第40話 戦った豪傑に兄者と呼ばれる
練兵場での試合も終了して、参加した人達から異議も出ず正式に各組の結果が確定したようだ。
案内の人に誘導されて俺達も皆が待つ仮本部に向かう事になった。
俺の組を担当していた人に名前を確かめられていくつかあるうちの一つの部隊長就任の内示を受ける。その際、十人までは俺の希望する人物を自分の部隊に優先的に選んでいいと言われた。副隊長や参謀役などの人選も任せてもらえるらしい。後は向こうで割り振ってくれるようだ。
コルとマナに目を向けると、ようやく終わったのかとばかりに尻尾を振りながらてけてけと俺に近づいてきた。
『主様、おめでとうございます』
『エリオ様はこの中で一番強いのですから勝つのは当然の結果ですね』
『ありがとう、コル、マナ』
二匹をモフってあげるとうっとりとした顔で俺に体を寄せてくる。
ああ、癒されるなぁ。
「エリオ殿、部隊長就任おめでとう」
「どうなんですかね…皆も納得してくれるかな?」
「採用する側がこうだと決めた方式で選ばれるのなら、それに納得出来ない者は当然ここを去るしかないでしょう。エリオ殿の部隊長就任に文句を言う奴がいたならそれがしがガツンと叩きのめしてやりますぞ」
ハハハ、頼もしい限りです。
「ところで、ゴウシさんも強そうだけど何でこっちに呼ばれなかったんですかね?」
「ああ、あいつはそれがしと大差ないほど強いが性格的に多少思慮に欠けるところがありますからな。おそらく、面接での態度や印象が良くなかったのでしょう」
あー、何となくそんな感じがする。
強くても選ばれなかった人達は理由があるんだろうな。
「そうだエリオ殿。それがしからどうしてもあなたに頼みたい事があるのだがよろしいか?」
「なんです?」
「どうかこの通りだ。エリオ殿にはそれがしの兄貴分になっていただけないか?」
「えっ、俺がカウンさんの兄貴分? いやいや、弟分の間違いですよね?」
「それがしが弟分でエリオ殿が兄貴分です。間違ってはいませんぞ」
「う、嬉しいけどカウンさんはそれでいいんですか?」
「エリオ殿に惚れ申した。是非ともそれがしの兄貴分になって欲しいのです」
そう言って俺に対して深く頭を下げるカウンさん。いきなりで驚いたけど、どう見ても歳下の俺が兄貴分ってそれでいいのか? いや、カウンさんの目は冗談などではなく本気の目だ。そこまで俺を見込んでくれるなら俺もその男気に応じよう。
「はい、カウンさんがそれでよろしければお受けします」
「かたじけない。今日からエリオ殿はそれがしの兄貴分だ。例え離れ離れになったとしてもこの契は命が尽きるまで続くものです。これからはエリオ殿を兄者と呼ばせてもらおう」
おいおい、こんな豪傑が俺の弟分だなんて夢じゃないよな。
もうどうなっても知らないぞ!
