第41話 別々になってしまうのでは?
統括官の執務室を退室した俺は部屋の外で待機していたコルとマナを連れ大広間に戻る。
『コル、マナ、待たせてゴメンな』
『主様、そんなに待ってないですよ』
『エリオ様、ところで用事は済みましたか?』
『うん、用事は済んだよ』
そして、大広間に戻ってきた俺の姿を見つけたベルマンさんやバルミロさん、そしてカウンさん達が俺の元へ寄ってくる。
「ようエリオ。やっと戻ってきたな」
「フッ、こうしてエリオを待つのも仕事のうちってやつだな」
「兄者、ゴウシも兄者の弟分になりたいと言っている。認めてくださらんか?」
「カウン兄貴が惚れ込んだのなら間違いねえ。おいらもエリオを兄貴と呼ばせてもらいてえ」
ゴウシさんも俺の弟分を希望だなんて本当にいいのか?
本人に確認すると、どうしてもなりたいらしい。
そういう訳でカウンさんだけでなく、ゴウシさんも俺の弟分になってしまった。
こんな髭モジャの豪傑達が俺を兄貴分として認めてくれるのは正直嬉しい。
「エリオさんは僕だけでなくカウンさんやゴウシさんからも兄貴認定されたっすね。僕もエリオさんを義兄さんと呼ぶ仲間が増えて嬉しいっすよ」
さらっと別の意味の兄を混ぜるなロドリゴよ。
「ところでさ、エリオ。さっき部隊は三つに分かれるって聞いたけど、あたし達はどうなるの?」
「私もそれが凄く気になってます」
「エリオ殿、私達はそれぞれ別々の部隊になってしまうのではないですか?」
リタやミリアム、そしてラモンさんの心配や懸念も当然だ。所属がバラバラになってしまうのではという不安があるのだろう。
「ラモンさん、それなら大丈夫です。部隊長就任の時にこの部隊を纏める統括官からも確約されたけど、部隊長は自分で望んで選んだ十人までの人を優先的に自分の部隊に配属させてもらえるんだ。部隊長が自ら選べる信頼の置ける補佐役や腹心という側面もあるんだろう。そういう訳で俺を除いたカウンさんとゴウシさんも含めたここにいる八人は俺の部隊に入る予定になってます」
「なるほど、私達はエリオ殿と一緒の部隊になるのが決まっておるのですな。その点が気がかりだったのでそれを聞いて安心致しました」
「それで、カウンさんとラモンさんにはちょっとお願いがあるんですけど」
「何ですかな兄者?」
「カウンさんには部隊の副隊長、そしてラモンさんには参謀役をお願いしたいんです。どうか引き受けてくれませんか?」
「おお、それがしが副隊長を務めてもよろしいのですか?」
「私が部隊の参謀役に?」
「ええ、カウンさんは武の力は勿論、信頼出来る人柄だと思ったので副隊長として俺を支えて欲しいんです。そしてラモンさんはそのオールマイティーな能力で部隊全般の運営を統括してもらえると助かります」
「それほどの言葉、身に余る光栄です兄者よ」
「わかりました。私も身命を賭してエリオ殿を支えましょう」
「二人共ありがとう。各部隊に用意された執務室があるらしいので二人には俺とそこで働いてもらう予定です」
二人との話が済んだタイミングでレイモン統括官が、もう一人の男を連れて大広間に姿を現した。男の手に持たれた銀色のトレイには何かが書かれたカードの束がいくつも載っている。俺がさっき貰ったカードと同じだな。そして大きな机が用意されその上にそのトレイが置かれた。
「諸君! こちらに注目してくれ。これから諸君の各部隊への割り振りを発表する。名前を呼ばれた者は順番にこちらの机の上に置かれている所属カードを受け取り、各部隊用に用意された専用施設に向かってくれ。以上だ」
レイモン統括官の説明が終わると、横にいた男がカードを持ちそこに書かれた名前を読み上げる。名前を呼ばれた者は大広間を出てカードに記載された自分の所属する部隊名が書かれた専用施設に向かっていく。
