第63話 張り込みが始まる
統括官のお墨付きも頂いて準備を整えた。
後はゆすりたかりの脅迫恐喝野郎が網にかかるのを待つだけだ。
いつもより早い時間に業務を終えて第三部隊の執務室を後にする。
そうだ、その前にリタ達にも伝えとかないとな。
「リタ、ミリアム。暫くの間だが俺は外の仕事であの家に戻らないつもりだ。だから俺の食べる料理は作らくていいよ」
「うん、わかってるよ。さっきちょっと教えてもらったアレの件だろ。留守中のエリオの家の事はあたし達に任せておきな。花壇の世話も心配いらないさ」
「エリオさん、留守中は私とリタさんで部屋の掃除も欠かさずにしっかり管理しておきますからね」
俺はわざわざ俺の家に来なくてもいいよという意味で伝えたつもりなんだが、彼女達の解釈では留守中の家の管理は自分達に任せておけという認識らしい。まあ、花壇の世話も掃除もありがたいので俺としては何も言う事はない。
今度こそ執務室を後にしてコルとマナを連れて駐屯所を出る。これからモリソン商会に向かうつもりだ。一応、念の為に遮断スキルを発動しながら最短距離の道筋では行かずに、わざと複雑な道順を通りながら商会を目指す。
『コル、マナ。誰かに尾行されているような感触はあるか?』
『いえ、今のところは大丈夫です』
『私の意見も弟と同じです。尾行されていません』
なら、安心だ。しかも、この二匹は素の能力で自分の気配と存在感をほとんど消せるしな。そうこうしてるうちに目的地のモリソン商会の裏口に到着した。周囲に誰もいないのを確認してスキルを解除しながらドアを三回叩いた後に一拍置いて二回叩く。暫くすると裏口のドアが開いて、この商会の従業員とみられる年嵩の男が手招きをして俺達を中に入れてくれた。
「エリオ様ですね。モリソン様から伺っております。こちらへどうぞ」
年嵩の従業員に案内されたのは一つの部屋でベッドや椅子などの調度品が置かれたかなり広めの部屋だった。
「エリオ様、商会に滞在中はこの部屋をお使いください。従魔も部屋でくつろげるように来客用の大きな部屋を用意しました。何か御用がありましたら突き当りの部屋に私が常駐しておりますので何でもお申し付けください。後ほどモリソン様がエリオ様に挨拶に来る予定です。あと、対象の人物がこの商会に現れたらすぐにエリオ様に教える手筈になっております。最後に私の名はグラハムと申しますのでどうかよろしくお願い致します」
「こんな良い部屋を用意してくれてありがとうございます。俺と従魔が暫くの間この商会に滞在させて頂きますのでこちらこそよろしくお願いします」
俺がお礼を言うと、グラハムさんは一礼して部屋を出ていった。
説明しよう。俺は今日からモリソン商会に泊まり込んで、二人組の脅迫ゆすり野郎がこの商会に来るのを待ち構えているのだ。商会内の部屋を提供してもらい、その部屋に夕方前から詰めて翌朝までいる予定だ。二人組がいつ来るのかわからないので暫くの間はここに泊まり込む事になるだろう。
脅迫と恐喝の現場を直に見て、脅し取った金をどこに持ち帰るかを確認したい。そこでこっそり尾行するのに役に立つのが俺の遮断スキルという訳なんだ。相手の住んでいる家や拠点が判明したらその次の手段を行使するつもりだ。
とにかく、いつ来るのかわからないので本来は四六時中気が抜けないのだが、そこは俺には優秀な従魔達がいるので役割分担をするから心配していない。
『コル、マナ。この部屋の居心地はどうだ?』
『はい、まだちょっと落ち着かないです』
『私もまだ慣れませんが静かで良い部屋だと思います』
さすがにこの部屋には来たばかりだしな。俺も含めて慣れるまでは暫くかかりそうだ。だけど、今までの経験から俺も従魔もどこでも寝られる図太さは身に付けているので慣れてしまえば問題はないだろう。
一通り部屋の使い勝手を確かめたタイミングで部屋のドアがノックされた。さっきグラハムさんが言ってたのを思いだした。たぶん商会主のモリソンさんを連れて来たのだろう。俺は身だしなみを整えドアを内側から開けた。すると、予想通り商会主のモリソンさんがそこに立っていた。俺は充てがわれた自室内にモリソンさんを招き入れ挨拶をした。
「モリソンさん、暫くの間ですが従魔と一緒に厄介になります」
「エリオ隊長殿が我が商会に密かに滞在してくれるのは私どもにとって非常に心強いです。こちらこそお手数をかけて頂いて申し訳ありません」
「後は例の奴らが再び現れるのを待つだけです。モリソンさんはこの前の打ち合わせ通りにやってください」
「承知致しました。エリオ隊長殿、どうかよろしくお願いいたします」
その日から俺のモリソン商会での張り込みが始まった。さすがに初日からは現れなかったな。そして二日、三日と張り込みは続いていく。奴らはなかなか現れない。
俺はこの商会で待っている間は、持ち込んでいる部隊の書類をチェックしたり、カウンさんやラモンさんから回って来た書類に目を通して確認などをしている。
そんな持ち込み仕事が終わるとコルとマナを相手にモフ分補給だ。
ブラッシングをしながら綺麗な毛並みを撫でていると、今が張り込みの最中だなんて忘れてしまいそうだが、そこはしっかりと弁えているつもりだ。本当だからな。
『コル、マナ。退屈だろうけど我慢してくれよ』
『いえ、僕は主様と一緒なら退屈ではないです』
『私達にとってこれくらいの時間は大した時間ではありませんのでエリオ様はお気になさらずに』
そんな日々が続いた五日目の宵の口の時間だった。
廊下から小走りに駆けてくる足音が聞こえ、俺の滞在している部屋のドアがノックされた。ドアを開けるとそこには緊張した顔のグラハムさんが立っていて俺にこう告げた。
「エリオ様、例の連中が来ました。今、モリソン様が対応しています」
そうか、とうとう脅迫恐喝野郎達が現れたのか。
「わかりました」
俺は逸る気持ちを抑えながら静かに返事をした。やっと俺の出番がやってきたようだ。
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