第62話 根回しと準備
翌日の朝になった。
俺はいつものように身支度を整え、リタ達が作った朝食を食べていつもより早く駐屯所に向かった。部隊駐屯所の第三部隊に着くと、いつも通り既に出勤していて執務室にいたラモンさんに大事な話があると伝え、コルとマナを残して執務室の横にある応接室に誘う。そして丁度その場に朝の報告に来ていた部隊員に副隊長のカウンさんを呼びに行かせた。カウンさんは官舎住まいなので、在宅していればそんなに時間がかからずに来るだろう。
俺が昨日の経緯を簡単に話すとラモンさんはとても驚いて絶句してしまった。だが、すぐに思考を取り戻して俺にもっと詳しい事情を話してくれと要求してきた。
「ラモンさん、二度手間になるのでカウンさんがここに来てから話した方がいいでしょう。なので、もう少し待ってください」
「確かにエリオ殿のおっしゃる通りですな。私とした事が気が急いてしまったようだ。カウンが来るのを待ちましょう」
ラモンさんの気持ちもわからないではない。俺だって直接その話をモリソン商会の商会主に聞いた時は驚いたもんな。事が重大なだけに落ち着いて進めないとな。
応接室で暫く待っていると部隊員に呼びに行かせたカウンさんが姿を現した。何事があったのかという疑問を浮かべた緊張した表情だ。
「兄者よ、教えてくれ。何があったのだ?」
俺はカウンさんにまず椅子に腰掛けるように促した後、ラモンさんとカウンさんに昨日の出来事について詳しい説明を始めた。俺の説明を聞く間、二人とも眉間に皺を寄せて静かに押し黙ったままだ。二人に対して詳しい説明が終わった後、俺は自分が考えた策を目の前の二人に打ち明けてみた。
本来なら自分が持っている存在気配遮断スキルは安易に他人に漏らすべきではないが、この二人になら知られても構わないだろう。
「なんと、エリオ殿はそんなものまで身に付けているのですか。それならば成功確率は高いと思われます」
「兄者の強さは底が知れない。それがしも精進しないといけませんな。兄者の考えついた策はそれがしも上手くいくと思います。ただ、念の為にそれがしやカウンに伝える手段を確保しておいてください」
「それで暫くの間、出来るだけ俺に自由な時間を与えて欲しいんだ。商会主に聞いた話だと、商会に金を脅し取りに来る二人組は過去二度とも夕方から夜にかけての時間に来ている。だから、俺は夕方前から商会に行って張り込みをしたいんだ。もしも昼の間にその二人組が来た時にはすぐに俺に知らせるように頼んである。あと、何かの時の伝達手段は俺の従魔を使うつもりだ。あの二匹は頭も良いしね。作戦期間中はカウンさんもラモンさんも部隊にいない時は家か官舎にいて欲しい」
「わかりましたエリオ殿」
「お任せあれ兄者よ」
二人には俺の考えた策を了承してもらった。次なるは統括官のところにこの話を持っていく番だ。今の段階では誰が犯人で後ろにどんな黒幕がいるのかも判明していないので、俺はもう一つの腹案を考えている。これが通ればおそらく統括官はこの件には無関係で白だろう。
「これから統括官にも事情を話しに行くので二人とも一緒に付いてきてくれ」
「ご一緒させてもらいますエリオ殿」
「それがしも兄者と共に統括官の元へ行きましょう」
応接室を出るとリタとミリアム、そしてラモンさんの部下の人が勤務を開始してたので、リタとミリアムにコルとマナの相手を頼んだ俺はカウンさんとラモンさんの二人を伴い統括官がいる本部に向かって歩いて行った。
本部の統括官室に到着したので統括官の部下に俺達の来訪を告げると、統括官は執務室にいるらしく俺達はすぐに部屋の中に案内された。レイモン統括官は俺達を出迎えながら口を開いた。
「エリオ第三部隊長、それにカウン副隊長に参謀のラモン君まで……第三部隊のトップが三人揃ってこんな朝早くからどうしたんだい?」
「はい、実はこんな問題が起こってるんです」
カウンさん達にも説明した今回の経緯を統括官にも順を追って話していく。俺の話が進むに連れて統括官の眉間にも皺が寄り始め、ところどころ目を閉じながら俺の話す説明を最後まで聞き終えてくれた。
「うむ、それが事実なら自治部隊にとって重大な汚点になるだろう。暴力だけでも頭が痛いところに今度は脅迫を伴った金の脅し取りとはな。それで、エリオ第三部隊長はこの問題をどうしようと思っているのだ?」
統括官の問いに対して、俺はさっきカウンさんとラモンさんに話して了承してもらった策を俺のスキルの部分は伝えずに統括官に打ち明ける。統括官も現状でそれが最善だと思ったのか悩みながらも了承してくれた。後は俺自身の身を守る為の保険を引き出すだけだな。
「そこで統括官にお願いがあるのですが」
「何だね?」
「はい、この問題を解決する上で俺に特別監察執行官として期間限定で全権を与えて欲しいのです。つまり、相手が誰であれ摘発や拘束、そして懲罰を特別な立場で執行する権利を与えてください。どうかお願いします」
暫く悩んでいた統括官だが、部隊内の荒療治をするのに何の権利もない者が動いても意味がないと思ったのか、考え込んだ末にそれも了承してくれた。
「よかろう、エリオ第三部隊長に全権を与えよう。これは仮に私が犯人だった場合にも適用される。解決に向けて頑張ってくれ」
「ありがとうございます統括官」
統括官はその場で俺にこの問題が解決するまでの期間限定で全権を与えるとの書類を書き、自分の名前を署名して正式な公式文書となった書類を俺に渡してくれた。これで統括官はこの問題に関わっていない確率が高い気がする。これは統括官でさえも、この件で悪事を働いていたら俺が摘発や拘束、そして懲罰を与えられる権限だからな。
よし、これで根回しと準備は大体完了だ。
後は俺の働き次第といったところだな。
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