第64話 金を脅し取りに来た二人組

 モリソン商会で張り込みを続けてから五日目。従業員のグラハムさんからこの商会に脅迫恐喝野郎がとうとう姿を現したとの報告を受け、俺は準備を整えた後でグラハムさんに案内されコルとマナを連れながら静かに移動する。


 今現在、商会の応接室でモリソンさんが金を脅し取りに来た二人組の相手をしている最中だ。俺はその応接室の入り口からは曲がり角のおかげでドアの場所が死角になっている隣の小部屋にそっと入っていく。面白い作りの部屋割りだが今回はそれが役に立っている。グラハムさんは俺をその小部屋に案内した後、二人組に悟られないように自分は通常業務に戻っていった。


 そして、この作戦を実行するに差し当たってこの小部屋にも細工がしてある。壁に小さな穴が開けられて応接室が覗けるようになっているのだ。勿論、向こうからは開けられた穴が見えないようにしっかりと偽装済みで気づかれる可能性はほぼない。こちらの部屋は応接室とは違って暗いので灯りが向こうに漏れる心配もない。


 後はこの穴から俺が二人組の風体を確認して、モリソンさんから金を脅し取った二人組がこの商会を出た直後にこっそりとアジトや隠れ家まで尾行する手筈になっている。


 素で非常に高い気配遮断の能力を持つコルとマナは大人しく座って気配を消していて俺も遮断スキルを発動中だ。俺はそっと壁に近づき小さな穴を覗き込んだ。開けられた穴からは斜め方向から応接室の中が良く見える。モリソンさんがこちらに背を向けて座っており、その対面に座っている二人組の男の顔もこちらからしっかりと確認出来た。


 二人組の顔を見たが俺の第三部隊では見ない顔だ。俺は部隊長として隊員の顔と名前が一致するように全員分覚えている。俺は底辺時代を経験してるから、その実体験を通じて隊員によって出来るだけ分け隔てが出ないようにする為に必死に覚えたからな。だとすると、この二人組が本当にこの街の部隊に所属しているのなら第一部隊か第二部隊に所属している可能性が高い。こんな状況下で不謹慎かもしれないが俺の部隊員じゃなくて安心した。


 穴を覗きながら聞き耳を立てると微かだが会話の内容が聞こえてきた。コルとマナもこの部屋に連れて来たのは人よりも聴覚が鋭い二匹に応接室の会話の内容を覚えさせるのが目的だ。この二匹は賢いだけでなく他の能力も高い。


 二人組のうち、一人の男がモリソンさんに話しかける。


「おいモリソンさんよ、悪いけどまた金の融通を頼むぜ。前にも言ったけど金を出さなかったらどうなるかわかってるよな? あんたも自分の命や家族の命が惜しいだろ」


「私どもの商会も金が無限にある訳ではございません。今回限りでご勘弁して頂く訳にはいかないでしょうか?」


 モリソンさんの言葉を受けて、今度はもう一人の男が話し出す。


「そんなの知らねえな。あんたは俺達の要求に従って黙って金を出してりゃいいんだよ。いつ終わるかなんて俺達の方が決めるのであってあんたに決める権限はねえ。俺達の為にせっせと商売で金を稼ぐのが唯一のあんたの仕事だ。四の五の言わずにさっさと金を出しな。それとも今すぐ殴られたいのか?」


「わ、わかりました。少しお待ちを…」


 モリソンさんはそう言うとドアを開けて応接室を出ていった。二人組に渡す金を持ってくる為だ。モリソンさんが一旦応接室を出ていった後、二人組の男が下卑た笑いを浮かべながら会話を始めた。


「フン、最初から大人しく金を出してりゃいいのによ」

「全くだぜ、どうせ渡す羽目になるのに抵抗しても無駄でしかないのにな」

「しかし、金を脅し取るのもチョロいもんだぜ」

「確かにな、命が惜しくないのかと脅せば簡単に金を出すからな」

「あの人も上手いしのぎを考えたもんだぜ」

「ワハハ、賊徒と比べてもどっちが悪党かわかんねえよな」

「分け前も貰えて俺達も遊ぶ金に困らねえしな」

「ああ、その通りだぜ。脅せば楽して金が手に入るのだから一度味を占めると止められなくなるよな」


 隣の応接室から聞こえてくる二人の会話はいかにも脅し慣れてる感じだ。

 少し経つと再び応接室のドアが開かれて布袋を持ったモリソンさんが部屋の中に入ってきた。あの布袋の中に二人組に渡す金貨が入っている。


「お待たせしました。この布袋の中に金貨を入れて持ってきました」


 男達は布袋の口を開いて中に入ってるのが金貨だと確かめると、席から立ち上がって捨て台詞を吐く。


「また来るからな、誰にも言うなよ。わかってるだろうな?」

「ハハハ、最初からこうして金を素直に出せばいいんだよ」


 そして、二人組は勝ち誇ったような態度で応接室から出ていった。


『コル、マナ。二人組が商会を出たら尾行を始める』


『主様、了解しました』

『エリオ様、何かあったら私達に指示をお願いします』


 二人組の気配が遠ざかったのを確認して俺は小部屋からそっと出ていく。丁度モリソンさんも応接室から出てきて俺の姿を確認すると、二人組に開放されてほっとした顔を見せながら俺に声をかけてきた。


「エリオ部隊長殿、二人組は表から出ていきました」


「はい、モリソンさん後は俺に任せてください」


 俺はモリソンさんにそう告げて二人組の尾行を開始した。

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