訪目的を告げる。門番は「確認してくるので少々待ってほしい」と言い残し、同僚の門番に後を任せて居館内へと消えていった。
少し待たされたが、さっきの門番が一人の男を連れて戻ってきた。身なりが良いので居館内で何かの役職に付いている人かもな。
「お待たせしましたエリオット・ガウディ様。差配人がお待ちしておりますので私がエリオット様と従魔達をそこへご案内致します。申し遅れましたが私の名前はシュワルツと申します」
「よろしくお願いしますシュワルツさん」
シュワルツさんに案内されて従魔と共に居館の中に入っていく。扉を抜けると大きな広間があり、そこには彫像や絵画が飾られていて俺は素人ながらもそのセンスはなかなかのものだと思った。
広間の向う正面にある大階段を昇り、二階にある応接室らしき部屋にに通された。これから差配人を呼んできますから部屋に中にあるふかふかのソファーに腰掛けて待っていてくださいと言われたので、従魔を足元の両脇に侍らせて言われた通りにソファーに腰掛けて差配人が来るのを待つとしよう。
給仕係の女性がワゴンにティーセットを載せてやってきて、俺に紅茶を出していった。そして、出された紅茶に口をつけて待っていると応接室のドアが開かれる音がしたのでそちらを向くと、そこには初老に差し掛かった年齢の人物が立っていて俺の顔を見るや否や口を開いてこう言った。
「久しぶりだな、エリオット・ガウディ君。ようこそ我が居館へ」
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