リタやロドリゴ達も名前を呼ばれてカードを受け取り大広間から出ていく。
カウンさんとラモンさんも名前を呼ばれてカードを受け取るが、そのまま大広間を出ずに俺の元へと戻ってきた。
全ての割り振りが終了したので俺達も第三部隊の専用施設に向かう。
案内板の表示を頼りに歩いていくと、仮本部のある建物の裏手にはその半分くらいの規模の建物がいくつか並んでいた。元々はこの街の駐屯施設として使っていたのだろう。
そのうちの一つ、第三部隊専用施設と看板が掲げられた建物に入っていく。
入り口を抜けて廊下を歩いた先にある大会議室に第三部隊に配属になった者たちは既に集合しているようだ。
ドアを開けて大会議室に入ると大勢の部隊員の姿が俺の目に入ってきた。これらの人数を束ねる責任をヒシヒシと感じながらも案外緊張していない自分がそこにいた。話し声が聞こえていた大会議室内も俺の入室により一時的な静寂が部屋の中に広がる。
俺はカウンさんとラモンさんをその場に待たせ、コルとマナを連れて一段高くなっている壇上に上がり大きな声で皆に向かって話を始めた。
「皆さん、俺が第三部隊長に任命されたエリオット・ガウディです。本日からこの第三部隊の部隊長として皆と共に精一杯頑張っていくつもりです。キルト王国の崩壊によって世間では徐々に不穏な空気が広がりつつあり、この平和なコウトの街もその影響を遅かれ早かれ受けるであろうと考えられます。そしてこのコウトの街をその不穏な空気から守る為にこの部隊が結成されました。俺には皆の力が必要です。どうか力を俺に貸して欲しい。そして一緒に未来を切り開いていこうではありませんか!」
「「「応!!」」」
大きな歓声と拍手が大会議室に響き渡る。
良かった、どうやら就任演説は成功したみたいだな。
「続けて副隊長と参謀を紹介します。まず、副隊長のカウン・ルントウ」
俺に呼ばれたカウンさんがこちらへ歩いてきて俺の隣に立ち隊員に向かって自己紹介を始めた。
「それがしがこの部隊の副隊長に就任したカウン・ルントウだ。部隊長のエリオ殿はそれがしが認めた漢。そして、それがしに正々堂々とこの街が決めた方式の試合で勝った漢だ。もし、エリオ殿を侮る者がいたとしたらそれがしも侮辱されたと見做す。エリオ殿の部隊長就任に不満がある者は今すぐ名乗り出よ。エリオ殿の手を煩わせるまでもなく、それがしが全力でお相手いたそう」
「カウンって名前にあの立派な顎髭。もしかしてあの有名なカウンか?」
「間違いない、あれは烈斬のカウンだ」
「あの部隊長はカウンよりも強いのか!」
「カウン兄貴だけじゃねえ。部隊長はおいらも兄貴分と認めた漢だ。文句がある奴はこのゴウシ様が相手してやるぞ!」
ゴウシさんもいきなり叫び出したぞ。
「あいつはカウンの弟分のゴウシ!」
「カウンにも引けを取らない武の持ち主だというゴウシもここにいたのかよ!」
二人の気持ちは正直嬉しい。ありがとう。
「では次に参謀役を紹介します。参謀役はラモン・エランド」
「私が参謀役を拝命したラモン・エランドです。どうかよろしく頼みますぞ」
「ラモンって名前も聞いた事があるな」
「俺もどこかで聞いた覚えがある」
「これを持って部隊長並びに副隊長と参謀役の紹介を終わらせてもらう。あと、給金や諸手当の受け取り、そして官舎への入居希望などは仮本部の事務局で所定の手続きをしてくれ。質問も事務局で受け付けてるそうだ」
これでとりあえず就任の挨拶も無事に終わったな。
まだ色々と細かい部分は残ってるけど、何事も最初が肝心という大きなハードルを乗り越えたのでなんとかなりそうな気がする。
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