第61話 美女相手に効果の最終検証
備品調達の用事で商会へと行った俺は、その訪問先の商会で部隊を名乗る二人組の男が脅迫を用いたゆすりたかりをしている事実を知った。
これは何とかしなければと思い立った俺は商会に協力してもらってある策を思いつく。そしてその打ち合わせが済んで自分の借家に帰ってきた俺は家の灯りがついているのを見てリタかミリアムがいるのだろうと確信し、商会から借家に戻る道すがら密かに検証していたある事をリタやミリアムにも通用するかどうかをここでも試してみようと思いついた。
『コル、マナ。ここからは俺だけ家の中に入っていく。ここに来るまでに試していた事の最終検証だ。悪いけどコルとマナは外で少しの間待っていてくれ』
『主様わかりました。リタさんかミリアムさんにも試すのですね』
『エリオ様、おそらくあのお二方にも滅多な事では気づかれないと思います』
フフ、従魔からも太鼓判を貰ったからきっと上手くいくだろう。
『じゃあ、少しの間待っていてくれ』
俺はコルとマナにそう命じると、存在気配遮断スキルを有効にしたまま家のドアの鍵を音を立てないようにそっと開けてスルッと家の中に入り込む。この感じ、やった試しはないけど気分は泥棒さんだな。その場で家の中の気配を探ると台所の方から一人の気配、そして二階の俺の寝室の方からもう一人の気配がする。ああ、この気配は家にいるのが泥棒ではなければリタとミリアムで間違いない。
俺は抜き足差し足で、まず台所の方に向かっていった。すると案の定台所にいたのはリタだった。俺の為に夜の食事を作っている最中だ。旨そうな匂いが台所中に広がっている。俺はゆっくりとリタの近くに近づいていく。普通ならこの時点でリタに気づかれるはずだが、リタからは何の反応もない。そして意を決してリタの目線が確実に来るであろう料理の材料が置いてある横の台のすぐそばに立ってみた。
ドキドキしながら俺の方へ目線が来るのを待つ。
よし、材料を取ろうとリタが俺の方へ顔を向けたぞ。今のリタの目線だと確実に俺の姿が見えてるはずだ。いや、その目線だと絶対に見えてるよな。でも、リタは俺がここにいるのに気がつかずに材料を手に取り、そのまま調理を続けている。
おお、これほどまでに存在感と気配を消せるのか。俺の存在が空気のようなものになってるのかな。たぶん、俺が目の前で大げさなアクションをしたり、わざと相手の体に触れない限りはほぼ存在を認識されないだろう。おそらく匂いや音も遮断してくれている。相手が余程の達人か、神経を研ぎ澄ませていなければ気づかれないレベルかもしれない。リタに対する検証は大成功だ。
さあ、次は二階にいるであろうミリアムにも試してみよう。そう思ってこの場を離れようとしたら徐にリタが喋り始めた。あれ、実際は気づかれてたのかと落胆しそうになったが、どうやらそうではなくて独り言みたいだ。
「はあ、早く帰って来ないかなあたしの大好きなダーリン。あたしが腕をふるって作ってあげた料理をダーリンに旨いと言って食べてもらうと幸せな気持ちになるんだ」
「………」
思わずリタのその独り言に反応しそうになってしまった。もしかしてダーリンとは俺の事なのかな? 俺がすぐそばにいるとは知らずにリタは独り言を漏らしてしまったようだ。ありがとうリタ。君の作る料理を食べられる俺も幸せだよ。俺はそう心の中で思いながらそっとその場から離れた。
よし、今度はミリアムがいると思われる二階へ向かおう。
さっきと同じように抜き足差し足で階段を上がり、俺の寝室へと向かっていく。寝室はドアが開いており灯りがつけられて明るくなっている。俺はそっとドアから中を覗き込むとミリアムが部屋の片付けをしていた。俺が脱ぎっぱなしにして椅子にかけていた普段着を畳んでいる最中だ。
ミリアムもリタに負けず劣らず家庭的なんだよな。最初見た時はお嬢さんぽい感じの印象だったけど、父親のラモンさんの世話を焼いていたりして見た目の印象とは大違いだ。
そんなミリアムの姿を見ながら俺は寝室に普通に入っていく。普通ならこの時点で気づかれるはずだが、ミリアムは俺の存在に気づかず普段着を畳み終えて台の上に置き、次はベッドの上にある寝間着を手に取った。寝間着まで畳んでもらうなんてちょっと恥ずかしいなと思いつつミリアムを眺めていたら……ミリアムは俺の寝間着をぎゅっと胸に押し当てて抱きしめ。これまた独り言を呟き始めた。
「はあ、こうしているとエリオさんに抱きしめられてるように感じる。寝間着じゃなくてエリオさんに本当に抱きしめてもらえたらなぁ」
「………」
ミリアムよ、何してるんですか?
俺がそばにいるというのに、こんなのラモンさんにはとても見せられないですよ!
焦った俺は後ずさりしながら寝室を後にした。ミリアムに対する検証も大成功……だよな?
そのまま一階に降り、玄関からそっと外に出る。そこにはお座りをして待っていたコルとマナが俺を出迎えてくれた。
『主様、どうでしたか?』
『エリオ様、気づかれなかったでしょ?』
『ああ、確かに気づかれなかった。その代わりに俺の精神がゴリゴリと削られたよ』
俺の言葉にコルとマナは首を傾げて、それはどういう意味なんだろうという疑問を浮かべながら困った顔をしていた。
その後、俺はスキルを切って今度は普通に玄関のドアを開けてコルとマナと一緒に再び家の中に入っていった。そして今度こそ俺の帰宅に気づいたリタとミリアムが満面の笑みを浮かべながら帰宅した俺を出迎えてくれたのだった。
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