そして、仮本部の大広間に着くとそこには先に来ていた合格者達が待っていた。俺ともう二人が案内役に促され、集まってる人達の前に行く。この二人が他の組で勝ち抜いた人なのかな? 一人は最初に質問をしていた人だ。
集まってる人達からざわざわと話し声が聞こえる中、どこからか張りのある大声が聞こえてきた。声の持ち主は初老の人物だった。
「皆、静粛に! 私はこの度、この街の統括官の職に就く事になったレイモン・ネルソンだ。このコウトの街で生まれ育ち、王族に連なるお方に委任された街の運営に関わる取りまとめ役としての職務を担ってきた。そして、王国の支配から離れたコウトやサゴイの街の有力者達の要請に応じ統括官の職務を受託した。私は統括責任者として街と各部隊を束ねるが、実戦の采配はこれから紹介する者達に任せるつもりである。君達の前にいる三人が三つある部隊のそれぞれの部隊長に就任する予定の者だ。これからその三人を紹介する」
会場はしーんと静まり返る。
「まず、第一部隊長はカモン・セルーゾ。筆頭隊長とする」
「カモンって名は聞いた事があるぞ」
「何であいつがここに」
「あまり良い評判は聞かないな」
「カモンが筆頭部隊長かよ」
集められた人達が小声で噂話をするのが聞こえてくる。
この人は何ともいえない威圧感の持ち主だ。
歳は三十代半ばに見える。そして、名前が知られてる人みたいだな。
「次、第二部隊長はタイン・モウト」
「元駐屯兵らしいぞ」
「ここに残ったらしいな」
「派手ではないが堅実そうに見える」
見た目は地味だが強そうな印象だ。
背はそれほどでもないが肩幅が広い。
歳は三十歳くらいかな。
もしかして次は俺の番かな。
「そして最後の第三部隊長はエリオット・ガウディ」
「誰だ? 聞かない名だな」
「あの若さで部隊長かよ。強いのかな?」
「従魔使いなのか?」
「かなりのイケメンだな。俺の好みのタイプのど真ん中だ」
俺の第一印象に疑問の声が多いのは無名だから仕方ないか。あと、何だか変な声が混じっているぞ。
「この三人がそれぞれの部隊の部隊長だ。皆、よろしく頼む。この後、正式な編成を経てここにいる者は各部隊に配属される。では、一旦休憩した後で編成を発表するのでこの場で待機していてくれ。そして部隊長に任命された三名は私の元へ来てくれ。以上だ」
ガヤガヤと喧騒冷めやらぬ中、俺と他の二人の部隊長は統括官の元へ行く。
「改めて自己紹介するが、私が統括官のレイモン・ネルソンだ。君達は私の部屋へ来てくれ」
促されてレイモン統括官の後に続き、統括官室と書かれたプレートのある部屋に案内される。コルとマナには部屋の外で待機するように命じ、開いたドアから部屋の中に入る。部屋の中は机と椅子、そしてソファーや棚などの調度品が置かれた執務室だった。
「各部隊ごとに執務室や専用施設を用意してある。全ての人選が終わったら君達には用意された各部隊の専用施設に向かってもらう。まずは部隊長となった君達はお互いに自己紹介をしてくれないか」
そう統括官に言われて先に声を上げたのは第一部隊長のカモン・セルーゾだった。
「俺がカモン・セルーゾだ。俺は人の上に立つ運命を背負って生まれてきたと自負している。俺がいればこの街は安泰だ。おまえら二人もこの俺と一緒に働けるのを光栄に思うがよいぞ」
凄い自信家だな。いくら筆頭部隊長とはいえ、最初から俺とタインさんを上から目線で格下扱いにしてくるなんてちょっと傲岸不遜すぎないか。でも、何らかの実績があるから筆頭に選ばれたのかもしれないしここは大人しくしておこう。
「私の名はタイン・モウトと申します。このコウトの街で守備部隊を任せられておりました。王国の形がなくなり国の支配を離れ部隊も解散しましたが、この街独自で部隊を編成すると聞き志願致しました。統括官殿、そしてお二方ともよろしくお願いします」
挨拶からして印象通り実直そのものって感じだな。
カモンという人に比べるとこの人には誠実さがあってとても親近感が湧く。
「それでは最後になりましたが自己紹介させて頂きます。俺の名前はエリオット・ガウディ。先日、ここから東の方向にある街で依頼されて賊徒の集団を討伐した事があり、そこのギルドから紹介されてコウトの街の部隊募集に応募させてもらいました。若輩者ではありますがよろしくお願いします」
「へー、おめえ強そうには見えないが賊徒の集団を倒したのか。少しは役に立ちそうだな」
カモンという人はマウントを取ってくるタイプみたいだ。
「うむ、それぞれ自己紹介が終わったようだな。では、自分の部隊に優先的に入れたい人物がいれば十人まで要望を聞こう。その人選が済み次第残りの割り当てを行う。一つの部隊の編成人数は二百人で三部隊の合計は六百人になる。こちらに君達の名前が書かれた所属カードも出来ているので忘れずに受け取ってくれ」
そして俺達三人はレイモン統括官に言われたように所属カードを受け取った後、給金や官舎などの細々とした説明をレクチャーされ、各々希望の人物を申請して受け入れてもらったのだった。
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